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029話 綱吉へのお仕置き

 江戸城本丸御殿 謁見の大広間


 謁見の大昼間はざわめきと怒号で喧騒と化していた。外様大名達は上様に対しての言葉とはとても思えず、親藩・譜代大名は気が触れて乱心したか、綱吉に対して無礼な行為だと思っていた。

その中の誰かが叫ぶ


「浅野殿の乱心でござる。浅野殿の乱心でござる」

「狼藉者だ、取り押さえろ。警備の者を呼べ」

「どっちでもいいから早く取り押さえろ」


 近くにいた大名達が取り押さえようと綱長ことイワレヒコに(むら)がった。イワレヒコはサッとこれを(かわ)し将軍綱吉の服を掴んだ、そしてなんと服を掴んだまま投げ飛ばしたのである。

《ドスン》という畳みに叩きつけられる音がした。

もちろんイワレヒコは死なないように、怪我もしないように手加減している。しかし老境に差し掛かった綱吉は痛むのか(うめ)いていた。そしてこれまた何と綱吉の背中を片足で踏んづけたのである。

 これはまるで餓鬼を踏む四天王や仁王像にそっくりである。踏まれる邪鬼(綱吉)に、踏んづける金剛力士(イワレヒコ)であり綱吉は苦しいのか手足をバタバタ動かしていた。


「気分はどうだ? これで少しは(しいた)げられる側の気持ちを味わうとよい。お前は生まれてからこれまで折檻(せっかん)された経験は無いだろう」


≪関羽、張飛、趙雲出番だ≫ と呼びかけた


 イワレヒコは部下と通信可能であり、()しては呼ばれる方も心待ちにしている。特に張飛なんかは綱吉とのやり取りを聞いていて、今か今かとうずうずしていた。

供侍の控え室から遠いだろうにあっという間に三人が現れる、もちろん先頭は張飛である。何処からともなく現れた3人は本来の体格に戻っていた、つまり天を突くような大男と、六尺を越える普通??の大男である。

 普通の大男と言っても江戸時代の日本人は、男で身長約155〜157cmくらいで、彼らから見れば見上げるくらいの大男という事になる。身長差30cmは現代でも『まるで大人と子供のようだ』と比喩される。

身長差50cmの関羽だが、これが張飛の顔だとするとまさに『鬼』である。幸か不幸か関羽の顔立ちは上品なので少しは救われた。



「気分はどうだ? これで少しは(しいた)げられる側の気持ちを味わうとよい。お前は生まれてからこれまで折檻(せっかん)された経験は無いだろう」

「ぐぐぐ...ぐるしい。誰か余を助けよ。こ、この不埒者を成敗せよ」

「お前なあ、この状況を理解出来ないのか? 誰も近づけんぞ。おい張飛、近づく者は遠慮なくぶっ飛ばしてやれ、許可する」

「へっへっへっ...大将待ってました、がってんでさあ♡」


 この時この三人には武器は持たしてない、もちろん強化棒も無い、素手である。謁見の間は大名しかおらず警備兵相手ではないので手加減が非常に難しい。当然ながらリミッター上限は0.01%である。

 そうこうするうちに警備兵が20人ばかりおっとり刀で駆けつけたが、難なく撃退される。張飛達は仕方なく次の警備兵を待っている。次は百人番所の全員が来るであろう、飛び道具もあるので「少しは楽しめるかも」などとほざいている、特に張飛が...


「ぐぐぐ...ぐるしい。誰か余を助けよ。こ、この不埒者を成敗せよ」

「お前なあ、家康の『誓約書』とオレの『お墨付き』を無視したな。成敗されるのはお前の方なんだよ!」


この会話が聞こえた前の方にいた大名達は


「何の話だ、家康公の誓約書とは?」

「お墨付きがあるなんて聞いたこともござらぬ」

「上様が成敗される側とは...訳がわからん??」


 大名達は支離滅裂でちょっとした恐慌状態に陥っていた。

イワレヒコはついでに言っておいた、つまり火に油を(そそ)いだのである。


「詳しくは徳川家に聞け、もしくは老中達でもいいぞ。ただし素直に教えてはくれないと思うがな」


 ≪ドタバタ≫と百人番所にいた警備兵がようやくのこと駆けつけてくる。そのうちの25人は鉄砲組だ。


「ちょっとここでは大名達が危ないなぁ...流れ玉に当たったら可哀そうだ。仕方ない、関さん・張さん・雲さん、懲らしめてあげなさい!」


...とどこかのご隠居さんのセリフをパクったのである。これを聞いて張飛は「おう待ってました」と真っ先に庭へ飛び出し行く。

 ≪パァン、パァン、パァン≫と乾いた鉄砲の音がしたが、張飛はどこ吹く風で鉄砲隊に殴り掛かった。

(鉄砲の玉? そんなもん知りません、ホムンクルスの体、舐めんなよ)



 ではここで張飛さんの大活躍を詳しく見てみよう


 指揮官の号令とともに、数24挺の火縄銃が火を噴いた。轟音と白煙が起こる。張飛は鉄砲玉が空を切るわずかな隙を突き地を蹴った。鉄砲玉が頬をかすめるが意に介さない。

鉄砲隊の目前まで迫ると、丸太のような腕を振るい、銃を構え直す兵たちを次々となぎ倒していく。


「得物も持たぬとは、我らを侮ったか!」 と隊長格の男が言う


一斉に突き出される槍。張飛はそれを左手で束ねて掴むと、恐るべき怪力で引き寄せ槍兵たちを激突させた。


「武器など必要ない、この拳があれば十分よ!」 とまたしても張飛はノリノリで答える。


飛来する矢も掴むか手刀で叩き落とした。本丸御殿の庭は張飛によって肉弾戦の舞台になった。喜悦に爛々と目を輝かせる張飛、背後には失神した百人番所の警備兵の姿があったという...

本当であろうか??......



 と言う訳で一人当たり34人片付ければいい簡単なお仕事であった。関羽・趙雲もそれなりに働いた、少しはいい運動になったかな?


「おーいみんな。今日の仕事は終わりだ、帰るぞ」


 イワレヒコが号令を掛けるまで綱吉は『踏んづけられた餓鬼状態』であった、決して忘れていた訳ではない......可哀そうに背中と腹にアザくらいはできただろう。切腹に比べれば血が出ないだけでもまだましである。


 イワレヒコ一行は悠々と江戸城本丸御殿を後にしたのである。

帰り際に行きがけの駄賃とばかり、新たに湧いて出た警備兵を50人ばかり殴り倒しての下城であった。

 綱吉はこの後10日ほど寝込んだ、背中と腹が痛かったそうである。また去り際にイワレヒコからの素敵なプレゼントもあった、つまり背中に足袋(たび)型のアザがついていたという......



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