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027話 家康の誓約書

 

 江戸城 本丸御殿 5代将軍綱吉公 謁見の間


 元禄14年12月30日(1702年1月)、謁見の間で老中達が文箱を差し出した。

蒔絵(まきえ)に漆塗りで仕上げてあり見るからに高級そうであった。とても大切な物が入っていると誰しもが思う。


「なんだこれは、なにが入っている?」


老中達は誰も口を開かない。しばらく沈黙した後じぶしぶと土屋政直が語りだす


「神君家康公の『誓約書』と『お墨付き』でございます」

「何だと! こんな物、余は見たことはないぞ何処にあった?」

「宝物庫に御座います、係の者が掃除をした際に見つけました。まずは御覧下さい」


綱吉が取り上げ目を通す。見る見るうちに怒りで顔が赤くなっていく


「これは偽物じゃ。こんな物があるとは誰からも聞いておらんし見たこともない」

「そうは言われましても家康公の花押は本物でございます」

「余は認めんぞ、こんな物あるはずが無い」


と怒りの余り綱吉は誓約書を破り捨てようとした


「あれっ 破れんぞ。むむむむむぅ くそっ! 誰かある、誰か在る。火を持て、焼き捨ててやる」


 誰かある? と呼ばれて駆けつけるのは勿論この男である。磯巾着(いそきんちゃく)側用人の柳沢吉保であった。綱吉以外には非常に評判の悪い男である。


「上様、火はここに」

「よし燃やしてやる。うむむむむ、なぜ燃えないのだ」



初代将軍徳川家康の誓約書にはこう書いてあった


            誓約書


  一. 私、徳川家康はイワレヒコ様に臣従を誓うもの也

  二. この誓約は子孫末代にわたって有効とする

  三. もしこれを破らば、徳川家は討伐されて滅んでも異存なし

  四. 安芸の国と、野貝原山には決して干渉せず



イワレヒコが家康に与えたお墨付きにはこう書いてあった


            墨付き


  一. 徳川家康を日の本の統治者と認める

  二. 安芸の国と、野貝原山には干渉無用とする

  三. もしこれを破れば、徳川家を滅ぼすもの也 




 時間は遡る 浅野綱長 現在東海道を江戸に向けて移動中 


 元禄14年12月3日(1702年1月)、広島藩主浅野綱長は江戸へ向けて出立した。

明石村でイワレヒコと会談した2日後である。

江戸時代に広島から江戸(約900km)を歩くと、約23日~30日かかった。山陽道(西国街道)で京都へ向かい、そこから東海道を東へ行くルートが一般的で、平均的な旅人は1日約30〜40km歩いていた。


 実は山陽道は11月5日以降、転封反対同盟によって岡山と姫路で封鎖された。もちろん広島藩関係者は通行出来る。他の藩は瀬戸内海を村上一族に金を払って船に乗せてもらうか、山陰道をどうぞという訳である。


 大名行列はゆっくりと東へ進んでいく。大晦日までに江戸入りすれば良かった。

イワレヒコと江戸で入れ替わるため、出府する必要はなかったが、江戸詰めの家臣達にこれまでの経緯を直接説明したかったのである。

奥や子供達にも早く会いたかった。もしかして江戸出府は今回で最後になるかも知れんな...と思いながら




 安芸の国、野貝原山 地中の拠点


『我が君よ、捕虜の扱いはどう致しますか?』

「捕虜の扱いとはなんの話だ?」

『赤穂城で捕らえた脇坂淡路守と荒木十左衛門の扱いです』

「おおー、確かそんな奴もいたなぁ。あれから8か月かぁ、随分前のことですっかり忘れてたわ。それで捕虜はどこにいるんだ?」

『そのまま赤穂城に捕らえております、今は捕虜と言うより客人扱いです』

「そうか、荒木はそのまま開放してやれ。脇坂は開放してもなぁ、行くところが無いよなぁ...本人の意思を確認してみるか...脇坂を捕らえたのは誰だったか?」

『黄忠殿です』

「じゃあ、黄忠が帰り次第脇坂に会って意思を確認してくれ」

『ちょうど例の任務であのあたにいるかも知れません。通信してみましょう』 


例の任務とは赤穂浪士の遺体回収任務のことで、山陽道を西に移動しているはずである。




 播磨(はりま)の国 播州 赤穂城


 元禄14年12月21日(1702年1月)、孔明から指示を受け取った黄忠は急遽赤穂城へ向かった。

脇坂淡路守に会うためである。8か月に渡る捕虜生活でやつれていると思いきや以外に血色は良い。


「脇坂殿、久し振りじゃのう。今日参ったのはお主の意思を確認するためじゃ。今後の身の振り方はどうするのかという事じゃよ」

「身の振り方をどうするのかと言われても、改易にあった身では...どうしたものか」

「龍野藩領地はこちらが既に接収しておる。お主には二つの選択肢がある。一つはこのままここを出て自由に生きるのも良し、もう一つはわが主に臣従する事じゃよ」

「ちなみに木下肥後守殿はいかがしておりましょうが?」

「あれは誠の武人じゃ、領主より武芸者に向いておるのう。今は我らの仲間で生き生きしておる」

「では、ともに囚われの身となった荒木殿はどうなるのでしょうか」

「荒木殿はこのまま開放されるはずじゃ、あれは幕臣なので捕虜にしておく意味がない」


 結局、脇坂淡路守はイワレヒコに臣従する道を選んだ。イワレヒコは脇坂が臣従した場合、旧龍野藩領を任せる事にしていた。もともと龍野藩主だったので、馴染みがあり大変都合が良かったのである。

 かくして脇坂淡路守は龍野領へ、荒木十左衛門は江戸へ............戻らなかった。脇坂と組んで龍野領を発展させたいとの事である。旗本なので江戸に戻ってもその後、負け戦に駆り出されるのが嫌なんだとか......


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