025話 討ち入りの気配
江戸城 老中評定の間
元禄14年11月17日、<転封反対同盟>に参加した大名家の妻子、江戸詰めの家臣、一族郎党とかなりの人数が堂々と徒党を組んで江戸を脱出した翌日の事である。
今朝未明に急を知らせる使者が老中達の屋敷に来た、大名家の妻子を含む大人数が江戸から出たと言うのであった。これに対応すべく緊急登城である。
老中評定の間でいつものように円座になり、座席順に稲葉正通、小笠原長重、秋元喬知である。筆頭格の土屋政直が司会役で評定が始まった。
「各々方の屋敷にも緊急の知らせが届いたはずだが、どう思われる?」
「諸侯の妻子、一族郎党が徒党を組んで江戸を出たとは前代未聞のであろう」
「出入り口の番所の役人はいったい何をしていたのだ?」
「まあそう言っても番所の役人は常時20人くらいであろう、何百人も押し寄せれば対応に限界がござろう。増援を呼んでも深夜に駆けつけられるのは精々100人程度である」
各々の意見が一回りして土屋政直が
「続いての知らせだが増援に駆けつけた者が60人ほど死んだらしい、棒に殴られての撲殺という事だ。居合わせた他の役人によると撲殺されたのは、刀を抜いて切りかかった者だけだ。六尺棒で取り押さえようとした役人は打撲傷で済んだという報告だ」
「これはいったい何を意味するのか?」
「ともかく上様に報告しなければと思うと気が滅入りますな」
「そうだ」
「その通り」
「全く同感でござる」
この評定の間にいる老中達にもこれ以上対処しようがなかった。これにて協議終了、これを烏合の衆と言うなかれ! 少しだけ無能なだけである。
大名行列(妻子を含む)のその後
江戸を出た大名妻子一行は東海道を西に下っていた。横浜を過ぎると小田原に向かわずに浦賀方面へ、つまり海路で姫路・岡山を目指すことになる。
この調達した船?... 訳ありである。孔明が調達した物であるが、以前のイワレヒコとの会話で許可を得ていた、つまり都合の良いように拡大解釈した訳である。
この船らしき物は実は拠点の地下深くに格納されていた救命艇だ。詳しい説明は省略するがその救命艇を木造船に見えるように偽装していた。空も飛べたりするが『あくまでも木造船でございます』...と孔明の弁。
木造船に偽装された船はおよそ長さ50m幅15mくらいである、元は救命艇なので当たり前...である。大名家一つにつき一艘を割り当てられた。乗れない健全な者は陸路で姫路・岡山・津山までどうぞ。あくまでも女子供・年寄が優先なのである。
安芸の国、野貝原山 地中の拠点
『我が君よ、報告がございます。岡山池田家、森家、本多家の妻子一行は無事江戸を脱出して海路で西を目指しています』
「それは重畳、怪我人などは出なかったか?」
『はい全員無傷です。ところでもうそろ史実での討ち入りの日(史実より1年早い)が近づいております。赤穂浪士達が敵討ちの計画を立てていますがどうしますか? 』
「どうするも、こうするもオレには関係ねえ。好きにさせたらいい」
『畏まりました、ではそのように致します』
「ああそれと欲しい奴が幾人かいるが、そっちの手配も頼む。腕も立ち根性の座った奴が多そうだな」
『生死は問わずでしょうか』
「ああ、武士の本懐を遂げさせてやれ。その方が未練も残さず後々役に立つぞ」
イワレヒコはこれで少しは人員補充ができるぞ...とほくそ笑むのであった。
安芸の国、野貝原山麓 明石村
元禄14年12月1日(1702年1月)、広島藩主浅野綱長はイワレヒコに呼び出されて、ここイワレヒコ神社に来ていた。上田主水ほか護衛数人のいつものメンバーであった。
拝殿裏の部屋で待っているとイワレヒコと関羽が入ってきた。皆は一斉に平伏して声を待つ
「皆の者ご苦労である、面をあげよ」
といつもと違ったイワレヒコの声がかかる。皆がゆっくりと顔を上げイワレヒコの顔を見て固まった。そこにはもう一人の浅野綱長がいるではないか。上田主水が
「殿が二人、これはどういう事でこざいましょうか?」
「全く瓜二つ、これでは見分けがつきませぬ」
と護衛の家臣達が言うとイワレヒコは
「浅野内匠頭になれるんだ、浅野綱長になれても不思議はなかろう。オレにとってはただの依り代だ」
「ははぁ 恐れ入ってございます」
と一同が言うとイワレヒコは要件を切り出した
「網長は来年の新年に合わせて江戸に行くと聞いた。実はなオレも行って江戸城に登城してみようと思う。登城は綱長の身代わりだな。そこで奴、将軍綱吉の顔を拝んでやるつもりだ」
「どういう事でございましょうか?」
「まあ決別宣言だな、将軍家と浅野家のな。それともお前、将軍綱吉に向かって堂々とケンカを売れるか?」
「と、とんでもございません。某にはとても無理です」
「じゃあ決定な。ああそれと赤穂絡みの件だが、赤穂浪士が吉良邸へ討ち入るらしい。孔明が掴んだ情報によると12月14日か濃厚とのことだ。これに関してはどうする?」
「どうすると言われても、縁戚と言えども別家なのでどうしようもありませぬ」
「なら放置でいいんだな?」
「赤穂に関しては放置で結構でございます」
この件はこれで終わった。次にイワレヒコは綱長の声でしゃべり出す。すると上田主水が深く一礼して
「イワレヒコ様、お願いが御座います。その殿の姿をお貸し下され、殿の影武者にしとうございます」
「断る! 今時分影武者なんて必要ないだろう」
「それはそうですが、殿に代わりまして政務などして頂ければ...と思いました」
「何、それはワシはいらんという事か? この綱長一生の不覚である」
影武者と言うより、代わりに『書類仕事を片付けてくれる便利な人』が求められるとは世も末である...




