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PWLA(パウラ)  作者: EST
3/4

俺と勝負だ!

キャラクター紹介

出本いずもと はじめ

主人公、極度のルーティン遵守癖があり。自己が定めた決め事を破るのを極度に嫌う。あだ名はロボット。

等級ランクなし。


虹宮にじみや レイン

出本の幼馴染でライバル。彼とは対照的に極度の気分屋でいつも周りを振り回す。自信家で絵に描いたような「エゴイスト」である。

等級ランクプラチナ。


風見かざみ はな

同じく2人の幼馴染。2人の喧嘩を楽しそうにいつも眺めている。ぼーっとしている様で意外と聡明で2人の仲裁役もこなす。科学オタク。


あらすじ

時は2100年、日本は並行世界の観測に成功しそこからエネルギを得ることで未曾有の技術発展をしていた!

中でも並行世界の自分を憑依させ人ならざる力と能力をある技術「PWLA」は日本にさまざまな発展をもたらした。

そんな「PWLA」を使用した者同士が雌雄を決するスポーツ、研鑽カット戦のトップを目指すべくはじめレインは適性検査を受けるが、高適性を示した雨を他所に一は適性無しという結果を叩きつけられた____!

はじめが適性無しと申告されて1ヶ月後__


進学した高専の入学式の日である。

3人はキャリーケースを携え校舎へ向かうバスへ乗っていた...。


「それにしてもすごいね〜、こんなに設備も環境も充実してる...学校とは思えないよ」


はなは学校のパンフレットを広げながら感嘆の声を上げる。


「送迎バスに遠方の学生には個室の寮も用意されてるみたい、ご飯なんかすっごく美味しそう...!」


「それだけじゃないわ...トレーニングジムにカフェ、スパ施設なんかも充実してる...最早テーマパークね。」


れいんが続けて話す。隣で聞いていたはじめは窓の外を眺めながら口を開く。


「それも高ランク、もしくは成績優秀者しか使えないみたいだがな。まさしく実力主義ってことだ...」


「そう!つまり私はフリーパス間違いなしってこと!実力主義最高!!さすがは私よね!」


あからさまに鼻をたかだかと上げながら胸を張るレイン


「えー?羨ましいなぁ...レイちゃん私にも分けてよね?」


「仕方ないわね、まぁ貴方たちは特別に私の権利にあやかることを許可...、はじめ?...聞いてる?」


いつもなら突っかかってくる所を黙っていたのを訝しむ。一は先ほどと同じ様に窓の外を眺めながら口を開く。


「...あぁ」


「はぁ...気持ちはわかるけどそろそろ切り替えなさいよ。いつまでもうだうだ落ち込んでるなんてアンタらしくなさすぎて気持ち悪い...」


「それは言い過ぎだよレイちゃん、はじめちゃんがどれだけジュエルになるのを夢見てたか1番知ってるのはレイちゃんでしょ?逆の立場だったら___」


「それでも___!」


レインはバスの中であるのを思い出してハッとする。


「ごめんなさい...」


「...」


重い空気を運びながら、バスは校舎へ向かってゆく...



「えー、それでは、以上を持ちまして入学式を終了します。」


教員がマイク越しに話し終える。

長々とした前振りもこれで終わり、遂に彼等の高専生活が始まる。


と、1人の男が壇上に上がり演説台の前に立つ。


「続きまして、レクリエーションとして生徒会会長より本校の説明をさせていただきます。」


教員が檀下で続ける。だがその言葉は生徒たちの耳に入っていなかった。

否、生徒というより主には女生徒達である。


「めちゃくちゃイケメン__」

「あれが噂の__」

「ヤバい、生で見る『救世主メシア』様かっこよすぎ___」


騒然とする女生徒達を待つ様に生徒会長は壇上から動かない。


「んぇ、何?もう終わった?」


入学式の退屈に耐えかねて寝ていたレインが目をしました。はじめは呆れた様子で横目でレインを見る。


「まだだ、噂の『救世主メシア』が登壇中だよ」


「誰それ?」


「お前もみてたろ、去年の全国大会ベスト8の__」

「思い出した!そうだあのなんかちょっとイけ好かない感じの__」


「みなさん初めまして」


「「「「キャーーーーッ」」」」


「うるさっ」


あまりの喧騒に2人は耳を塞ぐ。しかし慣れた様子で『救世主』は話を進める。


「みなさん元気があって良いですね、ですが私は声を張るのが苦手なので少しの間静かにお願い出来ますか?」


「「「「___!!!」」」」


室内の声量は一気に下がった、が、声を我慢する代わりに身振り手振りで各々興奮を表し始める。


「静かになったけど今度は動きがうるさいわね」


「まぁ仕方ないだろ、なんならアイドルより今人気じゃないか?」


2人は少しうんざりしながらため息をつく。


「でもほんとにイケメンさんだよね、私は好きだなぁ真面目そうで」


「いやいや、絶対つまらないでしょあんな男。私は堅苦しそうで無理だわ」


「俺みたいにってか?」


「そうそう、でも目つきの悪さでアンタに分配が上がるわね」


「殴って良いか?」


「なに?る?」


2人の間で火花が散るのを他所に話が進む。


「まずは自己紹介を、私は生徒会会長の花治かじ けいです。どうぞよろしく。」


柔らかな笑みを浮かべながら花治かじはスライドに映像を映し出してさらに話を続ける。


「改めてご入学おめでとうございます。これから皆さんはこの清流カット高等専門学校で、4年間お互いに切磋琢磨して行くことになります」


スライドには校内の設備や地図が映し出される。


「文字通り、我が清流高専では古くは夢想戦と言われている現代日本の最大競技。カットを主軸に設備やカリキュラムが組まれています」


スライドにはパンフレットに載っていた施設設備、その他にも充実されたサポート等が映し出され説明が入る。


「さて、こうした中で我が校にはルール。つまり校則が当然あります。その中で最も大事なのが...」


先程まで笑みを浮かべていた顔が、一変し冷ややかな眼差しが檀下の生徒に向けられる。


「強さが正義、であること」


空気がピリつく。先程まで浮き足立っていた女生徒達も最早一言も喋ってはいない。それどころか生唾を飲み込む音すら聞こえてきそうである。


「今説明した施設や設備、果てはこの高専での人権すら強さが全てです。弱きものは自由も正義も語れない、故に皆さんには___」


フッ、と元の笑みに戻っては声音も柔らかく戻り...。


「ぜひ、研鑽を積みこの清流にて強さを手にしてほしい。以上です」


静まり返った室内を他所に、優雅に退場する彼を眺めながら。はじめレインは静かに拳を握っていた...。


「あれが全国ベスト8ねぇ...、確かに貫禄はあったわね。好みじゃないけど。」


3人は体育館を後にし、とある場所に向かいながら感想を話し合っていた。


「お前の好みは置いておくとして、確かに覇気はあったな...確か等級ランクは確か、プリズムだったな。」


「確か1番上のランクだよね?すごーい!、やっぱり学校で1番強いのかな?」


「噂だとトップ3みたい、上には上があるってことね。」


と、前置きしながら不敵な笑みを雨は浮かべる。


「でも関係ないわ、誰がどれだけ上にいようがすぐに私が追い越してこの高専のトップに君臨するから!」


「良い心がけだね、応援するよ」


3人の後ろから聞いたことのある声が聞こえる。さらに言えば聞いたのはついさっきのものである。


「生徒会長...」


花治かじでいいよ、肩書は堅苦しくてあんまり好きじゃないんだ。」


噂をすれば影、と言わんばかりのタイミングで声をかけられてはレインは訝しむ様な顔で見つめる。


「もしかして後ろを付けてました?盗み聞きなんて見た目よりなかなかワルなことしますね?」


わかりやすい挑発的な態度にはじめは咄嗟に眉を顰めて嗜める。


「オイ、先輩相手にその態度は__」


「あぁ、大丈夫だよ。こういう負けん気は大事だからね、僕にこういう些細な子もあんまりいないから嬉しいよ。」


負けん気はさておき器では既に負けているな、と内心一はじめは思いながらもそれならと口を開く。


「まぁなら良いですが...因みに何か御用でしたか?」


一は閑話休題しては本題に入ろうと質問をする。

すると花治カジは先程演説前に見せた笑みを浮かべて言う。


「いや、毎回新入生で等級がプラチナ以上の子には声をかけてるんだよ。虹宮さんだったよね?君には期待しているよ、ぜひ今度生徒会室にくると良い。歓迎させてもらうからさ。」


花治は手を差し伸べ握手を雨に求める。それを眺めながら、再び挑発的な笑みを浮かべて手ではなく口を出し始める。


「なるほど、そうやって自分の勢力を確保してるってわけね。やっぱり先輩って見た目よりワルですね?」


「...ふられちゃったかな?」


笑みのまま、しかし確かに空気が少し重くなるのをそこにいる者は感じる。

一がストップをかけようと口を開いて__


「___ハ、青春だな、これも若さか。まぁ落ち込むな生徒会長。」


少しダミの効いたような、しかしどこか惹かれる女性の声が花治の後ろから聞こえてくる


「朱井先生...。まぁそうですね、不甲斐ないですが。」


空気が明るさを取り戻したのを感じながら、一は冷や汗を拭ってついでにレインを膝でこづいておく。


「朱井先生って...あの並行世界パラレル特異点とくいてん論の朱井あかい アイン先生ですか!?」


予想外にも食いついたのは華だった。そんな反応に2人は少し驚きながらも朱井は慣れた様子で応える。


「珍しいね、私のファンだなんて。好きなの?」


「それはもう!去年のサイエンス誌も見ました!個人的には特異点論より量子力学と多世界物理学の方が面白い論文が多くて好きなんですが...」


これを聞いて今度は朱井が驚きの表情をとる。


「ほんとに驚いた、まさかそこまで読んでるとは...若いのにスゴイじゃん。...いやこれも若さか。」


「はい!かれこれ5年前から読み漁ってまして...特に89年に出してた平行宇宙どうしが与える物理影響の重力関数の証明の___」


華の話の速度と量が加速する。他の3人を遥か彼方に置いてゆく。


「ハハ、格好つかないな全く。まぁ仕方ない、収穫もあったし僕はこれで。これから個人戦で当たるかもしれないから、その時は注意しておくよ虹宮さん。それじゃぁ__」


「待ってください」


踵を返そうとした花治を雨が呼び止める。一は少し遅れて雨が何かをやらかすのを察知し口を開こうとするが時は既に遅く...。


「そうやって余裕ぶってると、私と当たる前に足元掬われかけませんよ?例えばコイツとか。」


「__、は?」


雨は渾身のキメ顔で一を指さしていた、あまりの無茶苦茶に一は硬直したまま呆然としてしまう。


「...確か今年のプラチナは3人までだったはずだけど、キミは?」


「...えっ?あ、いや...自分は、」


少し戸惑いながらそれでも続ける。


「等級は無しです。適性が無いと...」


「...なるほど、確かに。灯台下暗しか__」


花治はしばらく一を眺めた後、納得したようにフッと微笑んでは。踵を返して軽く振り返る。


「忠告ありがとう。つまづかないように精進するよ。2人ともが敵になるのが楽しみだ」


「...やっぱり性悪だわアイツ」


後ろ姿を眺めながら雨がムスッとした顔で呟く。


「お前態度悪すぎるだろ、まぁいつものことだが...」


「アンタめでたいわね、今煽られたのよ?つまづかないようにって、つまり一を道端の石ってそう言ったのよ!?」


「考えすぎだろ...お前ほど捻じ曲がっては無いって...」


「いや、間違いないわ。私と同じ匂いがしたもの、同類ってやつよ。」


確信があるようで断言をする雨に、ため息をつきながら一はふと華の方を見る。


「それから一昨年の平行宇宙のブラックホールから考える特異点定理なんか__」


「華...その辺にしとかないと先生困るだろ...。」


あっちが終われば今度はこっち、量子加速さるが如き速さでしゃべる華の肩を叩いて一は話を中断させる。


「いやいや、私も久しくこんな生徒は居なかったから楽しかったさ。それにこれも若さってやつだ、分けてもらえるだけ感謝だね。」


と、やたらと年増のような発言をする姿からはまるで歳を感じさせない風貌に一と雨は違和感を覚えつつも話を切り上げにかかる。


「それなら良かったですが。お忙しいでしょうし俺たちはこれで__」


「あぁ待った!私も実は用があってね。逆にキミたち時間は大丈夫かな?」


「私たちにですか?」


華が嬉しそうに返事をするが、少し朱井は申し訳なさそうにする。


「あ、いや、用があるのは虹宮君だけだが...まぁ良かったらキミたちも付き合ってくれよ。」


「...それなら俺は遠慮しておきます。3時から予定が_」


「何言ってるの!?朱井先生の誘いだよ!?並行世界パラレル物理学の大御所中の大御所だよ?!こんな機会滅多にどころか二度と無いかもなんだよ!?勿体無いよ!?」


ラッパーみたいに捲し立てる雨にタジタジになりながらも一は再び断る。


「いや、俺そう言うのよくわからないし。それに_」


「良いじゃ無い、どうせ昼前で時間もまだあるし付き合いなさいよ。」


「いやしかし」


「イイから」


「...」


いつもの高飛車な態度とはまた少し違う、どこか拗ねたような圧に考え込むように一は黙ってしまう。


「...いいね、青春だ、若さってやつだ。まぁまぁ、時間はそんなに取らせないさ。終わったらすぐに帰れるから、な?それでイイだろ少年?」


大人からの気遣いをされては、断るのもばつが悪くなってしまう。


「分かりました、少しなら...」


一は小さく頷きついて行くことにした。


朱井は体育館を出てそのまま隣のさらに一際大きい建物へと入って行く。施設の中でも一際大きいそれは他の校舎や建物より雰囲気が違う様相をしていた。


「ここは接続者...俗に言うジュエルの実験や研究をしてる施設でね。人が人ならざる力を持ってしまうだけに多少頑丈な作りにしなければ行けないからまぁ広いこと...もう少し歩くが我慢してくれ。」


「でも研鑽カット戦では実際の損害はほぼゼロになるはずじゃ...」


一は疑問を投げかける。朱井は慣れたように返答をする。


「確かに、今の研鑽カット戦は起きた結果を他世界へ分散させる技術によって無かったことにできるし、それによって実験の危険性も格段に下がってる。でも一応その安全装置を外した実験もできるんだよここは、まぁ制限も多いしほとんど出来ないから意味はあんまり無いがね。」


話し終えたところである部屋の扉を開ける。


「無論、今からすることも安全だから安心してくれ。学者としてのプライドに賭けよう。」


部屋に入っていけば、1人の男が計測器が並ぶ机の前に座っていて、朱井の言葉に反応する。


「いい加減にしてください、ここは貴方の実験場ではありませんよ?」


「硬いこと言うな菊地くん、そんなんだから顔が老けるんだぞ?」


菊地は少しやつれたような、苦労人という言葉がぴったりな顔で少し項垂れ頭を抱える。


「それについてはあなたが原因の8割です。とにかく私は止めましたからね?」


「...なんでもいいけど話を進めてもらえます?」


雨は痺れを切らせて口を開く。退屈を1番嫌う彼女にとっては今の状態は我慢の限界であった。


「おっと悪い悪い。とりあえず説明しようか、今から虹宮くんには一足早くにPWLAパウラをしてもらう。そのデータを取らせて欲しいってそう言う話、簡単でしょ?」


「良いんですか?まだ授業も安全教育も何も受けてないんだけど...」


通常、結果分散という技術的安全装置があるとはいえ、使いようによっては簡単に怪我や死人が出るPWLAは使用するのにいくつかの安全教育が必要となる。


いわば免許なしで車を運転するような事をしようと言う話に、雨は期待と裏腹に流石に懐疑的にならざるを得なくなる。


「まぁルール上はね?でも申請と監督として2名の資格者がいれば接続ヘンシンまでは大丈夫ってわけ。」


「責任を取るのもその資格者ですけどね。毎度巻き込まれる僕の身になって欲しいですねホント」


説明を受けて納得しながら、それでも不思議な様子で一は疑問を口にする。


「それでも何故今なんですか?別に後々調べるなんていくらでも...」


「虹宮くんの世界線ワールド捕捉範囲レンジは確か6だったね?」


朱井は話を遮り雨に質問をする。


「え?はい、そうだけど。」


「これが理由、6なんて数値生まれて初めて聞いたわ。そんな興味が尽きない検た...こほん、才能の原石なんて一刻も早く調べたい。研究者として当然の話だろ?」


「今検体って言おうとしなかった?やばいんじゃ無いのかなマッドサイエンティスト」


「失礼だよレイちゃん!!朱井先生はこの界隈のものすっごい権威者で___」


「わかったわかったから...まぁとにかく話はわかったわ。私も自分がどんな力を手にできるのか...もう我慢できないもの、ちょうど良いからその研究とやらを手伝ってあげるわ。」


意気揚々と準備を始める2人を眺めながら、一と菊地は同時にため息をつく。


「おや、どうやらキミも振り回されてる側の人間みたいだね」


菊地はやれやれと言わんばかりの苦笑いで同情的に声をかける。


「まぁ、俺は持ちつ持たれつなところもありますけどね。菊地さんはだいぶ苦労されてるんですね」


「まぁ見ての通りさ、この校内の研究者は彼女の無茶についていけなくなって皆敬遠してるんだ。」


「じゃぁ、なんで菊地さんは?」


不思議そうに一は首を傾げる。側から見れば1番敬遠したそうな人であるのに、と。


「まぁ出来ればそうしたいが、誰か手綱を握らないと大惨事になるからね。それを見て見ぬ振り出来るほどの度胸がないってだけだよ」


まさしく時限爆弾、知らぬ間に地雷へと変わる前に処理を進めたいと言う話だった。


「大変ですね」


「いや全くホントにね」


どこか楽しそうなその表情を眺めながら、それを心に留めつつ別の疑問を一は投げかける。


「しかし、さっきはああ言ってましたけど。ほんとにいきなりやっても大丈夫なんですか?」


「そりゃぁ危険はあるよ、だって資格者が2人も監督しなきゃいけないんだから」


「そうですよね、あれだけ自信満々に言うんだから流石に安ぜ...え?」


「というか、危険があるからこそ先に見ておきたかったと言うのもあると思うよ。初授業で事故を起こすよりはマシだってね」


「ど、どう言う...」


「まぁ可能性は低いから安心しなよ。もしもの時は僕がちゃんと止めるから。」


「...」


そんなことはつゆ知らず、約30㎡の広さがある実験室に入った雨はPWLAリングを右腕に装着して準備を終えていた。


「では雨くん、先ほど教えた通りにしてくれ。あとは装置が自動で進める。」


「____」


彼女は室内で深呼吸する。

鼓動と自身の思考を確かめるように。


はじめの事、彼の適性は無く自分はすでに先にスタートしてしまった。


いつものことだ、いつも自分より後ろの位置でスタートする癖に気がつけば追い越されている。


気がつけば後を追っているのはいつも自分...。

だから今回もきっとそうだ。


そうに違いない___と自身に言い聞かせながら集中する。


そうして言い聞かせないとあの思考が自身の集中を掻き乱すのに良い加減我慢ができなくなっていた。


『もうアイツは私と張り合ってくれなくなる?』


『私はまた1人になる____?』


『置いていかれる?』


思考を打ち消すように強めに呼吸をする。

今は目の前のことに集中しろと。


自身の夢の一歩目、自身の可能性を今から目に、そして手にする。

高揚と期待が不安を上回る。


確かに沸り駆け巡る血流を感じながら頬を釣り上げ呟く。


「面白くなってきたわね」


彼女は腕につけたPWLAリングを上に掲げ装置発動の掛け声を謳い挙げる。


観測コネクト開始オン!PWLAスタート!」


世界線ワールド捕捉範囲レンジ自己エゴ捕捉数カウント計測開始】


【世界線捕捉範囲6。自己捕捉数42】


装置から自動音声にてアナウンスが始まる、そこから腕を中心に彼女の体の輪郭が煌めき、エネルギーのようなものがどこからともなく沸き始める。

やがて彼女の周囲に彼女と同じ姿の薄い輪郭のようなものが無数に現れて身体からだへと重なってゆく。


収束リンク開始オン


音声と同時に複数あった朧げな輪郭は完全に一つとなり、輝きは一瞬目も眩むような閃光となる。


「!!」


目を覆いながら行く末を皆が見届ける。やがて光が少しおさまれば彼女の姿もだんだんと見え始めてくる。


「...へぇ、なるほど。系統タイプ超能力者サイキッカーか___」


計器モニターを見ながら朱井は呟く、しかしその言葉も聞こえないほどに一達は彼女の姿に目を奪われていた。


「___これが、私」


白金色に体を包むオーラを自身で眺めながら雨は呟く。

確かめるように手を握ったり軽く体を動かし感触を確かめる。


「すごい...これがPWLA...」


徐々に実感が湧いてくる、研ぎ澄まされる感覚、否応にでも自覚する身体の調子の良さ。まるでなんでも出来るような万能感を確信するほどの、それほどの力が今手に握られている感覚。


彼女はその感覚を自覚していくとともに声が上ずる。


「これが私...これが____」


次の瞬間、途端にその感覚は霧散する。

否無数の思考にかき消される。


「あっ......はっ...?」


彼女の脳内にフラッシュバックするような、連続でスライドされるような感覚でさまざまな記憶が流れていく。


見知らないはずなのに見飽きた天井を眺めながら絶望と諦観を覚える記憶。

知らないはずなのに見覚えのある顔の研究員?の指示に従う記憶。

動物を自身の『力』で殺す記憶。

痛く苦しいだけの時間が無限とも思えるような続く記憶。

そして、『彼』が血塗れで伏している記憶。


「あ、...ぁあ...」


知らないはずなのに、間違いなく『事実』だと確信するほどの現実性リアリティのある記憶。

触れたこともないのに忘れもしない冷たい体と血液の感触。


「ふっ...ふっ...!ふぅッ...!!」


汚濁のように押し寄せる記憶に頭を抱えながら彼女の頭は青白く光り始める。


「___いやぁああぁあぁぁぁああああああああ!!!!」


咆哮にも似た悲鳴とともに彼女を中心としたエネルギー波が実験室全体を叩き部屋を揺らす。


「なっ!?...せ、先生これは!?」


彼女の豹変ぶりに一は慌てて朱井に質問を投げる。


「やっぱりか、記憶メモリー侵食バグだよ。しかも重症だね。」


「メモリーバグ??」


「PWLAは知っての通り無数の他世界にいる自分を自信に憑依させる技術だ。つまり他の世界の自分の経験や記憶にも触れることができる。」


質問に朱井ではなく菊地が答える。さらに彼は続ける。


「通常ゴールドランクくらいまでは朧げに覚えたり、夢のように忘れたりするのが普通だが。プラチナ以上のもの達はこの現象が強く出るんだ、結果記憶が混同してパニックを起こしたりするわけだけど...。」


説明をしている菊池も冷や汗を浮かべる。一は知見者ですら危険と判断する事態と理解し声を荒げる。


「じゃぁ!ど、どうにかしないと...!!」


「と言ってもここで私たちにできることは少ない、無理やり接続を解除することもできるが。最悪記憶障害やPTSDになりかねない、ここは落ち着くまで待つしかないんだけど...」


朱井は今も部屋で念動力を振り回して錯乱する雨を冷静に眺めながら呟く。


「強力な力を宿すものほど厳しい運命を背負うもの。好奇の目に晒され、力を利用され、誰かを傷つけ罪を背負い苛まれる。...これを乗り越えなければ可能性は開かれない。私たちにできることは見守ることだよ。」


「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?あ、アイツ今にも吐きそうな顔してる!今すぐ助けないと!!」


彼の発言に朱井はため息をつく。


「それで彼女の可能性は開けない、むしろ狭まる...いや閉ざすことにもなりかねないんだ。そんなこと誰にも許されない...。もしそれができるなら___彼女と同じだけの力と覚悟が必要だ」


彼女に思わず掴みかかろうとした一にさらに朱井は続ける。


「彼女はこれを知った上でこの実験に臨んでいる」


「えっ?...」


「当然だろう?、私が説明もせずに実験に臨ませるわけがない。マッドサイエンティストでもしないさ」


一は押し黙る他なかった。これは事故ではなく挑戦なのだと。

それも彼女にとっては一世一代の文字通り魂をかけた渾身の挑戦。


それを邪魔できるわけがない。

それは彼女の夢を否定すること。


資格のないものが妨げるなど尚のこと許されない。


「まぁでも、本当に危ない場合は止めますよ?」


「菊地ぃ、お前は変わらんな本当に。良いから黙って見てろ。」


「いいえ、私が責任を半分負う以上はこれは譲りません。嫌なら__」


だが


「____ はじめくん!?」


それでも


「(資格がなくても、力がなくても___)」


どうしても


「お前を置いていくわけにはいかない!!!」


PWLAリングを腕に装着しながら実験室に突入する。


「馬鹿な!?自殺行為だ、すぐに戻るんだ一くん!オイ!」


静止も張り切り実験室の扉を押し開け謳い上げる。


観測コネクト開始オン!!」


「くっ!もうダメです!2人のリングを緊急停止させます____!」


明らかな緊急事態に慌てて装置を操作しようとする菊地の腕を朱井が掴む。


「良い加減に____!」


「___マジか」


「、はい?」


2人の耳に装置の音声が入ってくる。


「世界線捕捉範囲1______」


耳を疑うような事実に唖然としてしまう。


「自己捕捉数____」


自己捕捉数の現在の世界記録は69である。


「___100」


朱井は心底楽しそうな笑みを浮かべながら彼の煌めきを眺めながら呟く。


「なるほど、才能はないが...資質は持ってたのか。____若さって奴はやっぱり最高だな。」


一の体の輪郭は雨とも違う虹色の輝きを放ちながら、確かな存在感を持って彼女の目の前に立つ。


「____ぁ」


さまざまな感情、感覚、感情に襲われながら...しかし彼の目は真っ直ぐと迷わず彼女を見据える。


目的は一つ、方法も一つ。

彼にとってはこんな情報の坩堝も関係はない。


腰を低く構え、空気をめいいっぱい吸い込めば____


「俺と勝負だ!!____」


彼は大量の混入してくる記憶の中からあの日を思い出し笑う。


「さぁ、ゴールまで一直線だ。」

一は適正なしではなかった!

それどころか史上初の自己捕捉数100越え!?

未だ記憶侵食の中苦しむ雨を救えるのか!?

彼の能力は?

勝負の結果は____


次回【切れ!スタートダッシュ】

どうぞお楽しみください。

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