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第34話 灰の余熱

「だいぶルートから逸れちゃったけど、皆無事でよかったわ」


 レッドと合流を果たしたシロウたち一同は、砂漠に刻まれたタイヤ跡を辿るように踵を返していた。

 逃走の時ほどの速度は出さず、ゆっくりと何かを探すように辺りを見渡している。


『お、見つけたわよ!』


 前方を走るレッドの無線機を通した軽快な声音が、シロウの胸元の無線機から弾んだ。宝物を見つけたような陽気さが漏れている。


『ガスマスクの男と、バイク見つけたわよ! 大事なスカベンジのお時間ね。辺りを警戒しておくから。シロウ! ちゃちゃっと終わらせなさい!』


 レッドはバイクの歩みを緩めると先行をシロウに譲り、自身はドラグノフ狙撃銃を胸元に降ろして構えた。


 シロウはバイクを付近に止めて降り立つと、ナナにはそのまま待機を指示した。砂山に埋もれた男とバイクに警戒を向けつつ、ゆっくりと接近する。


 背中のホルスターからソードオフを構え、辺りを窺う。


「バイクはガソリンタンクが多少の漏れ程度か……よし、上々だ」


 シロウは容赦なく足先でガスマスク男の頭部を蹴り上げると、無力にも力なく崩れて事切れている。


 とどめを刺す必要性がないことと、バイクの誘爆性の危険がないことを判断して警戒の色を薄める。

 ホルスターにソードオフを収め、死体からスカベンジを開始した。


 シロウは付近の砂山に、突き刺さるように銃身が埋まっていたアサルトライフルを抜くと、砂埃を払って状態を確認する。


「M4カービンか。随分と羽振りがいい武器を使ってやがるな」


 銃身は多少擦れた形跡はあるが傷んではいない。歪んだホロサイトを取り外し、付属されているドットサイトとフロントサイトから覗く視界に問題はない。薬室に弾詰まりや排莢不良が無いことをチャンバーで確認し終えると、ボルトを引く。


 そして遥か遠くの輪郭が熱で歪んで見える地平線に向けて、試し撃ちを放つ。三点バーストの空気が張り裂ける“タタタッ”強張った射撃音が機構のガタつきを感じさせない良好な状態だと証明した。


 マガジンを抜き取り、残弾数を確認する。しかし、5.56mm弾を三十発装填できるマガジンには二発しか残っていない。


「こいつ……どんな良い武器を持っていても、持ち主次第だな」


 シロウはボロだが、ギリギリ使えるM4カービンのスリングを掴んで自身の上体に掛けると、死体の装備をまさぐった。


 上着のベストからマガジンポーチの中身を取り出し、使えそうな薄手の防弾着を拝借していく。合計三本のSTANAGマガジンを手に入れた。一本をその場で差し替えて装填し、残りの二本は自身のベルトに備え付けられた弾薬袋の中に入れる。


 M4カービンを背負いながら歩くその姿は、馴染んだ動きで経験が滲んでいた。


 横転していたバイクのタンクからガソリンを抜き出し、自身とレッドのバイクに補充をする。弱肉強食の荒れ果てた世界で、荒野で消えていく死者を弔う者は存在しない。


 砂山に埋もれ、朽ち果てて消えてゆく男の屍を踏み越え。一同は歩み続ける。


 激しい銃火と砂煙を潜り抜け、数多の追跡者たちを沈黙させた戦いの余韻も冷めない中、シロウたちは、なおも走り続けていた。


 天頂へと差しかかる太陽は容赦なく砂漠を照りつけ、その熱はバイクのエンジンと一体化した体に、じりじりと焼け付くような疲労を蓄積させてゆく。


 砂漠地帯を抜けても安堵の色は誰の表情にも浮かばない。


 ただ無言のまま、乾いた空気を切り裂いてバイクの列が進んでゆく。やがて風景は少しずつ姿を変え、砂交じりの地表からひび割れたアスファルトの舗装路が顔を覗かせる。


 そこは旧時代の文明が残した公道の断片だった。

 朽ちて折れた標識、傾いたガードレール、そして雨風に晒され続けて赤茶色に色褪せた広告看板。


 文明の名残が形を残して、いつまでも佇む亡霊のように空虚な風を彷徨わせていた。


 しばらくして、廃墟が連なる旧市街地の影が視界に入り始める。かつて人々が住まいを築き、暮らしの光を灯していた街は、今や瓦礫と錆の海に沈んでいた。


 建物の窓は全て割れ、骨だけになった鉄筋が剥き出しになっている。


 吹き抜ける風が廃墟の隙間から低く唸り声を上げ、おぞましい変異性生物の巣窟として太陽の差し込まない暗闇を支配する。


 背中に冷たい汗を感じながらも、一同は止まることは決してしない。バイクのタイヤが砕けたコンクリートの破片を踏み締め、目的の地へと確実に近づいてゆく。


 そしてようやく、物寂し気に影を落とした工業団地の一角、金網で囲まれた工業地帯の廃墟群が無機質な姿を現わした。


 風に軋む割れた屋根が、時折“キィ……”と音を立てる以外、まるで時が止まったかのように静まり返っている。


 拠点と定められた廃倉庫群の近くへと一同は辿り着いた。

 静寂だけがシロウたちを出迎えている。ナナは微かな緊張を誤魔化すように、シロウのコートをぎゅっと掴んだ。

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