毛を以て馬を相す勿れ
しっかり休んで朝になりました。
今日もまた街道を進んでいくのです、が……
「待ってたよ。ミルテに向かうなら一緒に行こうかなって、ね?」
人の馬がいます。
どうやら付いて来るみたいです。
「口調については気にしないでね。今は一介の旅人だからさ」
「どうして同行を?」
「エストまで行く理由がなくなったのと、賊避けだよ。人数が多ければ標的になり難いからね」
「野盗の類いが居る?」
「大規模なのは居ない。というより、そういう情報はない。居るとしたら追い剥ぎくらいかな?」
よくわかりませんが、襲ってくるやつがいるならやっつけますよ。
「まあ、大規模なのは搬送会に話が回るからすぐに討伐されるもんさ」
「単独での移動は初めてなので、助言はありがたいですね」
「じゃ行こうか」
「いえ、歩幅が違いそうですし、合わせてもらうのも気が咎めるので、どうぞお先に」
「水臭いなぁ……だったら乗ってけばいいよ」
「乗る?」
「鞍はないけど、歩き通しよりマシだと思うよ?」
「背に跨がるということですか?」
「肩には乗れないでしょ」
背というのは背中のことですね。
人の馬はどこからどこまでが背中なのでしょうか?
「不勉強ですまないが、背に跨がることに何か象徴的な意味などがあったりは……」
「どういうことだい?」
「たとえば伴侶となるもの以外乗せてはいけないとか……」
「無い無い。仮にあったとしても、伴侶ってことは基本同族だろ?そんなの乗せたら立ってられないよ。意味がないから、そんな風習もないって」
「真の主と認めた者しか乗ることを許されないとか……」
「無礼なのか丁寧なのか分かんない人だね……私らは畜生と違って言葉で意思の確認ができるんだ、そんな試練みたいな真似する意味がないよ」
「気に障ったのなら謝罪させてもらうよ」
「いーよ別に、ホントに知らなかっただけみたいだしね」
ごすじんは人の馬に乗るのは気が進まないみたいですね。
あ、これが乗り気ではないというやつなのでは?
「ついでにこれも渡しておこう。知らないだろうしね」
人の馬は短い丸太を二本と、太い紐二本で四角を作ったものを、ごすじんに渡しました。
「これは?」
「玉吊りって呼ばれてる……まあ、鞍の代わりだよ」
「ということは、これの上に腰掛けるのかな?」
「乗り慣れてれば要らないだろうけど、慣れてないとアレがヤバいことになるかもしれないから」
「アレ?」
「んもう!皆まで言わせないでほしいな。とりあえずそのまま乗ってみなよ。十歩も進めば分かるって」
人の馬がごすじんを乗せてかっぽこかっぽこ歩きだします。
そしてすぐに、足取りがぱっぱかぱっぱか速くなりました。
「う、ぐっ」
ごすじんの顔色が悪くなったような……
もしかして臓物モッシャモッシャですか?でも、そんなに揺れているようには見えません。
人の馬が止まって、ごすじんを降ろしました。
ごすじんが辛そうな顔をして、内股気味にぷるぷる震えているのです。
「非常に、良く、分かった……私には必需品のようだ……」
ごすじんと一緒に、人の馬に乗って街道を進みます。
私はごすじんが座っている四角の後ろ側に足を乗せ、しゃがんでごすじんの肩に捕まっています。
走って付いて行くつもりでしたが、人の馬が一緒に乗れと言ってきたからです。
ぱっぱかぱっぱか、ぱかぽこぱかぽこ、歩きだった昨日よりもずいぶん速く進んでいますね。
駅も二つ通り過ぎました。
人の馬は三つ目の駅が見えてきたところで速度を落として、駅の前で止まりました。
「腿の筋とか皮は大丈夫かい?慣れてないと、攣ったりベロッと捲れたりするらしいよ」
「大丈夫だと思うけど、筋肉痛は歳のせいか数日遅れて来るから、何とも言えないね」
「急げばもう一駅くらい稼げそうだけど、やめておこうか」
「そうしよう。特に急ぐ理由もない……おかしなのがまた出ないとも限らない」
「そうだね、変に時間を取られて暗くなる方がまずいからね」
ああ、あの仲間割れの人たちのことですね。
駅から駅までの間で、二手に分かれて戦っている人たちに会いました。
おかしなことに、その人たちは全員おんなじ群れだったのです。
おんなじ寝床で寝起きして、おんなじごはんを食べているのは匂いでわかりました。
なのに、片方は普通の服を着て、もう片方は汚れた服を着ていました。
そのことをごすじんに伝えると、ごすじんが人の馬と何か難しい話をして、人の馬が声をかけたのです。
どうしてなのかわかりませんが仲間割れをやめて、全員で仲良く襲い掛かってきましたよ。
もちろんやっつけました。
隠れていた人も、匂いを追って捕まえたのです。ふんす。
その後で、逃げられないよう縛ったり吊るしたりしたので、移動が止まってしまいました。
次の駅でその人たちの話をして、いろいろ聞かれたので、また移動が止まってしまったのです。
よくわかりませんが、駅の人は話を聞いてから、後は任せろと言って走っていきました。
何を任せたのか知りませんが、コーミョーな手口とかなんとか……
まあ、私が考えてもしょうがないのです。
とりあえず、ごはんですね。




