↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
97/105

塞翁が馬

「ほう、違うと?おかしいと申(もう)したか?」

「あっ、いや、すまない。こちらの話なんだ」

なんだか馬(うま)の人(ひと)?人(ひと)の馬(うま)?の目つきが変わりましたよ。

「それは無理筋(むりすじ)というものだろう?今のは明らかに私に向けられたものだ」

言葉遣(ことばづか)いも変わっています。

「厳密には世界そのものに対する指摘なのだけど……まあ、ドラゴンがいるなら今更か……」


「参考までに聞かせて頂きたい。私のどこが不自然だと見抜いた?」

おや?別に怒っているわけではないみたいですね。

「見抜いたというのが正しいのかはわかりませんが、違和感という意味なら体つきですかね……もちろん下世話な話ではなく」

体つきからすると女の人でしょうか?それともメスですか?よくわかりません。

「それもおかしな話だな……私の体格と身なりであれば、せいぜい多少の心得(こころえ)がある旅人にしか見えないはずだが?」

「なんと言うか……重心とか分布に説明が付かないと言いますか……その」

「なるほど、足運びや秘めたる風格は……フフ、努(つと)めて隠しても、隠し切れるものではないということだな」

「あー……こういうタイプか……」

なんだか人の馬は勝手に頷(うなず)いてしまいました。


「あまり触れ回ってもらうと困るのだが、私はいわゆる密使(みっし)というやつでね」

「……あまり、向いてないように思いますが?」

「そうだろうそうだろう。何ゆえ私が人探しなどという些事(さじ)に従事させられねばならぬのか」

「それは……当然の帰結(きけつ)と申しますか……」

ごすじんの顔から苦笑いが取れません。ずっと張り付いたままです。

「なるほど、妬(ねた)みや嫉(そね)みが評価を歪めていると言いたいのだな?」

「評価が捻じ曲がってしまうのはやり切れないですよね」

「ほう、貴殿も身に覚えが?」

「あ、いえ、恒常的に普遍的で一般的な話です。はい」


ごすじんが嫌がっているみたいですが、ごすじんを困らせる悪いやつではないみたいです。

それに、ごすじんが私の首を捕まえています。締めてはいないので苦しくはないですが、これは注射の時の動いちゃダメの儀式(ぎしき)ですね。

ということは、私が何かするとごすじんが困るということです。

しょうがないので「ぐるる」も「ウー」も我慢しますよ。


「もし良ければ、テーブルが空くまで待つより、相席(あいせき)を提案させてもらうが……如何かな?」

「いえ、お構いなく……おとなしく待ちますので」

「貴殿の慧眼(けいがん)に敬意を表し、ミードを一献(いっこん)振舞わせてもらいたいのだがね」

「それは是――いえ、頂く……理由がない、ので」

「ならば食事の間、情報収集への協力、その報酬というのはどうだろう?」

「それなら、まあ……」

ごすじん?


ようやくごはんの時間ですよ。

ごすじんと一緒に座って、運ばれてきたごはんを見ます。

これはなかなか美味しそうですね。

「貴殿からは有用な情報が得られそうだ。何せ私の偽装を見抜いた眼を持っている」

「買いかぶりでは?」

「そうかな?情報の価値は知る者ではなく、知りたい者によって定められるものだ。だからこそ、誰かの何気ない一言(ひとこと)が勃興(ぼっこう)をも左右し得(う)る」

「それも少し大げさなような気がするけど……」

「まあ、私が色々と尋(たず)ねるから、貴殿は答えられることを答えてくれれば、それでいい」

「答えられること……では、内容によっては答えなくても構わない、と?」

「もちろん、そのミードで洗いざらい聞き出そうなんて考えてはいないさ。まあ、気にせずグッといきたまえ」

「では、ありがたく――」

「初めは……そうだね、泣かし屋と呼ばれているハンターの噂(うわさ)を聞いたことはあるかな?」

「ぶホァ!」

ごすじん?


「おや、聞いたことがあるようだね?それとも、貴殿も泣かされた覚えがおありかな?」

「ゲッホ……ゴホ、噂は聞いたことがあります……」

「なるほど、では接触は?」

「噂は聞いたことがありますが、その噂はデマ――出鱈目(でたらめ)ですね」

「ふむ。なぜ出鱈目だと?」

「そんな噂に合致(がっち)するハンターは、実在しないからです」

「実在しないという証拠まで掴んでいるというのか。それは有益な情報と言えるな」

「泣かし屋の噂を調べるのが、仕事だったのですか?」


「おっと、立場上口外(こうがい)できない事はある、そこは心得ておいてもらいたい。どこから、そして何まで話すかだが、そうだな……貴殿、銀角(ぎんかく)と呼ばれている賞金稼ぎをご存じか?」

「ええ、まあ……」

「たとえ敗れても鍛え直して挑み直す、という不屈(ふくつ)の武人でもあるが……噂の泣かし屋はその不屈の心を折って泣かせてみせたという」

「そんな噂が立ったら本人が黙っていないのでは?」

「本人は否定も肯定もしないで静観している。だからこそ噂の真実味が増した面もある」

「それを確かめる必要があった、それが使命ということですね?」

「話が早いな……これは内密だが、もし実在すれば引き抜きも視野に入れて接触する予定だったのだ」

「やっぱり密使のお仕事……向いてないと思いますよ」


「エストまで赴(おもむ)く手間が省けた。報告にも余裕ができたな……やはり私には人探しなど役不足なのだ」

「私の証言だけで済ませていいんですか?裏を取る必要などは……?」

「私の偽装を見抜くほどの眼を持つ人物、その証言を軽視するほど、私の眼は節穴ではない」

「それは暴論のような気も……」

「貴殿は猟獣会(りょうじゅうかい)の符(ふ)で宿泊、つまり証言が虚偽(きょぎ)と判明した場合、猟獣会に働きかけて追うことができる。だから嘘を吐(つ)く危険は冒(おか)すはずがない。違うかい?」

「いえ、おっしゃる通りですね」

ごすじん、ごはんが冷めてしまいますよ。食べなくていいのですか?

わたしはもう食べ終わってしまいましたよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。