ダーウィンが助走をつけて殴る
駅のドアを開けると、カラーンと音がしました。
中に入ると、猟獣会とおんなじように、受付みたいな場所と、奥にごはんを食べる場所が見えます。
でも、猟獣会ほどには広くありません。仕留めた獲物を出す場所も無いのです。
「ようこそ、水底の翡翠の駅へ。ご宿泊でしょうか?」
受付みたいな場所には、猟獣会とおんなじように、お姉さんがいました。
でも、このお姉さんはあのお姉さんに比べると平ったいですね。
「ああ、泊まりたいんだが利用は初めてでね。迷惑をかけるといけないから、いろいろと教えてほしい」
「承知いたしました。まずお支払いの方法についてですが、通常のお支払いと書状・割符等による免除があります」
「ああ、それなら多分これのことだね」
ごすじんが懐から、小さな板のようなものを取り出します。
「猟獣会からの認可をお持ちなのですね。そちらの符でしたら、一駅につき一泊を無料でご提供できます」
「連泊するなら自腹という事か」
「連泊に限らず、日を置いた場合でも、同じ駅での二泊目は通常のお支払いとなりますよ」
「それはまあ、当然だろうね」
「お食事については、本日の夕食か、明日の朝食のどちらか一方を無償でご提供できます。どちらもご用命ですと、一食分は別途お支払いになりますね」
「むしろ一食は無料になるのか……」
「水場は裏口を出て左側にございます。飲用には適しておりません。清拭やお洗濯に使用できますが、沐浴はご遠慮ください」
「飲料水――飲む水はどうすればいいかな?」
「お部屋に水差しを用意しておりますので、ご自由にお飲みください。ただし、追加は有料となります。また、食堂でお酒をいくつか提供しておりますが、こちらは食事とは別扱いです」
「それは、お高くつきそうだ」
「もちろん、街の酒場よりも輸送や保管にかかる費用を含めてのお値段となっておりますので……」
お酒はいりませんよ。ごすじんも「おあずけ」すればいいのです。
「裏口の右手は厠となっております」
「共用か……まあ、水洗でもないだろうから、室内にあっても困るだけかな」
「?……風習や信条で共用に差し障りがあるようでしたら、おまるの貸し出しも可能ですが――」
「大丈夫だ。問題ない」
「なお、室内での火の使用は禁止となっております。備え付けの燭台に蝋燭を追加させていただきますので、灯りが必要な場合はご用命ください」
「まあ、夜更かしするつもりはないよ。ゆっくり休んで体を労わらないとね」
「あとは禁止事項ですが、施設・設備・調度などを傷つけると、罰せられる可能性もありますので、ご注意ください」
「部屋の隅で縮こまっておくのが良さそうだ」
「ふふ――あ、失礼。初めての利用にしては、旅慣れしておられる様子」
「そうでもないと思うけどなぁ……」
「最後に、こちらをご覧ください」
平ったいお姉さんは、大げさに手を広げて壁に向けました。
壁を見ろという事ですね。
「こちらはすべて、ご利用をお断りしているお客様の人相書きとなります。
揉め事……特に刃傷沙汰を起こした方は、如何なる理由があろうと出入りを禁止させていただいております」
「喧嘩を売られたような場合、揉め事に含まれるのかな?」
「応じなければ大丈夫かと、その場合、駅員に申し出ていただければ可能な限り対処いたします」
「ありがとう。この後は食事にしたいのだが、すぐに可能かな?」
「手続きは完了しておりますので、食堂でこちらの組紐をお渡しください。それと、こちらがお部屋の鍵となります」
でっかい鍵と、色付きでモコモコに結んだ紐をもらいました。
ごすじんの指よりも長い鍵です。
「お部屋は二階の奥から二番目です。念のため、お間違え無きよう」
鍵がでっかくなると、開かないように止める力も強くなるのでしょうか?
紐の方はごはんと取り換えてもらえるみたいですね。
ごすじんと一緒に、ごはんスペースに向かいますよ。
「おっと、ごめんよ。デカい図体が邪魔になってるよね」
おかしいですね。馬の胴と馬の足があるのに馬が居ません。
「食い終わったらすぐテーブル空けるから、ちょっと待ってて」
馬の首があるはずの場所にヒトの胴があって上から声が聞こえます。
それに、手が生えているのに前足もあるのです。
これは……どっちを動かしたいのかこんがらがってしまわないのですか?
ふむ、犬っぽい人、猫っぽい人、がいるなら、人っぽい馬もいるという事ですね。
「いや、さすがにこれは違う、おかしい」




