後足で砂をかけるタイプの立つ鳥
ごすじんと相談をして、少しの間お引越しをすることになりました。
私はごすじんに付いて行くと決めているので、相談といってもただ頷いていただけです。
なんでも変な噂が広まってしまったので、居心地が悪いそうです。
ごすじんのすごさが広まるのはいいことですが、嘘はよくありません。
嘘を広めているひとはメッ!ですよ。ふんす。
でも、メッ!てしたら今度はそれが広まってしまうので、居心地が悪いのは変わらないのだそうです。
よくわかりませんが、たぶんこれはビミョーというやつですね。
「お勧めの移動先……ですか?」
「お勧めでなくても、候補を挙げてもらえるだけでいい。特色が分かれば参考になるよ」
ごすじんがお姉さんと話をしています。
引っ越すことは決めましたが、引っ越す先は決まっていないのです。
猟獣会がある別の街のことを聞いているみたいですね。
「ハァ……一時的とはいえ、優秀なハンターが減ってしまうのは非常に残念ですね」
「優秀だなんて恐れ多いよ」
「無謀な真似をなさらない。確実に猟果を上げ、手ぶらで戻られることが無い。十分に優秀と言えます。それをみすみす……とはいえ、おかしな噂を抑制できなかった当会の落ち度もございます」
「噂は仕方がないかと……」
「まずはミルト猟獣会ですね。西の街道を進めば最初に辿り着く街となります。気候はこことほぼ同じ、獲物もほぼ変わりませんので、技能は流用できるでしょう。ですが――」
「近すぎて噂の払拭には向かない?」
「左様でございます」
うんこたれが来た時にそんな名前を聞いた気がしますね。
「そこから南へ行けばセカフ猟獣会、こちらは海が近いので生態が少し異なります。北へ行けばルシェント猟獣会がございます。そちらは少し標高が高く、若干ですが気温が低くなります」
今度は知らない名前です。でも、覚えてないだけかもしれません。
「後は東に行けばエスト猟獣会がございまして、こちらは非常にお勧めです」
「戻ってません?」
「些細な意趣返しでございます」
「返される覚えがないのだが……」
「聞こえていましたよ!『……えっ?』とはなんですか?『……えっ?』とは!」
「そう言われても――」
「普段から、報酬を手渡そうとしたら手を伏せてトレーを差し出すし、前屈みに近寄ったら視線を逸らすし、今日は『……えっ?』とか、受付嬢の矜持はズタズタですよ。泣かし屋は私も泣かせるんですか?」
「それはすまない。が、事案を避けることが常態化しているんだ」
「ジアン?」
「いや、何でもない。とりあえず落ち着こう」
「そうですね。いえ、私は常に落ち着いています……その他に交流があるのは、オオムジナで遠征なさったヤーゴットとなります」
「意外と少ない気がするんだが……」
「当会から事情を通達し、それを汲んでもらえる相手となると、その程度ということです」
「ある程度の配慮が見込める、ということか」
「それすら不要ということであれば、外壁を備える規模ならば、ほとんどの都市に猟獣会がございますので……」
「どこへ行こうが大差はない、と」
「また、噂が収まったことをこちらから報せる場合にも、これらの会を拠点にしていただければ、円滑かと」
「それは助かる……のかな?」
「なるべく早いお戻りを、お待ちしておりますから」
引っ越し先は少しだけ寒いところに決まりました。
それから、街を離れるのでおやじさんに五寸挿しと尺挿しをたくさん用意してもらうそうです。
おやじさんの店でしか作っていないものなので、引っ越し先で失くしたら換えが利かないとか……
「おう、あんたか。お見限りかと心胆を冷やしかけてたところだぜ」
「大袈裟ですよ……お忙しそうで何よりです」
「今日はどんな夢を見させてくれるんだ?革命の狼煙か?鍛造の神髄か?それとも炭火の深淵か?」
うん?おやじさんは、ごすじんに会ったあとは眠らなくなるはずです。
夢は見れないと思いますよ?
「今日は五寸挿しと尺挿しを、なるべく多く揃えておきたくて注文に来ました」
ごすじんがいつものように、積み上がった売り物をすり抜けていき、おやじさんと話をしています。
「あんたは自分で手入れもするし、使い捨てるような真似もしねえ。物持ちは良い方だと思ったが……どのくらい必要だ?」
「それぞれ二、三十本もあれば安心できるかと」
「流石にそれほどは置いてねえ。最近はお守り代わりに買ってく奴もいて、そこそこ出てくからな」
「ですので……注文させてもらえれば、と」
「そりゃ構わねえ。しかし、なんだってそんなに必要なんだ?」
「何だって?街を離れるってのか?」
「ちょっとおかしな噂が流れてまして、居づらくなってしまったので」
「どこに行くつもりなんでえ?」
「ひとまずルシェント猟獣会へ移動してみようかと考えています」
「ふむ……出発はいつだ?」
「確定はしていませんが……四、五日以内には立とうと思っていますよ」
「分かった、行き先はルシェントだったな?店畳むにゃ、ちと短いが、なんとかする」
「……えっ?」
「……えっ?」




