二つ名
「あんただろ?新進気鋭の泣かし屋っていうのは。頼む!俺を弟子にしてくれ!」
「泣かし屋?」
「その圧倒的手腕……片鱗だけでもいい、俺に授けてくれ」
またよくわからない人が騒がしく訪ねてきましたよ。
ごはんの時は来ないでほしいのです。
「君が何を言っているのか分からないんだが……」
「ガナリグマも白足袋も、銀角すらも心を折って泣かせちまう、絶対的強者のあり方を学びたいんだ」
「ちょっと待ってくれ、風評被害も甚だしい」
あ、これはごすじんが嫌がっているみたいですね。
ごすじんでも、ごはんを食べるために座っているときは、人を避けることができないのです。
知り合いじゃないうえに、ごはんの邪魔をする……これは悪い人ですね。
「ぐるる」
まわりの人がガタガタと立ち上がりました。
椅子を倒してしまった人もいます。
「おい、あんた!悪いことは言わねえから……出直せ、な?」
「ここは猟獣会だ、依頼なら受付へ。依頼じゃねえなら部外者は帰ろう、な?」
「待ってくれ、俺は弟子入り……」
「うるせえ!鼻が無くならないうちに立ち去れつってんだよ!」
騒がしい人は他のハンターにドナドナされていきました。
あれはたぶん、ごすじんの歌っていたドナドナで合っているのです。
「いやぁ……あんたも何かと大変だナ」
「そんなに目立つようなことはしていないつもりなんだけどね……」
「そうだナ……俺の目にも、名を売ろうと血眼になってるようには映ってねえよ……結果はともかく、ナ」
「儘ならないものですねぇ」
「しばらく河岸を変えてみちゃどうだい?」
「河岸?」
「一時的に別の街の猟獣会に移動して、噂が消えたら戻ってくるってこった」
「他所でまた、一から信頼関係を作っていくのは大変そうだね」
「そうかい?あんたならどこだろうと馴染めそうな気がするけどナ?」
「まあ、選択肢の一つとして考えてみますよ」
「移動するんならアレも――懐刀も連れてってくれよ?」
「懐刀?」
「ありゃ?耳にしてねぇのかい?外の噂では泣かし屋と懐刀と言やぁ、ウチの二枚看板みたくなってんぜ」
「いえ、全く……」
「残るのも移動するのもあんたの自由だが、アレ置いて行くのだけは勘弁してくれ。俺たちは覚えたが、外から来る馬鹿は……最悪死ぬ」
「ああ、そういうことですか……それなら私が傍に居ないほうが安全かもしれませんよ?」
「そりゃあ一体――」
「それにしても……懐刀とは……」
「俺が言い出したんじゃないぞ、本当だぞ!いつの間にかそれで定着してたんだ」
「大丈夫ですよ、気に障ったとかではないので」
「あくまで、外での話だけどナ。噂を馬鹿正直に追っかけたところで、あんたらまで辿り着ける奴はそうそういやしねえ。そういう意味じゃさっきの奴は見所があるのかもナ」
「噂は広がっているけれど、実態まで掴んでる人は少ないと?」
「その通り。看板扱いなんて、されたことあるかい?」
「無い、かな?」
「何たって、泣かし屋ってのは筋骨隆々で冷酷無比な無頼漢らしいからナ」
ごすじんが別のハンターとなんだか難しそうな話をしています。
あのハンターはごすじんと私が、ごはんを食べ終わるのを待っていたようです。
ごはんを邪魔するのは悪いことだと、ちゃんとわかっているハンターなのです。
ごすじんとお話しながら、こっちをチラチラ見ているのは少し気になりますが……
まあ、ごすじんの興味を引くような話を持ってきたみたいなので、気にしないようにします。
「いつか機会があったら、聞いてみたいと思ってたんだがよ」
「何でしょう?」
「あんたの奇行については、この際置いとくとして……」
「奇行……」
「たまに見せるクソ度胸、あれはどうやってひねり出してんだ?」
「クソ度胸……ですか?」
「言葉が荒いのは勘弁してくれナ、なんかこう……鬼気迫るっつーか、絶対引かねぇって覚悟が見えるときがあンだよ」
「うーん、言葉にするのは難しいですね……いや、そうでもないか?」
「奥義とか秘伝の類だったら、無理に聞かねえぞ?」
「いえ、そういうものではなく、私を慕い、期待してくれている者がいる……それを忘れないこと、ですかね」
「ははぁん。期待に応えるために必死になれるってヤツか」
「少し違います。似たようなものですが……期待を裏切らないため。ですね」
「なるほどなぁ……多少は合点がいったぜ。良いトコ見せようってんじゃねぇ、だらしねぇトコを見せられねぇワケだ」
「そうですね」
「――で、その幸せ者はどこのどいつだ?受付の姉ちゃんか?」
「……えっ?」
「……えっ?」




