41.99999……
「――というワケで、道中で常識やら時勢やらを教えながらここまで来たのさ」
「はい。私は彼女に学びました。人前で泥水を啜ってはいけません。腐葉土を口にすることも」
「ああ、うん……そうだね。まずは状況を整理しようか」
ごすじんのなでなでがトントンに変わりました。
これは何か考え事をしている証拠なのですよ。
「まずは手配書のことだが、君はこの人?を賞金首として差し出すつもりはあるのかい?」
「そこはどうでもいいさね。アタシとしちゃあ全盛期の血刃と戦えればそれでよかったんだが、コレはちがうだろ?」
「この手配書はいつ頃掲示されたものなんだい?」
「二~三十年は前だろうね。少ないながらも目撃証言があったから、取り下げられなかったと考えれば一応の説明はつくよ」
「だが、髪型が変わらないだけでなく、皺すら刻まれていない手配書通りの首を挙げたとして、まともな検分が見込めるだろうか?」
「それは盲点だったよ。まあ……ないだろうね」
「そういうことだから、賞金の方は考えなくていいね。補修とやらの応用で顔を変えてしまえば解決だ」
「顔を、変える……怒るですか?笑うですか?泣くですか?」
「いや、そうではなくて、目や鼻の大きさや位置を変えたり、頬を上げたり下げたりして手配書と別人に見えるようにするんだ」
「そういや言ってたね。外装に意味はないって……本人からすりゃ顔を変えても価値はそのままだ」
「学べるものがとても大きいです。そんな考えはしたことがありませんでした……こんな感じですか?」
「いや、数は変えちゃあダメだよ。目は二つ、鼻と口は一つずつにしときな」
む?目を増やすのはダメなのですか?見張りに役立ちそうなのです。
「それから、今の君のように人の体に根を張った個体?いや、存在?は、他にも居るのかい?」
「おそらくの話ですが、居るのは一人の私だけです」
「ぞっとする話だけど、試したことがあるらしいよ」
「動いている人に種を与えても、消化に淘汰されてしまいます。もう動かない人に種を与えても、土に還って大地に根付くだけでした」
「死にかけかつ、内臓の容態とかで違ってくるのかもねぇ」
「今現在、種は残っているのかい?」
「二つあります。健やかに育つ場所が必要です。植える場所を決められていません」
「じゃあ、それは大事にしようね」
「次に、報いるという件だけれど……これは正解がないと思う」
「そこなんだよねぇ」
「何をしても、過ちに判定されてしまうものですか?」
「そうじゃないよ。成否を判定する人が居ないんだ」
「……難しい」
「難しくはないさ、要は何をしてもいいんだ」
「何をするか、私はできることを選ぶことができない。選ぶための順番を付けられない」
「罪人なら、清算をする。復讐なら、仇を討つ。偉人なら、軌跡を残すって感じだが……」
「うん、それは一般的な話だね。今回はどれにも該当しそうにないよ」
トントンがなでなでに戻りましたよ。
さあ、ごすじんの作戦を聞くがいいのです。ふんす!
「この辺りに生えているかどうかは知らないが、私の故郷にはヤドリギとユズリハという植物がある」
「おいおい、なんだか期待が膨らむ物言いをしてくれるじゃあないか」
「その話は私の興味を育んでいます」
「ヤドリギというのは、他の木に根を張って育つ植物なんだよ」
「それはまるで、今の私のようですね」
「ユズリハは若い葉が伸びてくると、古い葉が一斉に落ちる変わった植物だ」
「枯れ葉は普通、落ちるもんだろ?」
「いや、ユズリハは緑の葉でも落ちる。まるで若者に後を託すようにね」
「だから譲るって名前に入ってるワケかい?」
「で?それが報いる方法にどう関わるってんだい?」
「私達が報いる方法をあれこれ提案しても、所詮は外野だろう?自分で決めてもらうんだ」
「しかし、私には長い時間は残っていません。方法も……」
「だから、ヤドリギとユズリハだ」
「繋がらないねえ……」
「先程、種は二つ残っていると聞いた。それを自分に植え付けて育てるんだ」
「!」
「その間、新しい苗に今までのこと、これからのことを教える。報いる方法を探すこともね」
「使命として語り継ぐってえのかい?」
「私が朽ちたら、次代の苗が報いを探す……見付からなければ、次の代が……」
「体はそのまま次代の養分になりながら、入れ替わっていくワケだね?」
「とても良い試みです。貴方にも種を植え付けて差し上げたい」
「いや、それは遠慮しよう」
葉っぱの人は丸いものを取り出すとパクッと食べてしまいました。
「あぁ、分かる、分かります。この種は私に根を張り、私は種の……種は私の一部になるでしょう」
「躊躇とか無いんだね……」
「芽吹いたら教えて行かなくてはなりません。こうしてはいられない。私が朽ちる前に教えることが枝葉のようにあります」
何だか葉っぱの人が急に瑞々しくなりました。
「もう一つの種は貴方に。いつの日かその種が育った木を道標に、次代が貴方にも報います」
「いや、ソレ、何年越しの話になるんだい?」
「無礼を働きます。私はもう行きます。ありがとう」
「いやぁ、見事なもんだね。流石流石」
「あれでよかったのかな?」
「何がだい?見事な提案だったとアタシは思うけど、何か引っ掛かるのかい?」
「極めて高度な政治的判断に基づく、柔軟で実績もある助言と言えるが、別の表現がある」
「うん、うん?」
「先送りとも言うのさ」




