珍味
ここはとんがり耳の人の家のようです。
家といっても布の家で、その布も屋根しかありません。
雨はまだ降っていますが、この布は雨を弾く布みたいですね。
「窮状を救ってもらったようだし、何かお礼がしたいのだけれど、私にできることはあるかな?」
「大したことはしていないよ。お礼が欲しくてやったことでもないしね」
「しかし……それでは――」
「気が済まないというのなら、何か考えておくよ。それより食事にしないかね?」
「あー……今はその、あまり食欲が……」
「それについては同情するが、少しくらい何か入れておいたほうがいいだろう。その方が気分も和らぐ」
「……確かに、そうかもしれませんね」
「何より、君たちを前にして、私一人だけで食べるのも気まずいだろう?」
「では、食べ物は私達が出しますよ――
とは言え、携行用の固いパンと干し肉ぐらいしか持ち合わせがないのですが……」
「そうだ、私からも一品提供するから、味について感想をもらおうか、それがお礼と言うのはどうかな?」
「それでお礼になるのなら、そうしましょう」
とんがり耳の人と、一緒にごはんを食べることになったみたいです。
「私は各地を回って、珍しい食べ物を研究しているんだ」
「それはまた高尚な」
「いやいや、よしてくれ。肩書も無い、出資者もいない、ほとんど道楽のようなものだ」
「それでも素晴らしい試みだと思います」
「そう思ってもらえるなら、嬉しいことだね」
「私の故郷では、猛毒の食材でもいくつか食べる手段が確立されています。それは偏に、貴方のような人たちの努力の賜物でしょう」
「では、偉大なる先人に敬意を表し、こちらをご賞味いただこう」
「これは?」
「ゲズイクスキン・バイェロキニスを加工したものだ。毒などはない、私の味覚がまともならパンに合うだろう」
おや?この匂いは確か……
「これは、チョコに似た味わい……確かにパン、いやパンに限らず麦の加工品、乳製品、それに果物にも合いそうです」
「うん?チョコとは何だい?」
「ああ、チョコレートといって私の故郷のお菓子なんです。木の実を発酵させてすり潰して……すみません、詳細までは知らないので」
おー、これがチョコの味なのですね。
私はチョコを食べさせて貰ったことが無いので、似てるかどうかまではわからないのですよ。
「似たようなものがあったのなら、調理法や提供の仕方によっては流通させられる可能性もある……か」
「ところで、先ほどのゲズなんとかキニスというのは?」
「ああ、ゲズイクスキン・バイェロキニスだね。まずは君に謝罪しなければ」
「どういうことですか?」
「普通は正式名称なんてまず耳にしない。分からないことを見越しての発言だったということさ」
「通称が……ある?」
「その点も謝罪しないとね、通称はオゾケクツムシという」
ああ、やっぱりアレだったのですね。
匂いも味も、似ていると思いました。
「アアーッ!」
ごすじん?
「まあ、なんだ……一種の荒療治というやつさ」
「あ……うぁ」
「一度味わってしまえば、次からは食材として分類できるだろう?」
「確かに得体の知れなさ……という点は薄らぎましたが、これは……」
「ついでに調理過程も見せておこう。さらに理解が深まるはずだ」
とんがり耳の人はそう言ってほら穴に入り、さっきのアレを捕まえて戻ってきました。
「こいつらは簡単に脚が取れる。触角も外して胴だけにして――」
とんがり耳の人は、プチプチと足を毟って焚火の中に投げ込んでしまいました。
「あとは背中にちょっと切り込みを入れて……炙る」
次は、胴体だけになったアレに、棒を付けて焚火の上で回しています。
「こうすると、殻と身に隙間ができて、苦くて酸っぱい部分を一緒に取り除ける」
背中のところから二つに割ると中身がゴロンと出てきました。
「はぁ……べ、勉強になります……」
「ここまで来たら、後は用途に応じて切ったり焼いたり冷やしたり、だ」
「この見た目なら嫌悪感はほぼ消えますね……この見た目なら」
「では、チョコとやらを使った献立について教えてくれないかい?今度はこちらからお礼を出すよ」
「それは……食材以外でお願いするよ」




