閃光サボタージュ
今日も調査依頼というのをやるみたいですよ。
普通と違うことが起きたので、その原因を突き止めるというお仕事です。
獲物を仕留めなくていいから、簡単な依頼なのだと聞きました。
私が思うに、獲物を仕留める方が簡単なのではないですか?
狩りなら、仕留めた獲物を渡せばそれで終わります。
原因を突き止めることが出来ても、それを人に説明するのは難しいのです。
まあ、ここはごすじんの出番なのですよ。
ごすじんが居るから、こういう依頼も受けられるということですね。
「目的地は水源地である湖周辺となります。調査内容は水源地に響く異音の特定をお願いします」
「どれくらいの確度であれば特定と見做されるのですか?」
「確度と仰られますと?」
「うーん、そうですね……例えば、原因が未知の生物の鳴き声だったとして、未知の生物の詳細まで調べる必要があるか、といったような基準?指標?」
「そういったことであれば、依頼者または猟獣会が、次の対応を検討できそうな程度、ですね」
「対応というのは、討伐するとか、避難するとかですか?」
「はい。また、生物由来でない場合は、猟獣会の管轄外となりますので、判明した時点で切り上げてもらって構いませんよ」
「わかりました」
「では、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
水源地というのは、街のみんなが飲んだり使ったりする水が溜まっている場所なのだそうです。
そこには穴が開いていて、その穴から漏れている水が河になって、街へ流れているのです。
なので、河に沿って水が流れてくる方へ歩いていきますよ。
でも、こんなにたくさん水が漏れていたら、水源地というのが空っぽになってしまいませんか?
へえ……水源地にもよそから水が流れ込んだり、湧き出たりして水が注ぎ足されているのですね。
それなら、注ぎ足す元が空っぽになったら……
ふむふむ、空っぽにならないようにぐるぐる回って戻ってくる仕組みができているのですね。
さすがはごすじんなのです。
ごすじんと一緒に歩いていると時間を忘れてしまいますね。
あっという間に湖まで来てしまいました。
いえ、途中で休憩もしたし、ごはんも食べたので、時間は経っています。
本当はあっという間ではないのですが、そう感じているだけですね。
もっといろんなお話をしたいのですが、ここからはお仕事の時間なのです。
まあ、お仕事もごすじんと一緒なら、きっとあっという間ですよ。
うーん……ぎゅーぃぎゅーぃというか、じょわじょわというか、べーべーというか……とにかく変な音がします。
聞いたことが無い音です。
でも、水が流れる音や、風が通る音ではなく、生き物が出している音のようですね。
何かの鳴き声でしょうか?
ほえ?ごすじんには別の聞こえ方をしているのですか?
私には雑音にしか聞こえないのです。
「これは歌のようなものだと思うよ……何のためなのかは分からないけど」
そういえば、ごすじんは虫やカエルのざわざわをオンガク?として楽しんでいました。
これもそういう種類の音なのでしょうか?
「ともかく、聞こえてくる方へ進んでみよう」
ほわぁ、これが湖というやつですね?
なんというか、でっかいでっかい水溜まりなのです。
水溜まりというのは、なかなか面倒なのですよ。
それはきれいな水でも、汚れて濁った水でもおんなじです。
水の匂いということはわかるのですが、その水が中にいるモノの匂いを隠してしまいます。
だから、水の中から急に襲い掛かってくるやつがいたら、反応が遅れてしまうかもしれません。
でも、隠れる様子もなく浮かんでいるヒトがいるくらいなので、危ないやつの心配はなさそうです。
うん?ヒトが浮かんでいる……お風呂よりずっとずっと深そうなのに?
水の中に立ったまま、こっちに近付いてきています……何か用事があるのですか?
「オラの歌に反応したっち?オメがオラの旦那様だべ?」
あ、この人は半分ヒトで半分サカナみたいですね。まるでニョロっ子みたいです。
「いや、私たちは調査に来ただけだ。というか、旦那様というのは?」
「オラたちは歌を披露して、気に入ってくれた相手と番になるんだべ」
「歌……?」
「あぁ?オメ達もオラの歌さ、歌じゃねえっち言うだべか?」
「まずは服を着てくれないか。その……目のやり場に困る」
「やっぱ陸の人はオラ達のことあんま知らねんだな。服なんか着てたら鰓が塞がって溺れ死んじまうよ」
「そうなのか、だが……」
「陸の人がよくやる勘違いさ、こりゃ乳房じゃねえ、気嚢ってんだ」
「キノー?」
「肺や鰾に繋がってるみてえだけど、オラも説明できるほど詳しくは知らねんだ」
「ヒョー?」
「だから、乳首も無えぞ。オラ達は目を潰すような照り返しや、不自然な水飛沫とは無縁なんだべ」




