境界
今日はヤギを狩りました。
もちろん、ごすじんも一緒ですよ。
最近は、ごすじんも獲物を仕留める練習をしているのです。
狩りは私に任せて、ごすじんはあんまり危ないことはしないでほしいのですが、それはビミョーなのだそうです。
よくわかりませんが、難しいことみたいですね。
仕留めたヤギを持って猟獣会に戻ってきたのですが、椅子の上に立って喋っている人がいます。
ヒツカキの時とおんなじですね。
ということは、なにか大事なお知らせなのだと思います。
「ヤーゴット領にある村でオオムジナの群れが確認された。
総数は不明ながら、最低でも三百は下らないとのことだ。
ついては当会からも援軍を送ることが決定している。
派遣を希望する、または推薦する者は受付まで申し出ること」
オオムジナですか?聞いたことのない獲物です。
聞いたことはありませんが、名前にオオというのが付いているのは、だいたいでっかいのです。
普通のやつにはオオがつきません。
でも、オオの付かない普通のやつを誰が決めたのかはわからないですね。
普通のやつよりでっかいやつにはオオが付くのですが、普通のやつがちっこいやつだと、オオが付いていても大してでっかくないこともあるのです。
だから、名前に騙されてはいけません。
初めて聞く名前なので、ごすじんが動きました。
ハンターから話を聞いて、狩るかどうかを決めるのだと思います。
私はそういうことはできないので、ごすじんに任せています。
だから、ごすじんも獲物を狩ることは、私に任せてもいいと思うのです。
でも、ごすじんが仕留めたいと思っているなら、仕方がないですね。
「オオムジナはイタチか……いや、タヌキか?目の周りに黒い毛が生えていてな、成長したら人間の子供くらいになる奴も居る。
そこそこ賢いから、正直なところ面倒臭せえ相手だな」
「あいつらは二足と四足を使い分けるし、指があるんだ。つまり……武器を使うこともあるってのが厄介なところだ」
「いや、自分たちで作るほど器用じゃねえよ。人間が作ったもんを盗んだり拾ったりだ。骨格が違うからマトモにゃ扱えねえけどな」
「骨格?ああ、例えば肩とかだよ。縦には振れても横には振れねえとか、そういう感じだ」
「まあ、参加する気なら気を付けるこったな――」
「オオムジナねぇ……正直、あたしはハンターの仕事じゃないと思ってるよ。
アレは野盗とか蛮族とか、そういう扱いにして軍とかで迎え撃ったほうがいいんじゃないかなぁ」
「言葉っぽいもの使って意思疎通してるみたいだし、獣で一括りにするのは違うような気がするんだ」
「もちろん個人的な意見だよ。偉い人の思惑なんかもあるだろうから、あたしらがどうこう言っても仕方がないけどね」
「あたしは気が乗らないけど、行きたいなら推薦したげるよ――」
「俺は行くつもりだ。あいつらには昔、郷を襲われたことがあるんでな……恨み骨髄ってやつだ。
とはいえ、あの時の群れとはまるっきり関係はねえだろうけどな」
「親父やお袋が丹精込めて育てた野菜を根こそぎ持っていきやがった。
食うものが無えなら自分達で作ればいいだけだろ?奪う方が楽だって考えてるんだ。
だったら害獣だ、狩られるのも当たり前だろ?」
「まあ、肉を食うために獣を狩ってるのも変わらねえかもしれねえが――」
「獣人の一種と考えてる人もいるみたいだね。でも、そんなこと言いだしたら獣と獣人の境は何だって話になる」
「少なくともオオムジナは人の文明を受け入れていないし、交流も望んでいない。何より生後一年ちょっとで成体になるなんて、とても人には含められないよ。世代交代が早すぎて文化が根付かないんだ」
「ちなみに、オオムジナを獣人扱いすると、獣人たちがめちゃくちゃ怒るから気を付けてね」
「それにしても君、ハンターにしては話が分かるね――」
ごすじんが戻ってきました。
オオムジナの話をみんなから聞いて来たみたいです。
私たちでも狩れそうな相手のようなので、狩りに行くことになりました。
相手をまだ見ていないのに、そういうことが分かるのはとてもすごいことですよ。
ごすじんはもっと自慢してもいいと思います。




