吾輩は……
吾輩はハセコマである。名前はカールという。
どこで生まれたかとんと見当が付かぬ。何でも薄暗いじめじめしたところでキャンキャン鳴いていた事だけは記憶している。
吾輩はここで初めて人間というものを見た。後で聞くとそれはハンターという人間の中で一番獰悪な種族であったそうだ。
このハンターというのは時々我々を捕まえて煮て食うという話である。
しかしその当時は何という考えもなかったから、別段恐ろしいとも思わなかった。
歯が生え揃い、肉を食むようになった頃、母兄弟と引き離され別のハンターと暮らすようになった。
してこのハンターは、吾輩に見返りを求めることなく食糧を与えてくる。
空腹であることを吠えて訴えれば、どこからともなく食糧が運ばれてくるのである。
量が足りぬ、味付けが気に入らぬ、匂いが好ましからぬ、すべて吠えれば事足りる。
ここは甚だ都合のよい場所と見える。
ここではハンターというものは吾輩の給仕に過ぎぬと知れたのである。
時折、依頼と称して狩りに赴くことはあったが、吾輩の体躯をもってすれば大概の獲物など、問題にもならぬ。
後で知った話によると、吾輩の先祖はさも優秀なハセコマであったらしい。
その血を引く吾輩もまた、当然に優秀であろうというもの。
ある日ハンター共々呼び出しを受けて、獣舎という場所に身を置けと言われたが、優秀たる吾輩があんな処に詰めるなど、屈辱でなければ何だというのか。
馬も鳥も一緒くたに寝起きするなど、受け入れられようはずもない。
吠え掛かれば罷り通るのだから、そのようにするだけのことである。
吾輩に何かを命ずるなど、たとえ天地が入れ替わろうとも在ってはならぬことだと知るがいい。
此度は別の街に赴くらしい。
仔細は知らぬが、ハンターは護衛などと称していた。
道中は貧相な食糧しかなく、憤懣やるかたないことしきりである。
別の街とやらに着いたなら、存分に埒を開けなければならぬ。
ここでも獣舎という言葉が聞こえた。
お前たちの言うことに従う道理など、吾輩にはない。自分の居場所は自分で選ぶものである。
ここは方々から何やら食欲をそそる匂いが漂っている。存分に食うためにも少し体を軽くしておく必要があろう。
道中乾いたものばかり食べていたこともあり、排泄に抵抗するなかなかの頑固者ではあったが、これで仔細無し。
ふむ、味の具合は多少異なるが、差し支えあるまい。
お前のそれも吾輩に食べてもらいたいと訴えているようだぞ。
どれ、吾輩が快く応じてやろうではないか。
この程度も汲み取ることが出来ぬとは慮外者め、疾く去ぬがいい。
さて、次は――
「ぐるる……」
どうしたというのだ?何だ?この威圧感は……
いや、事此処に至っては、そのようなことはどうでも良いのだ。
とにかく、とにかく跳ね除けなければ――
「ウー……」
ごめんなさい!ごめんなさい!調子に乗ってました!




