ヘラクレスの曳行
どうして猟獣会に獣が来ていますか?
犬っぽいヒトや、猫っぽいヒトは見かけたことがあります。
でも、でっかい犬?というのは初めてなのです。
うーん、それで言うと私はヒトっぽい犬なのでしょうか?
よくわかりません。
とにかく、見た目も中身も犬というのは、猟獣会では見たことが無いですね。
もちろん、仕留めて運んできた獲物のことは別ですよ。
側にいるのは主でしょうか?
「よう、兄さん。見かけない顔だが、ご立派なそいつはハセコマかい?」
「ははっ、その通りさ、雷鞭の血統を持つ由緒正しきハセコマだよ。名はカールだ」
あれ?知らない人が近付いたのに、主を気に掛ける様子が見られません。
「そりゃ結構なことだがよ、今日は何の用だい?ここは猟獣会だぜ」
「知っているさ、会長同士の会談ということで、ミルテから護衛してきたのさ」
うん?守る準備どころか、警戒する気も無さそうです。
……つまりあの人は主でもなんでもないということですね。
「てことは、あんたもハンターだろ?猟眷は獣舎に繋いでこい」
「猟眷だなんてとんでもない!コイツは俺の相棒なんだ」
「相棒だろうが女房だろうが、扱いは猟眷だろう?掟は守ってもらわねえと――」
「ヴォフッ!」
「うおっと」
今のは主っぽい人を庇ったというよりも、近くで話しをされるのが、気に食わなかっただけのようですね。
なんだか、ヘラクレスのことを思い出してしまいます。
ヘラクレスもでっかいやつでした。
そして、ヘラクレスは自分の主のことを、主だと思っていなかったのです。
まるで自分の主は自分だと考えていたみたいでした。
さらに、ヘラクレスは大事なことを教えてもらっていませんでした。
ボール遊びをしていた子供を見て興奮し、乱入して大怪我をさせてしまったのです。
それっきり、ヘラクレスは姿を消してしまいました。
「僕たちの仲を裂くことは、誰にも許されない。どんな時も一緒だ」
「いや、あんたが獣舎に移動して一緒にいてやればいいだろ」
「……(プルプル)」
「おい待て!その姿勢に力んだ顔はまさか?」
(ムリュ)
「マジかよ?コイツ……」
うんちの臭いが広がって、周りの人が一斉に顔を顰めます。
「ははっ、今日もカールは豪快だなぁ」
やっぱりこの人は主ではないですね。
これは主ではなく、ダメ主です。
うんちは主が責任を持って片付けなければいけないのです。
そういうお世話をちゃんとやらないから、主だと認められていないのではないですか?
胸元に毛玉ができているのに、ほったらかしです。
それとも、リョーケンというのはそういうものなのですかね。
猟眷というのは、獲物を追いかけたり、仕留めたりしてハンターを手伝う動物なのだそうです。
ごすじんが教えてくれました。
ということは、私も猟眷なのですか?
いえ、私はたしか猟番とかいう種類のハンターでしたね。
だから、ごすじんと離れて獣舎に行く必要はないのです。よかったですね。
「どうしたんだい、カール?みんなにご挨拶したいのかな?カールはえらい子だね」
「おい、そいつを野放しにするんじゃねえ!あとクソの始末をしろ!」
えらい子?コレが?
どう見ても、ただのうんこたれなのです。
気ままに歩き回って、誰かのごはんを勝手に食べたりもしています。
よそはよそ……ですが、こっちにまで来るようなら、ちょっと警戒しないといけませんね。
「忠告、というか警告だ、今すぐ獣舎に連れて行け。あっちはヤベェんだ」
「それはカールに危害を加えるという脅しかい?」
「あっちに居るのは抜き身のナイフ、いやもっと危ないナニカだ」
「ナイフごときでカールが怪我をするものか」
「無事にミルトに帰れるといいな……」
うんこたれは他のハンターの前で止まって、ごはんをじっと見ます。
ハンターが嫌がって席を離れると、そのご飯を食べてしまうのです。
あと、通りたいところに誰かがいると、吠えて道を開けさせます。
ダメ主はそれを叱るどころか、嬉しそうに見ています。
まあ、初めから叱るとは思っていませんでしたが……
そして、ついにうんこたれがごすじんに近寄ってきました。
おい、そこで止まれ。それ以上は近寄るな。
「ぐるる……」
「ヒィン……グ、ギャウギャウ!」
ごすじんにちょっかい出したら、その瞬間……
「ウー……」
お前は敵だ。
「キャイン!」
「ああ!待ってくれカール!どこへ行く?どうしたんだ?」




