押してダメなら足してみろ
ハンターにはいくつかの心得がある。
その中の、「茂みから命乞いが聞こえても一人で向かうな」ってのが今回のヤツだ。
ミチヅレと呼ばれている質の悪い獣がいる。
アイツらは喉の仕組みが上等らしく、いろいろな生き物の声を真似ることが出来る。
兎も、猪も、鳥も、もちろん人でもだ。
だから、獲物を追い詰め、生きたまま食らい付き、悲鳴を上げさせ、それを覚える。
そして茂みや暗がりの中で、覚えた悲鳴を上げるんだ。
同族の悲鳴を聞いて逃げ出すような生き物なら問題はないが、
同族を助けようとする、知能のある生き物がこれに嵌まったら最悪だ。
騙された同族が救出に向かって同じ目に遭う。
その度に、悲鳴の種類が充実していくんだ。
悲鳴だけじゃねえ、命乞いや断末魔だって揃っていく。
一頭が覚えられる数はそんなに多くないみたいだが、奴らは小さな群れを複数作る。
その中のどれかが当たれば、あとは餌の方からやって来るってワケだ。
当然、餌の種類は偏ることになるが、逆に言えばその種に特化した群れが出来上がるってことでもある。
特に子供の悲鳴や、女の悲鳴は効果抜群だろうな。
それを覚えてるってことは、どこかの集落が犠牲になった可能性が高い。
一人で茂みに飛び込んで仲間を助けようなんて子供はいない。
気質の問題じゃなく、大人がそんな状況を作る、または許すはずがないからだ。
そんなのが街道沿いに住み着いたら、たまったもんじゃねえ。
だからこそ、急ぎの案件として猟獣会に持ち込まれた。
俺達も、こうして狩りに赴いたわけだが……思った以上にやりづれぇ。
「やめテ!来なイで!」
「ごめんなサイ!もうしなイ!もうしなイからぁ!」
「いイコになる!いイコになリマす!」
孤児院育ちだった俺達は、学もねえし、大工や左官の見習いも投げ出したロクデナシだ。
そんな俺達でも、ハンターとしてなら金を稼ぐことが出来た。
最近は稼ぎも増えてきて、孤児院に仕送りをするようになり、少しは院長にも顔向けできるようになった。
今はたまに肉の差し入れをしているが、俺達が顔を出すと、子供達が寄ってきて狩りの話をせがんでくる。
そんな子供達の顔が頭に浮かんで、思わず手が止まってしまう。
子供を痛めつけて喜ぶ変人ならともかく、俺にそんな趣味はねえ。
捕り逃すわけにはいかねえ、それは分かってる。
頭じゃ分かってるのに――
「手こずってるみてぇだな。手ェ貸すぜ、オラァ!」
いきなりやって来た三人組のハンターが、あっという間に数頭のミチヅレを切り伏せてしまった。
「許しテ、タスケ――ガッ」
仲間をやられて逃げ出そうとしたヤツも、一切の容赦もなく仕留めていく……
俺達は啞然として、その一部始終を見ているだけだった。
後始末をしながら聞いてみた。
「どうすれば、あんな風に躊躇いなく殺れるんだ?」
「ん?ミチヅレの事か?」
「そうだ……やっぱり覚悟とか、割り切りの問題なのか?」
「お前らも女や子供がチラついて、つい止まっちまうタチだろ、分かるぜ」
「え、ああ……」
分かる?俺達と同じ気持ちを抱えながら、あんなにあっさり討つことができるものなのか?
「まあ、頭ん中空っぽにして狩れるなら、それが一番なんだがよ、それは難しい……よな?」
「やろうと思ったことは無いが……多分無理だ」
「だったら、考え方をちょっと足せばいいんだよ」
「足す?」
「ああ、俺達もある人に教わったんで、こうやって広めてる最中なんだが……」
「ミチヅレが子供の声真似をするのは、子供を食って悲鳴を聞いたからだ。それは分かるよな?」
「分かってる」
「死んでからも、その声を利用され続けてる女子供の事を考えてみるんだ」
「!」
「浮かばれねえと思わないか?」
「それは……確かに」
「そんで、その声を利用してるミチヅレを、憎たらしいとは思わねえか?」
「……許せねえな」
「今まで声を聞いて怯んでたのは、何もおかしな事じゃねえ。次からはそれを足すってことだ」
そうか……非道に徹する必要なんて無いんだ。
そもそもが大きな勘違いだ、非道な行いなんかじゃない。
自己満足かもしれないが、ミチヅレを仕留めることは、犠牲になった人を救うことになる。
そして少なくとも、これから先の犠牲者を減らすことには繋がる。
それについてはな疑いようもない。
……しかし、気になることもある。
「教わったって言ってたよな。一体誰に教わったんだ?」
「へっぴり腰のハンターだ。名前までは知らねえ」
「広めてるっていうのは?」
「自分じゃ大して狩れねえから、代わりにみんなでやっつけてくれって言ってたぜ」




