河豚は食いたし
「こんだけ食ったやつがいる街なら、ドラゴンも近付くのは躊躇うってモンさ」
「なるほど、未知のものに名前や姿を宛がい、対策を作って安堵を得る……生活の知恵だね」
「未知?ドラゴンはたまに来るぞ?何十年って単位でのことだけどね」
「会った人もいるということかい?」
ごすじんは会ってみたいと思っているようです。
「さぁ?アタシはまだ遭ったことが無いねえ」
「本物、どんなの?」
「災害……かねえ?飯も食うし、糞もする。傷を負えば血が出るらしいから、倒せるかもしれない災害ってところか?」
むう?災害というのは地震や台風です。
相手がいないからこそ、止められないし怖いものなのですが?
相手がいるなら、きっとごすじんが何とかしてくれますよ。
だから、私には怖がる理由はないのです。
「いつかは本物も食ってみたいと、思わないでもないけどね……
詩が本当なら、捨てなきゃならないものが多すぎるね」
食べたいのに、食べるのが怖いということですか?
やっぱりドラゴンは、よくわからないのです。
「人で無くなる、戻れなくなるかもしれないということかい?」
「そうさね」
「それは心配いらないと思うよ?まあ、確かめようはないけどね」
「聞かせてもらおうじゃないか」
「ドラゴンは強大だけれど、同族での争いや、寿命で死ぬ個体もいる。こういう認識であってる?」
「そりゃ間違いない。探索や開拓で見つかった骨を、大金懸けて集めてるヤツもいるぜ」
「じゃあ、死んだ後、骨になる前の皮や鱗、肉はどうなったんだろうね?」
「そりゃ肉食の獣や、虫なんかが集ってキレイに――あ!」
「もし、詩に伝わる通りだったら――」
「そいつらがドラゴンになれば、世界は今頃ドラゴンで埋め尽くされてるな」
「……」
ごすじんが苦笑いしています。
言おうと思っていたことを、先に言われてしまったみたいですね。
「これ、詩人に広めりゃ一儲けできるんじゃないか?」
「そんなことはしないよ」
「どうしてだ?」
「ドラゴンを食べるために、危険を冒す者が増えるかもしれない」
「それは自業自得ってもんだろ?」
「いや、それを命じられる立場の人が知ったら、面倒じゃないか」
「……アンタ本当にハンターなのかい?実は学者先生とか、どっかの参謀だったりしないか?」
「しがないハンター、ただの猟偵だよ」
「銅鑼が鳴ってるね。アンタも行くかい?」
「そう言われても、あれが何の合図なのか分からないよ」
「そういや祭り、初めてだったな。あれは闘技会の寄せ銅鑼だよ」
「つまり、戦い……というか試合がある?」
「アタシは参戦側だが、アンタも出てみるかい?飛び入りも受け付けてるはずだよ」
「いや、遠慮させてもらうよ」
「そうだね。料理人には包丁を持たせておくべきだね」
「お祭りの催しなら、見物しに行こう」
「フンッ!」
「ごはっ!」
「勝者、牙の側、銀角」
「オラァ!」
「ぐほっ!」
「勝者、爪の側、銀角」
おー、角の人はかなり強いのですね。
というか、この人たちはどうして戦っているのですか?
縄張り争いでも、ごはんの取り合いでも、番を巡る競り合いでもなさそうです。
持っているのも木で作った偽物で、仕留める気も感じません。
群れの中の序列を決めているのでしょうか?
でも、同じ群れというわけでもなさそうですよ。
「聞いてるぜ……お前、つい最近負けたそうじゃねえか?怪我でも隠して――」
「ハァッ!」
「あべし!」
「とんだ勘違いだね。アタシは倒されたんじゃない。ただ負けを認めただけさ」
「勝者、牙の側、銀角」
「決勝戦!牙の側、銀角アプロ!爪の側、雷槍ホウガ!」
どうやら次が、最後の戦いのようです。
「ようやく、満足のいく相手と戦えそうだね。アンタはどんな技を見せてくれるんだい?」
「フッ……見るだけで済むとは思ないことだ」
「初め!」
「奥義、震方擲衝!」
「く、うぐっ……いきなり奥義でお出迎えとは……剛毅だね」
「凌いだか、だが長くは保つまい」
「それは……どうかねえ?」
「貴様を倒せば、更に名が広まるというもの。心置きなく踏み台になるがいい」
二人とも、振り回しているのは偽物なのに、まじめな顔なのはちょっと不思議です。
「ギリギリまで起こりを伏せた上で、無呼吸の連続攻撃、奥義ってだけのことはあるね」
「知ったところでどうにもなるまい。潔く散るのだな」
「ちぃっ」
始まってから、ずっと角の人が押されているみたいです。
腰を落とした体勢からの攻撃を、避けたり防いだりするだけで、攻撃できていません。
相手は、息を吸うのも我慢して連続で動いています。
今から行くぞ、と知られないようにするためだと思いますが……
つまりそれは、息を止めるのがあの体勢の合図ということですよ?
あの体勢を取らせなければ、済むことだと思うのですが。
「知ってたかい?ハンターってのは――」
「いい加減に――」
「飛んで来るヘビを捕まえるんだ、ぜ!」
「何を――」
角の人が、相手の棒を捕まえてしまいました。
「アンタの攻撃はヘビより速かったが、真っ直ぐだ。狙いもアタシだけだしな」
相手は棒を握ったまま動きません。手を離せば動けるのに、どうして離そうとしないのでしょう?
「殺傷力の低い得物で、何度も見せるんじゃなかったね……セイッ!」
「ぶげら!」
「勝者、牙の側、銀角」




