ムーチョ・ドラゴン
今日は、いよいよお祭りです。
狩りはお休みして、ごすじんとお出かけなのです。
まあ、ごすじんとお出かけするのは、祭りじゃなくても楽しみなのですよ。
それでも、いつもと同じ場所なのに、いつもと様子が違うのは少しそわそわしますね。
お祭りというのは、いつもがいつもじゃなくなる時間なのです。
前に、玄関に子供やがきんちょが来て、合図をするお祭りがありました。
変な服を着たり、顔を変な色で塗ったりしていましたが、バレバレです。
あれは近所の子供たちだったと、匂いでわかっていました。
ごすじんは、私を隠れんぼさせてお菓子を渡していましたね。
がきんちょが、私を見つけられないように。
でも、お祭りといっても何をすればいいのですか?
踊るのですか?並ぶのですか?それとも泥を投げ合いますか?
この街のお祭りは初めてなので、ごすじんにもわからないそうです。
気の向くままに歩き回って、面白そうなものを探すみたいです。
まずは遠征で狩ったヘビがどうなっているか見に行きます。
これはやばいやつですね。
切ったヘビが串焼きになっていますが、ヘビの匂いがほとんどありません。
その代わりに、辺り一面がチクチク・ヒリヒリした匂いに囲まれています。
吸い込むと鼻が痛くなりそうです。
ドラゴンカバブという料理のようです。
食べたら火を吹くかも、と言われても……ええ?ごすじんは食べるのですか?
やめておいたほうがいいと思いますよ。
「待ちなよ、そいつは単品で食うモンじゃない」
今日は角の人が付いて来てないと思ったら、先回りされていました。
「周りをよく見てみな、みんな串と酒を交互に口にしてるだろ?」
そういえば他の人は、フーフーとかヒーヒーとか言いながら、何か飲んでいますね。
ヒリヒリの匂いがいっぱいでわかりにくいですが、お酒の匂いもしています。
「アンタにゃ美味い酒を馳走になったことだし、ここはアタシが持つよ」
「山羊の乳から作った酒さ、コイツとやらなきゃ舌が馬鹿になっちまう」
そんな味付けにしなければ、そもそも問題ないのではないですか?
それから、ごすじんもフーフーヒーヒーの仲間入りをしてしまいました。
このお酒を飲むと、辛いのが消えるので、食べて消してを繰り返せるそうです。
「ただまあ、本当の苦しみは明日なんだけどね」
二日酔いというやつですか?でも、ごすじんはそんなにたくさん飲んでいません。
「ケツが燃えるのさ」
「ふーん、この祭りは初めてなのか……馴染み方からして、居付いて長いのかと思ったよ」
そういえば、ごすじんは私と違って、すぐに街に馴染みましたね。
これも、ごすじんのすごさということですね。
「それなら、この串焼きの由来なんかも知らないのか?」
ごすじんが興味しんしんなのです。
「祭りの間は詩人が広場で繰り返し歌ってるから、聴きに行こうじゃないか」
角の人は今日も付いて来るみたいです。
縄張りを追われた竜ありけり
新たな塒を求めこの地を訪れん
王は配下に退治を命ずる
騎士は敗れて城は燃ゆ
一人の勇士が立ち上がり
竜の尾を断ち食らいけり
勇士は姿を竜に変え
火を吹き竜を屠りたり
勇士を称える者は無し
山は灰に野は砂に
新たに人が住まうまで
新たに人が住まうまで
意味はあんまり分からないですが、わざと苦しそうな声を出しているみたいですね。
まわりの人も、なんだか苦しそうな顔をしています。
ウタというのは歌とは違うのですか?よくわかりませんね。
「まあ、この詩ってのも一様じゃなくってね……次はあっちを聴いてみなよ」
老竜北からやってきて 孤児の娘を見出した
竜は娘の父となり 娘は竜に親を見た
父に倣って山で生き 娘もいつしかお年頃
西から邪竜がやってきて 山を寄越せと大騒ぎ
老いた口では火を吹けず 父は敗れて死に体に
父は娘に言い残す 己を食して糧にせよ
涙をこらえて父を喰い 娘は邪竜を討ち果たす
これは何と言うか……歌ですね。
ごすじんがたまに歌う、ヨサホイのホイみたいな感じです。
「変わり種もあるぜ、ほらあそこ」
行け行け僕らのリンブロン
強さの秘密は赤い串
一口食べたら空を駆け
二口食べれば火を吹くぞ
全部食べたら変身だ
ドラゴンパンチは熊殺し
ドラゴンキックは虎殺し
いまだ必殺ドラゴン大車輪
戦え戦えリンブロン
強さの秘密は赤い串
ここは歌う人の他に、踊る役目の人もいますね。
他の人も掛け声を合わせたりしてノリノリですよ。
「まあ、真相はどうあれ、どれもドラゴンを食えばドラゴンも倒せるって噺だ。
だからみんなでドラゴンを食べようってことだな……紛い物だけどな」
なるほど、わかってきましたよ。
つまり、みんなで一緒になって、ドラゴン食べるごっこをしているのですね。
オニを追い払うごっこをして、お豆さんを食べるのと同じです。




