不動金縛りの術
アタシは力の信奉者だ。
強さというものを、信仰していると言ってもいい。
西に強者がいると聞けば戦いに行き、東に達人現ると聞けば挑みに赴く。
常勝無敗とはいかないが、幾多の勝利を拾ってきた。
負けた時でも敗因から学び、徹底して自分を鍛えてきた。
ほんの一瞬でも、自分の目でてっぺんを拝んでおきたいじゃないか。
幸いにも、体格には恵まれている。
怪我しにくい頑丈な体に、傷も癒えやすい体質だ。
鍛錬は平等じゃない。
成果は本人の資質に左右される。
資質のない奴がいくら無茶をしようとも、アタシのようになれはしない。
残酷なことだが、事実だ。
この街に来たのは、次の標的を探すためだった。
大きな街ならそのものが居る可能性も高いし、遠方の噂だって集められる。
そこで目にしたのが、先日展示されたというガナリグマの剥製だ。
震えたね。
かなりの大物だった。
そして、剥製ってことはコレを仕留めた人間がいるってことでもある。
素材は猟獣会から献上されたって話だ。
だから猟獣会にやって来た。
景気よく啖呵を切ってみたが、反応はイマイチだ。
建前を作るために一人ぶっ飛ばしちまったよ。
まあ、あの程度でまいっちまう奴なら、件の熊とは無関係だろう。
ちょっと気の毒だが、そこで見せしめになっといておくれよ。
改めて熊のことを尋ねたら、全員の視線が一人を指した。
ガタイは普通……いや、ハンターとしてなら劣っていると言って良い。
なんだか委縮しているようにも見える。
先入観は捨てろ、小柄でも熟達した使い手は居ただろ。
ほら、目つきが変わった。
それにしても、何だこの……気持ち悪い。
声もかけずに人の間を縫って進んでいる?
アタシが威圧を放って人を退けるのとは違う。
コイツが通る時には、既に人が居なくなっているような……
あの手刀のように構えた右手に、何かタネでもあるのか?
少し話して察したことは、コイツは熊をやっていないということ。
ただし無関係でもない。といったところか。
そして、コイツは席に着いてから、ある一点にだけ視線を向けていない。
アタシが注目したら困るものが、そこにあるってことだ。
概ね見当が付いたよ。
あの獣人が、熊討伐のキモだったんだろう。
だけど、アタシとは戦わせたくない。
そうなんだろ?
案外簡単にたどり着くことができたってわけだ。
なのに……動けねえ!
いや、動けないわけじゃねえ!
コイツは角に手を添えてるだけで、大して力も込めちゃいねえ。
すぐにでも振りほどいて、立ち上がれば終わりなんだ。
けど……十五年物だぞ?
これをテーブルに飲ませちまうなんて。
くそっ!
「紐が燃え尽きた。これで終了だね」
「てめえ、こんな勝ち方して誇りはねえのか?」
「誇るも何も、私は勝負をしていたつもりなんて無いよ」
「はあ?」
「ルールの追加もしていないし、合意だって取っていない」
「ああ、うん、そう……か?」
「ただまあ……ハンターはこういう手も使って、狩りをするものだからね」
「アタシには挑む資格もないって言いてえのか?」
「そういうのじゃないんだけど……うーん、何と言ったらいいか」
「とりあえず、コップを退けちゃくれないか」
「ああそうだ、例えば料理人の優劣を決めるとき、剣を持たせて斬り合いはさせないだろう?」
「いいからコップをどけろ!でもって、アタシに飲ませろ」
「はいはい」
「この馥郁たる馨り、舌の根を焼くような辛さ、潔く消えるかと思えば余韻に残る香ばしさ……これで十五年か」
「少々席を外しても構わないかな?」
「んあ?なんだ?腹でも痛えのか?」
「恥ずかしながら、その通りなんだ……ちょっと失礼させてもらうよ」
掴みのどころのない奴だ。
酒を準備させてテキパキ取り仕切ったかと思えば、今度は腹を押さえてヘコヘコしてやがる。
そういや、あの獣人……途中から備えてやがったな。
もう少し揺さぶりをかけていれば――
やめだやめだ、たった今してやられたところだぞ?
上手くあしらわれて終いだね。
『オエェェェ!』
なんだよ?人がいい気分で負けを受け入れているときに……
『ゲブッ』
いや待て、さっき便所に入っていったのはアイツだ。
なら、今吐いてるのは……
だっはっは、中々おもしれえヤツだな。




