たのみたもうとのたもうたり
猟獣会の様子が元に戻りました。
ヒツカキの作戦のために集まっていた人たちが、帰ったみたいです。
なんだか、前よりも広くなったような気がしてきますね。
人が多いことが、当たり前になりかけていたようです。
まあ、私は静かな方が好きなのです。
む?初めて嗅ぐ匂いが近付いています。新しい依頼でもしに来た人でしょうか?
「たのもー!」
あばば。静かなひとときが終わりを迎えたのです。
その人は入って来るなり、床を踏み鳴らして声を張り上げました。
「ガナリグマの剥製を見てきた。あのデカブツを屠ったハンターがここに居るとも聞いた」
何を頼みに来たのかはわからないですが、頼み事は静かにやった方がいいと思うのです。
ほら、みんなから困った顔を向けられていますよ。
声も大きいですが、体も大きい人ですね。
あと、頭の横からとんがった角が生えています。
その角は曲がっていて、先っぽはちょうど前を向いています。
髪は短めですが、胸がせり出しているので女の人でしょうか?
いえ、せり出しているというよりは、聳え立っていますね。
あんなものをぶら下げていて、邪魔になったりしないのですかね。
「大方の目的は察するが、ここは道場でもなんでもないぞ?」
「あれだけの熊を仕留める豪傑がいるとなりゃ、道場でなくとも挑むのが礼儀ってモンだろ?」
「俺たちは仕事で狩りをやってんだ。武勇を誇ることじゃねえんだわ」
「へぇ……なら、こういうのはどうだい?」
「ここ――」
「ヘブッ!」
おぉ、人は空を飛ぶこともあるみたいですね。
「どうよ?街の平穏を脅かす害獣が現れたぜ、討伐しなくていいのかい?」
「とりあえず、会長に報告な……まぁ、出てこねぇとは思うが」
「さあさあ、あの熊をやった奴はどいつだ?出てこねえなら、一人ずつ確かめてくだけだぜ」
みんなが一斉にごすじんを見ます。
もちろん私も見ます。
アレはみんなで仕留めましたが、ごすじんが仕留めたようなものです。
だから、ごすじんに任せれば、この人の頼みもきっと上手くいくはずですよ。
あれ?なんだかごすじんが、浮かない顔をしています。
ごすじんでも難しいような依頼なのですか?
でも、まだ内容は聞いていないはずです。
「へぇ、人は見かけに依らないたぁよく言ったもんだ。アンタが熊殺しってことかい」
ごすじんが困ってしまうと、私まで困ったような気になってきてしまいます。
ごすじんは私に見えるように笑顔を作ると、ゆっくりと角の人に近付いていきました。
私にはわかるのです。
ごすじんは、言ってないけど「任せろ」って言ったのです。
「まずはこちらの話を聞いてもらえないか、時間稼ぎや逃げたりするつもりはない」
「嫌だと言ったら?」
「全力で逃げたうえ、捕まったら無抵抗に徹しよう。君は目的を果たせない」
「汚ねえぞ」
「熊を倒した時の話に、興味は無いかな?」
「う、まぁ……それは」
「ここは邪魔になる。食事ブースの方へ行こう」
「ちっ」
「つまり、あの熊は単独で戦ったわけでも、正々堂々と制したわけでもないんだ」
「アンタ、ここに座ってから、あえて見ないようにしてるね?」
「まじまじ見ては不躾――」
「乳の話じゃない。分かってんだろ?」
「……何の事かな?」
「見てない場所……あの獣人が本命で、アンタは身代わりか」
「さあ?よくわからないな」
「さっさとアイツを差し出したほうが、身の為だと思うけど?」
「うーん、どうすれば信じてもらえるかな」
「なら、この麻紐が燃え尽きるまで、角を握ってアタシを抑えてみせな。アタシの郷の風習だ」
「抑えるというのは?」
「アタシが椅子から立つのを留まらせるってことだ。殴ったりはナシ、ただ立つだけだ」
「椅子に座り続けさせればいいと?」
「ああ、初めの体勢も決めさせてやるよ」
角の人は、もしかしたら敵かもしれないですね。
ごすじんに対して、挑発的なように見えます。
備えておきましょう。
「それなら、問題なさそうだ」
「ほぉ?吹くじゃねえか、おい!お前、こいつがアタシの角を握ったらこの紐に火を付けろ」
「待って待って、一息入れてからにしよう。お酒は飲む方かい?」
「はぁ?酔わせて撒こうったって無駄だぜ?アタシは大酒飲みでな」
「ハンナさん、ここで一番高い酒って何かな?」
「ニコルソンの十五年物かなぁ?祝杯用に取り置いてるヤツ」
「コップは小さくていいからギリギリまで注いでもらえる?」
「なんだぁ?折角のいい酒で貧乏臭ぇ真似しやがって……」
「体勢は指定させて貰えるんだったね?」
「うん?あぁ、どんな体勢だ?」
「テーブルに両手をついてくれるかな?親指だけ並ぶように合わせて」
「飲んでから、じゃねえのかよ?」
「終わったら好きなだけ飲むといい。ここに置いておくから。じゃあ開始だ」
「は?」
ごすじんが角の人の指にコップを置きました。




