風物詩
「知っての通り、今期もヒツカキの掃討作戦を行う。強制ではないが奮って参加して欲しい」
なんだか偉そうな人が、椅子の上に立って呼びかけているのです。
それと、ヒツカキ?なにか引っ掻いてくる獣ですかね?
「ヒツカキは、お櫃を齧るのが転じた名前ニャ。忌々しいネズ公なのニャ」
あと、なんでニャーの人は私の近くに居るのですかね。
「ニャーとおミャーは同じ飯を食った仲間ニャ。あと、ニャーを泣かしたことは水に流すから、おミャーの動きを近くで見せるのニャ」
私は敵を成敗しただけなのです。泣かせたのはごすじんなのですよ。
いえ、ごすじんが泣かせたのではなく、ニャーが勝手に泣いただけですね。
今のところ、ごすじんが追い払うそぶりを見せていないので、好きにさせていますよ。
「五日後、作戦開始の予定だ。参加希望や確認事項は、受付に専用窓口を設けるので、そちらを利用するように」
なんだか、いつものような依頼とは、ちょっと違う狩りをするみたいですね。
「アイツらは夜に動くのニャ。夜目が効くニャー達が、それを追って巣の場所を調べるニャ」
ごすじんはどうするのですかね?
私はもちろん、ごすじんがやることを手伝いますよ。
「昼になったら、大勢で巣から追い立てて狩場に誘導ニャ。だからニャーの役目は重要なのニャ。偉大なのニャ」
ニャーの人の間合いは、よくわかりませんね。
謎です。狭いと思ったら広いときもありますよ。
おや、ごすじんが聞き込みを始めたみたいですね。
「よう、あんたか。熊の時は世話になったな。
いやいや、あとはトドメだけってとこまでお膳立てしといて、何もしてないは無えだろう」
「へえ、今回が初めてなのか。ヒツカキは、俺の膝のチョイ下くらいの大きさのネズミだ。
普段は野山で虫や木の実を食ってるみてぇだが、繁殖期になると街まで来やがる。
食いまくって、肥えて、子供を増やすんだ」
「気は荒い方じゃねえが、あいつらが増えるとウサギなんかが減っちまうんだ」
「あと、街に来ちまったら人様の食い物もお構いなしよ。
昔は街にも棲んでたみてぇだが、ある時期に総出でおん出したんだとさ」
「おう、俺は勿論参加だ。そんときゃまたよろしく頼むぜ――」
「ヒツカキ、見たことねえのか。まぁ、あいつらが動くのは夜だしな。不思議じゃねえよ」
「なんでも、大昔にゃあ居なかったらしいぜ。学者先生が言うには、他所の獣が渡って来たんだそうな。
どこぞの馬鹿が持ち込んだか、戦争やってた頃の工作って説もあるみてぇだがよ」
「実は不吉な話があってな、あいつらは瘴気を振りまくとかなんとか……
仕留めた後、死体から黒いものがフッと散るところを見た奴が何人もいるってよ。
何年か前、成果が上がらなかった年に、原因不明の病人が何人も出たんだ」
「後はたまーに、掃討作戦の後に体調崩すハンターがいるな。
それが瘴気の裏付けだ、なんて言う奴も居たりする。
ま、俺達は食えるヤツは狩るし、食えるモノを食っちまうヤツを狩るだけさ」
「お互い様ってやつだよ。今度面白え話でも聞かせてくれや――」
「おうおう、また悪辣な策でも巡らしてんのか?いや、褒めてるんだぜ?
あんた猟偵なんだってな。なのに、あの熊狩りの立役者だって言うじゃねえか」
「ん、毎年の作戦?それなら、夜目が効く連中が奴らの動きを監視して巣の場所を割り出すんだ。
昼になったら音や煙で巣から追い出して、総出で本隊の方へ誘導してブスリってな」
「本隊は待ってる間ヒマなんだが、とにかく数が多いんで、狩り出したら大忙しで大騒ぎなんだと。
ただ、俺は集団で指示待ち、しかも丸一日ってのは柄じゃねえ。不参加だ」
「参加はしねぇが、意義は分かってる。邪魔はしねえさ――」
「こいつは援助みてえな側面もあるんだ。ヒツカキは猟偵でも狩りに参加できるのさ。集団戦だしな。
それに、この毎年の掃討作戦で、当面の食い扶持を稼いで、身を繋いでる連中もいるくれぇだ」
「まあ、それを元手に装備や罠を新調した方が、結果的には普段の稼ぎが増えると思うがよ……
こう、なんて言うかな……安定に慣れちまって、挑戦できなくなる奴のことも分かっちまうんだなぁ」
「今更駆逐するのは不可能ってのがまた、あいつらが足踏みを続ける原因にもなっちまってるんだが、
それが良い事なんだか、悪いことなんだか、な」
「熊の件で折れちまった奴も居るし、俺も穴埋めで参加だな――」
ごすじんが難しい顔をして戻ってきましたよ。
聞き込みは失敗してしまったのですか?
ふむ、失敗したわけではないのですね。
あ、またおやじさんのところへ行くのですか。
おやじさんは大丈夫でしょうか?
この前、歩きながら寝ていたらしいですが、ちゃんとごはんを食べていますかね?
……あと、ニャーの人はなんでついて来るんですかね。




