ニャー
「今年もニャーが来てやったのニャ」
「おう、もうそんな時期か。やっぱり繁殖期の前に叩くのが一番だからな」
「ありぇ?ひげクマのおっさんは、顔が平べったくなったのニャ?」
「ああ、そのことなんだが、お前さんは無神経なところがあるから――」
「おーぅ、知らない顔も増えてるのニャー。挨拶してくるのニャ」
「聞けよ!死ぬぞ」
なんだか今日は猟獣会が騒がしいのです。
いつもより人が多いからですね。
さっさとごはんを済ませて、静かなところへ移動するのです。
ごすじんも、ちょっと緊張気味ですね。
「んおぉ?それが鉤手甲ってヤツなのニャ?最近持ってるハンターが増えてるニャ?」
むう、なんかうるさいのが来ましたよ。
ごはんの時は、間合いの調整ができないので、近くに来ないで欲しいのです。
「おミャーの食べてるソレ、美味そうニャ。一切れ貰うニャ」
あっ
「やっぱりニャー。うんまいニャー――」
「ガルァ!」
「かひゅっ……」
コイツは私のごはんを奪いました。
これは、敵です。
はっきりと、私の敵として行動しましたからね。
「苦し……息、で……」
なかなか反応が速かったのですが、守る場所を間違えています。
顔を庇ったのは失敗でしたね。狙ったのは首ですよ。
周りの人が距離をとって、ざわざわし始めます。
ごすじんもびっくりさせてしまいましたね。
大丈夫です。不届き者は、私がちゃんと成敗しておきますよ。
「ああ、言わんこっちゃねえ……」
「何があったんだ?」
「いつもの、一個ちょうだいをやったらしい」
「……その結果でアレか」
「あー、悪いんだが、放してやってくれねえか。埋め合わせは俺がする。
今は戦力を減らしたくねえんだ……そいつにも担当があってな」
ごすじんが「まて」をしたので、一旦放してやります。
「けほっ、かはっ」
でも、こいつは敵です。警戒は解きませんよ。
「ぐるる」
「ひどいのニャ。ニャーは何も悪いこと――」
「したんだよ」
ごすじんが、ニャーの人に話しかけました。これは昔、躾の時によく見た顔なのです。
「ニャ?」
うひぃ、なんだか私まで、もぞもぞしてきますよ。
「ごはんは生きていくために食べるもので、仕事をする元気を作るものだ」
「そのくらい知ってるニャ」
「それを奪って食べるということは、自分が生きるためなら、相手が死んでも構わないと言っているのと同じだよ?」
「ニャーはそんなこと言わないニャ!思ってもいないニャ!」
「じゃあ、挨拶だからと私が君の耳を引っ張ったらどうなるだろう?」
「そんなイジワルする奴は、八つ裂きにしてやるのニャ!フカー!」
「でも、私はイジワルしようだなんて思っていない。だって挨拶なんだよ?」
「みゃ?」
「挨拶したいけど、八つ裂きにされるのは嫌だ、どうしたらいいと思う?」
「めぉぅ……」
ごすじんが、丁寧にニャーの人に話を聞かせています。
だんだんと、ニャーの人が静かになっていくのです。
いつの間にか、耳がぺったんこですね。
あの顔のときのごすじんは、なかなか手ごわいのですよ。
優しいけれど、厳しいのです。
「ボクは自分の皿より、人の皿にある物の方が、美味しそうに見えちゃうんだ」
あれ?ニャーの人が、ニャーの人じゃなくなりましたよ?
「それに、同じご飯を食べたら、その人は仲間だってお婆ちゃんが……」
「いいお婆ちゃんなんだね。どうしたらいいか、一緒に考えようか」
出ました。ごすじんの「一緒に」です。
これは、できるまで、わかるまで、逃がさないという意味でしたね。
ニャーじゃなくなった人は、耳を伏せて帰ってしまいました。
周りの人も、元いた場所に戻り始めています。
「あんたすげぇな。あの白足袋に説教かまして説き伏せるたぁ……どした?」
「いえ、腰が抜けてしまいまして」
「すげぇんだか、ショボいんだか分からねえな」
ごすじんはすごいのですよ。
強くなくても、ショボくても、すごいというのはおかしくないはずです。
次の日も、猟獣会でごはんを食べていると、またニャーの人が来ました。
「ぐるる」
「待つニャ!ニャーはもう勝手に盗ったりしないのニャ」
どうやら、ちゃんと覚えられたみたいですね。
「でも、やっぱりそっちの肉の方が美味そうなのニャー」
覚えたけれど身についていない、ということでしょうか?やっぱり油断してはいけませんね。
「だから、ニャーの肉とそっちの肉を、一切れ交換するのニャ」




