ゴールデンルーキー
ようやくこの時が来た。
僕の名前は――
いや、止しておこう。僕は今日から、名もなきハンターなのだ。
でも、そう遠くないうちに、人々は口をそろえて僕をこう呼ぶことだろう。
金色の狩人、ゴールデン・オーラムと。
先日、父のもとにガナリグマの骸が献上されてきた。
近年稀にみる大型の個体で、幾多のハンターを打ち破ったのだそうだ。
父はすぐさま剥製にするべく、手配を済ませていた。
外傷も少なく、栄誉としても教訓としても、この上ないトロフィーになるだろう。
あの巨躯を無力化したのは、たった二人のハンターだったという。
体を鍛え、技を磨き、どんな困難にも敢然と立ち向かう二人組のハンター。
時にその身を盾に、その命を剣に、凶悪な猛獣をも討ち果たす。
これはもう、英雄そのものじゃないか。
僕の心の奥底に、熱いナニカが灯った瞬間だった。
ハンターには、誰でもなることができるが、全員が獣を狩れるわけではないらしい。
正確には、猟番なる戦闘員と、猟偵なる斥侯役を、まとめてハンターと呼んでいるそうだ。
ある程度猟偵として活動し、適性が認められれば、猟番として活動できるのだという。
剣術には自信があったのだが……素気無く猟偵として登録されてしまった。
だが、天は僕を見捨ててはいなかった。
猟偵であっても、猟番の伴いがあれば、狩りをすることができるらしいのだ。
そこで実力を見せれば、飛び級で猟番に抜擢されるかもしれない。
誰も僕と組んでくれない……
怪訝そうに、その鎧で狩りに行く気かとか、縄や袋はどこだと聞かれる。
この鎧は御旗の代わりで、僕の存在を周りに知らしめるものだ。
それに、動きの妨げになるものは戦場では死を招くのだ。と兵士長が言っていた。
そう答えると、ハンター達はみんな用事を思い出して去っていく。
僕と並び立つことが劣等感を煽るのだろうか?
制度さえなければ、今すぐにでも打って出るものを……
逸る気持ちを抑えながら機を窺っていると、二人組がやってきた。
一人は体調がすぐれないようだ。
そうだ、そうとも。無理は良くない。
今日は僕、いや俺と組むことにしないか?何、失望はさせないさ。
こう見えて、僕はワットナイル流の皆伝を受けている。
まずはクルワウサギからだ。しっかり勉強はしてきたんだ。
ウサギはとても逃げ足が速く、追いかけて狩るのは難しい。
弓などで遠くから仕留めるか、逃げる方向を誘導しての待ち伏せが有効だ。
実地も大切だが、情報も重要だ。
弓は無いから、最初は僕が仕留める役を受け持とう。
「あのウサギをこっちへ連れて来てくれ」
なぜ直進するんだ!それじゃウサギが――
は?
「ん、ウサギ。連れてきた」
……何が起きたのか分からない。
いや、一部始終を見ていたから分かっているのだが、頭が理解を拒んでいる。
このハンター、ウサギに追いついて、刈り取るように捕えてしまった。
珍しい道具を持っていると思ったが、そうやって使うのか。
教本が少し古かったのかもしれないな。
……クルワウサギはやめて、クロマキヒツジにしよう。
これだ、これこそが僕の求めていたものなんだ。
危ないとき、いや、危うさを感じる前にはスイッチして常に余裕を生み出す。
「よし、後は任せろ」
疲労が積みあがる前に相互にフォローして回復の時間を設ける。
「今だ、後は頼んだぞ」
これこそが、あのハンターに至る栄光の坂道なんだ。
熊と戦った二人の英雄に……
「どうだ、これがコンビネーションの力だ」
僕はやれている、僕達ならまだやれる。
こいつらを仕留めたら、次の獲物は君のリクエストを聞こうじゃないか。
「よし、良い感じだ。次は何を狩る?」
お互いの意見の尊重し、そして時には、意見がぶつかることもあるだろう。
だが、それを乗り越えていくことも、英雄にふさわしい足跡だ。
「イノシシ。狩る」
さすがにアレに挑むのは、まだ早い気がするぞ。
「え……イノシシ?イノシシかぁ……あれはちょっと難しいんじゃないかな」
いや、僕となら不可能ではないと、期待してくれているのかもしれないな。
「まあ、狩れないかもしれないけど、頑張ってみるか」
無謀だなんて否定はしない、実際、可能性はあると思う。
ただ、たとえ狩れなかったとしても、失望する必要がないことは伝えたつもりだ。
これは……思ったよりも大きいな。
いや、大きく見える、感じるという奴か……
だけど怖気づいてなどいられない。当たって砕けろだ。
「よし、まずはボ、俺から」
こういう逆境を乗り越えてこそ、熊と戦った二人ぐ――
「ぶぎょ!」
――あんなに遠くに居たのに?
――飲まれていた?衝撃は想像以上だ。
――それより僕はどうなった?浮いている?飛んでいる?
鎧が守ってくれたが、息が……吸えない。
逃げてくれ、これはまずい。
「俺にかまわず……行け」




