ある日、森のなか
むーん……今日は、朝から猟獣会の建物が騒がしいのです。
ガナリグマとかいうクマが出たので、その対応で忙しいそうですよ。
私はごすじんと、ひとまずお留守番することにしました。
「お前らは居残りか?熊を仕留めて名を上げようって気概はねえのか?」
「臆病者に用はねえ。ここは俺に任せてさっさと帰んな」
「いや、やるのは俺さ。恨みっこなしだ。あと、お前らは震えて待ってな」
クマに挑まないことを、臆病だと馬鹿にされてるみたいなのですが、馬鹿はお前らなのです。
ごすじんが慎重なのは、群れのことを考えているからです。
長が引くことを知らない群れは、すぐに壊滅してしまいます。
方針を決めるのはごすじんの役目、力を振るうのが私の役目なのです。
そして、危ないことはごすじんが止めてくれるから、私は安心して戦えるのです。
ローソクを嗅ごうとして、おひげを燃やしてしまったときも、
玄関を這っていたカメムシを齧ろうとしたときも、
ちゃんと、ごすじんが止めてくれました。
それに、ごすじんは今すぐ挑むのを、止めただけなのです。
先にフカクテーヨーソ?とかなんとかいうものを、潰してから動くと言っていました。
クマには近付かないけど、戦う前に毛皮を剥いで、爪まで抜いてしまうみたいなことだそうですよ。
だから私は、ごすじんに任せているのですよ。ふんす。
ごすじんが動き出しました。
聞き込みのようです。
「あんたは行かねえのか、いや責める気はねえ。若い奴らの方が分かってねえんだ」
「そうそう、仕留めることが出来ても、ハンターを続けられない怪我を負えば、死ぬのと変わらねえ」
「俺らも向かう予定だが、単身で挑むのはダメだ。今は頭数が揃うのを待ってる」
「おう、現地で合ったら、そん時はよろしくな――」
「うん?ガナリの特長?そうだな……足が速くて、力も強え。
鼻も効くし、毛も固い。だから、斬り付けても肉まで断つのは難しい。
槍で突くのが、一番届く」
「あとは、食い意地が張ってるな。
他人のもんだろうが、まだ生きてようが、一度口を付けたものには執着がすげえ」
「敵だと思われてるうちはまだいい、餌だと思われたらやべぇぞ」
「前に、食われそうになった仲間を、引きはがして撤退した奴がいたが……
あくる日にゃ治療院が血の池になったぜ」
「おあずけ食らわされたごちそうが、治療院にしまわれてましたってな」
「こんなことでも何かの参考になるかい?いやいや褒めすぎだろ。何かくすぐってえぞ――」
「前に出たときは、罠にかけて三人がかりで突き殺したはずだ」
「括り罠なんかは通じるが、毒餌はダメだったな。鼻がいいのか食いつかなかったらしい」
「いや、熊は食えねえから、毒は使ってもいいぞ。まあ通じないから無駄になるが……」
「はぁ?お前の田舎じゃ熊も食うってのか?どんな魔境から来たんだよ?
いや、食ってみようなんて思ったことはねえな。カニを食う奴らだっているし、調理次第かもな……」
「お前の田舎もカニ食うのかよ!あんなの蜘蛛の仲間だろ?」
「まあ、前の熊退治についてはそんなとこだ。礼なら今度、酒でも奢ってくれや――」
ごすじんが戻ってきました。
聞き込みが終わったみたいですね。
どうやら、欲張って自分たちで狩らなくてもいいのだそうです。
でも、やれることはやっておく。なるほど。
まあ、ごすじんが決めたことなら大丈夫ですね。
それからおやじさんのところへも行くのですね。
ちょっと心配です。
あのおやじさんは、最近、誰もいないのにブツブツ話をしているのです。
楽しそうなのはいいのですが、目が血走っていて、周りがくぼんでいました。
たまに「降りてきた」と叫ぶのでびっくりしてしまいますよ。




