観劇の村娘
今日は友達と一緒に、アレニーノモンタレラ一座の公演に来ているの。
この一座はお芝居が売りで、特に貴族様のお話が評判なのよ。
貴族様のことなんて、雲の上の出来事みたいだけど、お芝居なら分かるもの。
そうやって、貴族が怖さや理不尽だけじゃないことを広める意味もあるみたい。
あ、次はいよいよ最終幕だわ。
『私、アウグスト・エルフォードは、その婚約者、カトリーヌ・シルマーに婚約破棄を言い渡す。
理由はもちろん、分かっているな?』
『あら、全く存じませんが、一体どうなさったのかしら?』
『シラを切るつもりか?
貴様、エルフォード家より贈られた三日月の落穂を、遊ぶ金欲しさに売り払ったそうではないか。
それに、アギーを陰で虐めるような女は、私の婚約者として相応しくない』
『婚約者でもない女性を、愛称で呼ぶのはどうかと思いますわ。
それに、私はアグネス嬢を苛めるようなこと、したことがございません』
『あの、その、私……』
『心配するなアギー、お前の無念には俺がしっかりと報いると誓う』
『はい、アウグスト様』
『貴様が金に換えた三日月の落穂は、代々我が家の婚姻に用いられてきた至宝。
それを勝手に手放したこと、容易に償い切れるものではないと――』
『何故、私がコレを手放したとお思いになられたのか、不思議でなりませんね』
『なっ?』
『へっ?』
『に、偽物だ!急いで作らせたに違いない!』
『この首飾りが担う家同士の盟約、その重さを私が理解していないはずがないでしょう?
普段の私は、これを売り払っても不思議ではないと、勘違いさせるような振る舞いをしていたのですか?
そうであれば、忸怩たる思いを禁じ得ませんね』
『アイツめ、しくじったか?いや、報告では……』
『私がこれを持っていることに、何か不都合でもお有りなのですか?』
『いや、そんなことは……その、ええい!鑑定士を呼べ、あの首飾りを調べさせろ』
『別に構いませんが、本物を本物と証明してどうなさるのですか?精霊様に嘘は通じませんよ』
『精霊……だと?』
『あの方は、精霊様の化身に違いありません。困っていた私を助けてくださったのです』
『その精霊が何かをしたというのか?』
『それは、私の口から申し上げる事はできませんわ。精霊様とお約束しましたもの。
それより、あのとき私が困っていた事については、貴方の方が心当たりをお持ちのようですわね』
『ぬぐっ』
ああ、今回も良かった。
特に、カトリーヌ役の役者さんは、凛としてカッコよくて、私もドキッとしちゃったわ。
それに引き換え、アウグスト役の人は、とっても情けなかったけど、あの情けなさを演技でやってるのって、実は凄いことよね?
アグネス役の人は、まあ可もなく不可もなしってところかしら。もっと黒幕感を出しても良かったかも?
え?これ、事実をもとにしたお芝居だったの?
貴族様に怒られちゃうんじゃ……
へえ、馬鹿な真似をしないように、貴族様に戒めを広める意味もあったのね。
領地の人々あっての生活なのに、それを放り投げて真実の愛!なーんて、確かに馬鹿だもんね。
いえ、馬鹿というより哀れな人なんだわ。
相手を選ぶのに、自分の好みしか基準にできないだなんて……可哀そうね。
どんなに相手が好みでも、狭い畑しか持ってないんじゃ、冬を越せないのよ。




