ぐるぐる地獄
私は今日こそ限界を超えるのです。
いつもいつも、視界の端でちろちろと挑発してくるあんちきしょうを、成敗するのです。
以前に比べて視線も高くなり、周りを見渡しやすくなりました。
体の軸が縦に通っているので、体をひねればその場で背後も確認できます。
そして、手。
これは凄いのです。
いろんな用事を、顔を近づけることなく済ませることができるのです。
いつもいつもいつも、捕らえる寸前まで行っては背後に逃げられていましたが、今日はそうは行かないのです。
足や膝の使い方も、ずいぶんとこなれてきました。
右回りも左回りもどんと来いなのです。
あいつが引き起こすぐるぐる地獄を克服し、そのまま組み敷いて腰を振ってやるのです。
いざ。
出だしは、やや好調といったところですね。
回り込まれることへの反応も、だんだんと安定してきました。
すでに何度か、手が掠めているのです。
これはもう、捕らえ切るのも時間の問題というやつですね。
体をひねって後ろを見ると、あいつがすーっと視界を横切ります。
右向きにひねって左へ向かうのを確認したら、さかさず左回りに切り替えます。
こっちから来ると思わせておいて、あっちから行くのです。
こっちから来ると思わせておいて、あっちから行くように見せかけて、やっぱりこっちから行く作戦も使います。
これを織り交ぜれば、どっちから来るのか分からなくなってしまうはずですよ。
私も、どっちから行くんだったか、忘れそうになるほどなのです。
むう、思ったよりも粘りますね。
私の動きが冴えてくいくのに合わせて、向こうの動きにもキレが増してきましたよ。
焦って本気を出したのですか?
でも、お前はもう終わりなのです。
常に本気で挑まないから、いざというときになまってしまうのですよ。
右に回るときは右足を軸にして、左足で地面を蹴るのがいいみたいです。
右足が踏んでいる場所が真ん中で、左足はその外側を体ごと一周するのです。
左に回るときはその反対をやればいいのです。
これは両足で回り込むよりも速く、そして狭い場所でもできてしまうという優れものですよ。
もしかして、切り札とか、奥義とか呼ばれるものなのでは?
ふおお、奥義くるたたーん、なのです。いえ、くる……ぐるりん……くるくる……
まあ、後で考えておくのです。
そして私は気が付きました。
右側に居るなら左手で掴みに行くよりも、右手で捕まえた方がいいのです。
左手で掴もうとすると、自分の体が邪魔になって、ちょっと遠回りになってしまいます。
右手をそぅっと近づけて、今!
あいたぁっ!
誰ですか?私の尻尾を引っ張る不届き者は?
「ぐるる」
勝利の瞬間を台無しにされてしまいました。
威嚇してみますが、気配も匂いもありません。
うむむ、ちょっとはしたないのですが、こうなったらこいつで憂さを晴らし――
あいたた!
なんということでしょう。
憎いあんちきしょうは私自身だったのですよ。
でも、仕方がないのです。
この尻尾というやつは、私の気分次第で勝手に動いてしまうときがあるのです。
耳や瞼とおんなじなのです。
だから自分が引き起こしている動作だと思えなくても、不思議なことではないはずです。
はぁ、思いがけないところで、誰も知らないこの世の秘密を解き明かしてしまいましたね。
私を挑発していたのが私だったとは、世間は意外に狭いのです。
そういえば、ごすじんは昔、ぐるぐるしている私を見て笑っていましたね。
あれは、自分の尻尾にやられっぱなしの私を、嗤っていたのでしょうか。
いえ、笑ってはいましたが、応援もしてくれていました。
ここは考え方を変えるべきですよ。
私は自分自身に挑発されて、いつも逃げ切られたような気分でいたわけではないのです。
私が自分自身を挑発し、いつも逃げ切っていたのです。これですよ。
そして、今日、自分自身を超えたのです。
そうなのです。




