お嬢様は見た
私はなんと浅はかで、愚かだったのでしょう。
お父様から、配下との交流は節度を弁えよ。と、いつも聞かされておりました。
踏み越えて来る者がいたなら、それは従者の器にあらずと。
なのに、憧れてしまったのです。
騎士物語の姫に。
守ってくれる私だけのナイトに。
レイトンは常々、私を窮屈な鳥籠から解き放ってくれると言っていました。
修業時代に目にした様々な出来事を、面白可笑しく語って聞かせてもくれました。
私は、そんな彼に対して、護衛という立場を超えた何かを期待していたのです。
今回、開拓村の視察には、彼を護衛として同伴させました。
お父様は心配していましたが、私が押し通した形です。
目的地はそれほど僻地ではないし、何があっても彼が居れば乗り越えられる。
そんな幼稚な根拠――いいえ、ただの願望に縋って。
復路で賊に囲まれたとき、あろうことか彼は逃げ出したのです。
他ならぬ私を置いて。
彼はお父様に報告するでしょうか?
戦いもせず、自分だけ逃げ出したことを伏せて。
一合だにしていない剣を佩き、傷一つ無い鎧を身に着けて。
そんなこと、できるはずがありません。
今回のことで身をもって知ったのです。
彼は何よりも自分が大切なのだと。
分かってからでは遅い。とは、このようなことを言うのでしょうね。
救助の兵は来るでしょうか?
身代金が目的なら、しばらくは無体な扱いをされることは無いでしょう。
そんな前提に安堵を覚えている自分に、たまらなく腹が立ちます。
身を隠すため、林に移動させられ、しばらく経ちました。
遠くから、藪を掻き分ける音が近付いて来ます。
救出部隊でしょうか?いえ、それには早すぎますね。
今の時点では、お父様が事態を把握できているかどうかも怪しいでしょう。
そこから事実確認をし、作戦を立て、隊を編成して、初めて行動に移すことができます。
どれほど連絡が迅速になされていたとしても、部隊は出立できていないはず。
それに、聞こえてくる音から察するに、少人数なのではないでしょうか。
果たして、藪を押し退けて現れたのは、お一人だけでした。
少しだけ、違和感を覚えます。
草の倒れる音と、重いものを引きずる音はしますが、足音はほとんど聞こえません。
これは……猟番?市井の人達がハンターと呼んでいる者のようです。
焦った賊が、私を人質とし、ナイフを向けました。
私は何の抵抗もできず、賊の腕に収まったまま、震えながらその刃先を見ているだけでした。
猟番はこちらに何をすることもなく通りすがります。
ここで助けを乞えば、私のために戦ってくれるでしょうか?
ですが、この方は私とは何の関わりもない方です。
それに、逆上した賊が、私にナイフを突き立てることもあり得ます。
迷っている間にも猶予は失われていくというのに、私は何もできません。
いえ、本当は迷ってなどいません。ナイフが怖くて動けないだけ……
せめてこの場所を、関係者に伝えてほしい。
見つかった以上、賊たちも再び移動するでしょう。
救出部隊が、この場の痕跡が消える前に駆け付けられるよう、取り成して欲しい。
虫のいい話です。自分は何もせず震えているだけなのに……
猟番は何も言わず、こちらを見ていました。
しかし賊が鹿を奪おうと近寄った途端、矢のように駆け出して、頭領を下してしまいました。
これが狩りに生きる者たちの本質なのでしょうか。
そして、周りの賊が逃げ出すと、何事もなかったかのように歩き出します。
私には声すら掛けてくれません。
賊たちに諾々と従うだけだった私を、軽蔑しているのですね。
仮に、大きな声で詰られたなら、私は許されたと勘違いしていたかもしれません。
そして許されたと思った私は、その人に判断を委ね、任せ、また流されてしまう。
それが無いことは、自分の判断と責任を受け止めるきっかけになりました。
この猟番は、不器用な人なのでしょうか。
自らの行いを誇ることも、私に何かを説くことも、慰めることもしません。
ただ、私が迷わないようにゆっくり歩いてくれています。
わかりました
街へと戻り、自分のすべきことを成せと、言葉にすることなく示しているのですね。




