かくかくしかじか
今日の獲物はシカだったのです。
シカにもいろいろあって、このあたりに居るのはメギカブリという種類なんだそうです。
シカというのは、爪も牙も持っていませんでした。
でも、これはなかなか侮れないやつなのです。
頭から角が生えていて、シカが頭を振ると角が一緒に迫って来るのですよ。
角はチクチクしているので、目や鼻に刺さってしまうと大変です。
まあ、頭から生えているので、喉に食らいつけば当たることはありませんでしたよ。ふふん。
首もそこそこ長かったので、狙える場所が広いのはよかったですね。
あと、逃げようとしませんでした。メスの気配がしていたので、良いところを見せようとしたのかもしれません。
シカはそこそこ重たいので、運ぶのが面倒です。
引きずっていると、角が木や草に引っかかるので邪魔ですね。
でも、角にも使い道があるから、捨ててはいけないのだそうです。
お、あっちから人が集まっている匂いがしてくるので、寄っていきましょう。
人が集まっているところには獣が来ません。
余計なのに絡まれなくなるので、ちょっと楽ができるはずなのです。
うーむ。なんだかおかしな集団ですね。
こんなところで、お酒を飲んでいます。
それから一人、仲間外れにされているのもいますね。
周りの顔色を窺っているみたいで、オドオドしているように見えます。あれはたぶん新入りか下っ端ですね。
まあ、よそのことはあんまり気にするものではありません。
「なんだてめぇは?」
「追手か?」
私は獣除けにここを通るだけなのです。そちらにかかわる気はありませんよ。
「来るんじゃねえ!これが見えねえのか?」
群れの一人が、下っ端に刃物を突き付けています。下っ端の躾でしょうか?
でも、私の方を見ています。
うーん、躾をするつもりなら、私ではなく、その下っ端に言って聞かせないと意味がないと思うのです。
でも、よそはよそですし、躾ではないのかもしれません。
私が気にしても、仕方がないのです。
私は帰り道で、ちょっと楽をしたかっただけですよ。
「ハハ、物分かりがいいやつぁ長生きできるぞ」
「ん?いいもの運んでんじゃねえか。それ、貰っといてやるよ」
「おめーら、晩飯が来たぞ」
「オラ、そいつを置いて帰ぇんな」
あ゛?私の獲物を横取りするつもりなのですか?
「ぐるる」
そうなったらもう、かかわる気がないのをひっくり返さないといけなくなりますよ?
「かまうこたぁねえ。囲んじまえ」
こういうときは、頭を叩くのが効果的なのです。
周りの視線や配置から、ここの長らしいやつはすぐにわかったのですが、なんと戦闘態勢に入っていません。
まあ、たとえ戦えなくても、統率力があるならそれは立派な長と言えるのですが……
最初の指示を出したあと、こちらを見もせずにお酒を飲もうとしています。
まさか群れの危機に指揮すら採らないなんて、部下に任せているつもりなのですかね。
お酒で判断が鈍っているのかもしれません。それなら都合がいいのですよ。
一旦、シカを手放して、長の元まで駆け抜けます。
そのままぶつかって――
転がって――
体勢が整う前に、喉に食いついて押さえます。
まだ終わってはいないのですが、他の人は攻撃してきません。
長を巻き添えにしてしまうことを、躊躇っているのかもしれません。
「ひぃ!カシラがやられた!」
「こいつやべぇぞ!」
「に、逃げろ」
みんな散り散りに逃げていきました。これはもう降参ということですね。
長から口を離すと、白目を剥いてピクピクしています。
やっぱり、お酒はよくないですね。こんな場所で感覚を鈍らせてはいけないのです。
それにしても、鹿は運びにくいのです。
どうしても角が木や草に引っ掛かってしまいます。
おかげで何度も立ち止まることになりました。
進むのがゆっくりになってしまったせいなのか、なんか下っ端が着いてきてしまいました。
私はお前の面倒なんか見ませんよ。
代わりに追うこともないので、好きなところへ行けばいいのです。
結局、下っ端は街まで着いて来てしまいました。




