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達人たちの街

ここいらに住んでいる人達はみんな未熟者なのです。

無警戒に相手の間合いに入るし、迂闊に自分の間合いに侵入させ過ぎなのです。

声を出して相手を退かせたりしているようですが、あれはただの隙ですね。


ごすじんなら、間合いが重なりそうなのを察知して、十歩くらい前から調整をします。

見ようとしていないけれど、ちゃんと見えているのです。

車の中から、お店に入っていくごすじんを何度も見ていたので、知っているのです。

あそこにいた人達は、少しの差はありましたがみんな達人だったのです。


ごすじんでも同じくらいの達人が相手だと、苦戦します。

お互いが相手の進路を読みあって同時に切り返し、だんだんと安全な距離が削られていくのです。

そして、最後はお互いを称え合うように、笑って礼を交わすのです。

それから、たとえ狭い場所でも、左右の肩を前後にずらし、斜めを向くように肩幅を小さくして接触を避けたりもしていました。

歩く早さも、歩く向きも、ほとんど変えないですれ違うのです。

今なら、私もごすじんの動きを取り入れることができると思うのです。

そして、達人の仲間入りをしてみせるのです。


少し歩いてみて思い出しました。

つまり、今まで忘れていたのです。

私としたことが、重大なことを忘れていました。


街を歩くときの大いなる理不尽、がきんちょの存在です。

奴らは急に大きな音を立てたり、声を荒げたりします。

そして、道理が通じないのです。

異なる道理に生きているからではなく、そもそも持っていないのです。

さらに、奴らには悪意がありません。

友誼の印として耳を引っ張り、信頼の証として泥団子を食べさせようとします。

急に引き返してきたり、直角に曲がったりもしますね。


厄介なところは、ただの子供との区別が難しいことなのです。

アレには通常の認識で対応してはいけません。

なぜなら、ごすじんが怒られてしまうからです。

あんなものを放牧している人のほうが、怒られるべきだと思っているのですが……

いえ、そうならないことこそが、理不尽というものなのです。


小柄な人影が視界の端を横切ったことで、あの災厄の化身のことが思い起こされたのです。


アレらに対しては、なるべく関わらないよう、距離を取るようにしていたのです。

ただ、距離を取ったことが気に食わない。と、癇癪を起こしたり、泣き出したりする個体もいるので始末が悪いのです。

やり過ごすコツは、認識されないことですね。

次に、こちらはお前を認識してなどいない。と、思わせることです。

目が合ってしまえば、即座に走り寄ってくるかもしれませんよ。


ん?それは、ごすじんの歩き方に使えるのでは?

目の前だけでなく、周囲の人みんなをがきんちょに見立てて歩くことができれば……


実際に、対がきんちょ進行で移動してみると、面白いことが起きています。

誰の間合いにも入らないし、誰も間合いに入ってきません。

「おい、ボサッと――」

声をかけて退かせようとする人はいますが、もうそこに私は居ないのです。

「あれ?」

当然ですね。

そこを行くのは十歩ぐらい前にやめて、調整済みなのです。


それでも、人の陰にいる人だと話は別です。

何度も見落としてしまっています。

まだまだ、ごすじんの技量には届かないのです。

でも、これがごすじんの見ていた景色なのですね。

ふおお。これはもう対がきんちょ進行ではないのです。

ごすじん領域と呼びましょう。


しかし、この街にいる子供はただの子供が多いのですね。

今のところ、がきんちょは見かけていません。

ごすじんとよく行った公園が、どれだけ理不尽な危険地帯だったのか、よくわかりますよ。

いえ、油断してはいけませんね。

奴らは表裏一体なのです。

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