Face to Faith
「すみませーん。もしかして揉め事ですかー?駅の中での――」
駅の人がやってきました。
シンブン屋の人が大きい声を出したからですかね?
「何でもないんだ、彼の話が興味深くて興奮してしまっただけなんだ」
「そうですか?言い争いでも揉め事と見做すことはありますので、くれぐれも穏便にお願いしますね」
「すまない。気を付けよう」
駅の人はこっちに注意を向けながら、ひとまず帰っていきました。
「ちっ、付き合っていられるか。私は部屋に戻らせてもらう」
シンブン屋の人が一人どこかに行ってしまいました。
「同行者の失礼を謝罪しよう」
「放っといていいのかい?」
「気にしないでいただきたい。あの者は教義に拘泥するあまり、視野が狭くなっているのだ」
「自分はそうではない、とでも仰りたいのかな?」
あ、めんどくさそうにしていた人の馬が、まじめな顔になりました。
「私は特殊な訓練を受けていてね……相手の動揺や欺瞞を見抜き、ある程度把握することができる」
「それで相手を揺さぶり、布教……勧誘を優位に進めてきたというわけか」
「パランチ教の勧誘は執拗だと言われるだろう?あれは私のような者が隣で補佐しているからだ」
「それは内情の暴露にも等しいのではないか?」
「はは、代わり映えしない日常に、疲れ切っているのかもしれないな……」
「……あれ?それなら見抜いた……ということ?……とすれば何が?」
「彼の言葉には一切の虚飾や欺瞞が見られなかった。彼の信仰にはひとかけらの曇りもない」
「貴殿……マ、いや、本当に故郷であんな出鱈目な行事が目白押しなのか?」
人の馬の顔がころころ変わって忙しいですね。
「そんなに不自然なこと……いや、うん、客観視すれば確かにおかしい……のかな?」
「そして、それらが衝突することなく執り行われているのだろう?私はそこに新たなる神秘の可能性を見た」
「神秘だの信仰だの、そんなに大袈裟なものではないような気がするのだけど」
「大袈裟なものだと思っていないことこそが、隔絶した信仰である証左ではないだろうか?」
「流石に考え過ぎだと思うなぁ……」
「貴方の奉ずる教義について詳しく聞かせて欲しい。是非その神秘の一端に触れさせていただきたい」
ふむ、シンブン屋の人もごすじんのすごさに気が付いたみたいですね。
「そう言われても……私は神主でも住職でもないから、上手く教えられる保証はないよ?」
「仕事柄、聞くことには慣れております。上手く言葉にできないことも、私の方で出来る限り汲み取りましょう」
「そうだね。情報の価値は知りたい側が決めるものさ。だから、何気ない事でも話してみたら?」
「うーん……じゃあ、まずは根底の考え方なんだけど、身の周りのものにはだいたい神が宿っていて、それぞれが役割を果たしているということかな?」
「先ほども聞きましたが、とても斬新だ……だが、それだけでは意味がないように思える」
「まあ、その通りだね。だから、それらが常に自分を見守っているという前提が大事なんだ」
「見守る……」
「例えば、世界を照らすお日様、遠くに聳える山、道端に転がる石、モノが難しければ自分のご先祖様でもいい。それらに見られていて恥ずかしくない行動をしよう。そういう感じの……」
「その神々はどのような御名で呼ばれているのだ?」
「一部の有名なものを除いて、固有の名前とかは特に無いですね。お天道様とか山の神とかご先祖様とか……まあ、好きに呼べばいいんじゃないでしょうか?姿形もお好みかと」
「それは不敬や冒涜に当たるのでは?」
「別に、誰に罰せられるわけではないし、問題にはならないかと」
「罰せられない?」
「ええ、基本的に神様たちは何もしません。ただ見守っているだけなんです」
「私の浅学ゆえの的外れな疑問かもしれないが、それでは何の戒律にもならないよう思えるのだが……」
「様々なものに神様を見出し、神様が失望するような行動を取らない……常に神々に胸を張って相対することができるかどうか、というだけの話ですからね」
私もごすじんを困らせたり、ごすじんが見て残念に思うようなことはしないのです……してないはずです。
「しかし……いや、そうか……なるほど」
「あ、でも明確に疎まれることはありますよ。他の人の信じているものを否定することです」
「身につまされる話だ……だからこそ、名前も姿も――なんということだ!」
「それを互いに実践し、衝突を起こさないという最終的な理想に帰着しているのですね?」
「そうなのかな?そう言われれば、そういう面もあるのかもしれない……それから、いい習慣に出会ったら取り入れて、場合によっては更に良いものに変えていく、みたいな?」
「それが傍目には奇行にも思えた祭祀の数々ということですね?」
「奇行……」
「貴方を師と仰ぐことをお許しいただきたい」
「是非やめていただきたい」
「寄進が必要であれば何とかしますので、何卒」
「いや、お金なんか取らないですし、そういったものが必要だと思いますか?」
「はっ!そうですね……この教義においては、神々の威厳を人々に知らしめる必要もない……」
「今のも、決して説法とか講釈とかじゃないですし」
「分かりました。そういうことにしておきましょう」
「そういうことって何ですか?ちょっと不穏なんですが……」
「いえ、大丈夫です、弁えておりますよ」




