↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
102/107

Face to Faith

「すみませーん。もしかして揉(も)め事(ごと)ですかー?駅(えき)の中での――」

駅の人がやってきました。

シンブン屋の人が大きい声を出したからですかね?

「何でもないんだ、彼の話が興味深くて興奮してしまっただけなんだ」

「そうですか?言い争いでも揉め事と見做すことはありますので、くれぐれも穏便(おんびん)にお願いしますね」

「すまない。気を付けよう」

駅の人はこっちに注意を向けながら、ひとまず帰っていきました。


「ちっ、付き合っていられるか。私は部屋に戻らせてもらう」

シンブン屋の人が一人どこかに行ってしまいました。

「同行者の失礼を謝罪しよう」

「放(ほ)っといていいのかい?」

「気にしないでいただきたい。あの者は教義(きょうぎ)に拘泥(こうでい)するあまり、視野が狭くなっているのだ」

「自分はそうではない、とでも仰(おっしゃ)りたいのかな?」

あ、めんどくさそうにしていた人(ひと)の馬(うま)が、まじめな顔になりました。

「私は特殊な訓練を受けていてね……相手の動揺(どうよう)や欺瞞(ぎまん)を見抜き、ある程度把握(はあく)することができる」

「それで相手を揺さぶり、布教……勧誘を優位に進めてきたというわけか」

「パランチ教の勧誘は執拗(しつよう)だと言われるだろう?あれは私のような者が隣で補佐しているからだ」

「それは内情の暴露(ばくろ)にも等しいのではないか?」

「はは、代(か)わり映(ば)えしない日常に、疲れ切っているのかもしれないな……」


「……あれ?それなら見抜いた……ということ?……とすれば何が?」

「彼の言葉には一切の虚飾(きょしょく)や欺瞞が見られなかった。彼の信仰にはひとかけらの曇(くも)りもない」

「貴殿……マ、いや、本当に故郷であんな出鱈目(でたらめ)な行事(ぎょうじ)が目白押しなのか?」

人の馬の顔(かお)がころころ変わって忙しいですね。

「そんなに不自然なこと……いや、うん、客観視すれば確かにおかしい……のかな?」

「そして、それらが衝突することなく執(と)り行(おこな)われているのだろう?私はそこに新たなる神秘の可能性を見た」

「神秘だの信仰だの、そんなに大袈裟(おおげさ)なものではないような気がするのだけど」

「大袈裟なものだと思っていないことこそが、隔絶した信仰である証左(しょうさ)ではないだろうか?」

「流石に考え過ぎだと思うなぁ……」


「貴方の奉(ほう)ずる教義について詳しく聞かせて欲しい。是非その神秘の一端に触れさせていただきたい」

ふむ、シンブン屋の人もごすじんのすごさに気が付いたみたいですね。

「そう言われても……私は神主(かんぬし)でも住職(じゅうしょく)でもないから、上手く教えられる保証はないよ?」

「仕事柄、聞くことには慣れております。上手く言葉にできないことも、私の方で出来る限り汲(く)み取(と)りましょう」

「そうだね。情報の価値は知りたい側が決めるものさ。だから、何気(なにげ)ない事でも話してみたら?」

「うーん……じゃあ、まずは根底の考え方なんだけど、身の周りのものにはだいたい神が宿っていて、それぞれが役割を果たしているということかな?」

「先ほども聞きましたが、とても斬新だ……だが、それだけでは意味がないように思える」

「まあ、その通りだね。だから、それらが常に自分を見守っているという前提が大事なんだ」

「見守る……」

「例えば、世界を照らすお日様、遠くに聳(そび)える山、道端に転がる石、モノが難しければ自分のご先祖様でもいい。それらに見られていて恥ずかしくない行動をしよう。そういう感じの……」


「その神々はどのような御名(みな)で呼ばれているのだ?」

「一部の有名なものを除いて、固有の名前とかは特に無いですね。お天道(てんとう)様とか山の神とかご先祖様とか……まあ、好きに呼べばいいんじゃないでしょうか?姿形(すがたかたち)もお好みかと」

「それは不敬や冒涜(ぼうとく)に当たるのでは?」

「別に、誰に罰せられるわけではないし、問題にはならないかと」

「罰せられない?」

「ええ、基本的に神様たちは何もしません。ただ見守っているだけなんです」

「私の浅学(せんがく)ゆえの的外れな疑問かもしれないが、それでは何の戒律(かいりつ)にもならないよう思えるのだが……」

「様々なものに神様を見出し、神様が失望するような行動を取らない……常に神々に胸を張って相対することができるかどうか、というだけの話ですからね」

私もごすじんを困らせたり、ごすじんが見て残念に思うようなことはしないのです……してないはずです。

「しかし……いや、そうか……なるほど」

「あ、でも明確に疎(うと)まれることはありますよ。他の人の信じているものを否定することです」

「身につまされる話だ……だからこそ、名前も姿も――なんということだ!」


「それを互いに実践し、衝突を起こさないという最終的な理想に帰着しているのですね?」

「そうなのかな?そう言われれば、そういう面もあるのかもしれない……それから、いい習慣に出会ったら取り入れて、場合によっては更に良いものに変えていく、みたいな?」

「それが傍目(はため)には奇行にも思えた祭祀(さいし)の数々ということですね?」

「奇行……」

「貴方を師と仰(あお)ぐことをお許しいただきたい」

「是非やめていただきたい」

「寄進が必要であれば何とかしますので、何卒(なにとぞ)」

「いや、お金なんか取らないですし、そういったものが必要だと思いますか?」

「はっ!そうですね……この教義においては、神々の威厳を人々に知らしめる必要もない……」

「今のも、決して説法とか講釈とかじゃないですし」

「分かりました。そういうことにしておきましょう」

「そういうことって何ですか?ちょっと不穏なんですが……」

「いえ、大丈夫です、弁(わきま)えておりますよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。