猫の顔が三尺
ミャーの人のところで一晩泊まりました。
ミャーの人は寝起きが悪いみたいです。
ごすじんが一度起こして挨拶をしたのですが、にへにへ笑ってまた寝てしまいました。
私たちは、今日もまた移動なのです。
街に来た時とは違う玄関?から出て、次の街に向かって進むのだそうです。
今日は何が待ち受けていますかね?
あ、別に待ち受けてなくてもいいのですよ。何も無いほうがいいのです。
でも、嗅いだことのある匂いが漂って来ます。
待ち受けていたわけではないと思いますが、きっと何かはありますよ。
「おや?昨日ぶりだね。こっちの街道から出るってことは行き先はルシェント?」
やっぱり、人の馬がいます。
「同じ方向みたいだし、今日も一緒に行くかい?」
今日も人の馬に乗せてもらいました。
私はごすじんの後ろに「おすわり」して、両手はごすじんの肩に乗せています。
前の時とおんなじようにぱっぱかぱっぱか進んでいます。
「へぇ、猫系の獣人に泊めてもらったのか」
「泊めてもらったというより、泊まらされたというか……」
「まあ、気の置けない相手と思われてるんだろうね。親しい仲だったり、親しくしたい相手にはよくそうするみたいだし」
「暢気なのか無防備なのか……ともかく、あまり眠れませんでした」
「そんなに緊張する必要なかったと思うけどね」
「そうは言っても……」
「同じ火を囲んで暖を取るのと変わらないさ。側で寝るくらい普通だよ。あいつら、寝ぼけて胸を揉んでくることもあるんだよ」
「それは、問題にはならないのですか?」
「揉むっていうより、手を突っ張って交互に押してくるんだけどね。悪気の有る無しは分かるし、普通は気にしないよ」
「そういうもの、と思うしかなさそうですね」
「うーん、なんだか空模様が怪しくなってきたね。駅まで持ってくれればいいけど……」
途中で人の馬が空を見て言いました。前を見ないで進むのは危ないのでは?
「雨……うっ、頭が……」
「どうかした?雨具の用意が無いのかい?」
「いえ、そういうわけではなく……雨宿りにちょっと苦い思い出が」
甘くてほろ苦いやつですね。
「ははっ、恥ずかしい感じのヤツかな?まあ、聞かないであげるよ」
人の馬は今までよりも、少し速度を上げました。
足音も、ぱかちゃかぱかちゃかと忙しくなっています。
雨がちょっと降り出したくらいのところで駅に到着しました。
人の馬が急いでくれたので、ずぶ濡れにならずに済んだのです。
それにしても、雨の時は布の家を作るのが大変そうですね。
布の家は柱と杭を地面に刺して、布を掛けるための紐を張らないといけないのです。
ちゃんと刺していても、地面が濡れていると抜けやすくなってしまいます。
まあ、私は順番がよく分からないので、いつもいつもごすじん任せになってしまうのです。
でも、今回も駅に泊まるので布の家は作らなくてもいいというわけです。
今日も駅でごはんを食べます。
ごはんを食べ始めたら人が寄ってきました。
人の馬が一緒なのでぎゅうぎゅうです。
他にも空いている場所はあるのに、おかしいですね?
「失礼、旅のお方、ご相席してもよろしいかな?」
「見たらわかると思うけど?木偶の坊が場所取ってるからこれ以上詰めるのは無理だよ」
「とんでもない。ご自分の事をそんな風におっしゃらないでください」
人の馬が小声でごすじんに内緒話しています。
「(こやつらはパランチ教の巡礼者であろう。いや、巡礼を装った布教やも……)」
さっきまでとは違う、出会った時にしていたみたいな喋り方なのです。
「私たちはコップ……白湯ですが、これ置く場所さえ空いていればいいのですよ」
「駅の中では実力行使でお引き取り願えないのを利用して、勧誘に精を出してるってとこかな?」
「滅相もない。強引な布教は我々としても望むものではありません。ただ……興味を持ってもらう機会は他者の介在によって失われるべきではないでしょう?」
これはあれですね、シンブンとかいうのを取ってくれと何度も来ていた人達に似ていますね。
ああいうのを追い払うのは、私のお仕事だったのですよ。ふんす。
「ぐるる――」
吠え掛かろうとしたら、ごすじんが「まて」をしました。
「私はとんでもない田舎から出てきた者で、皆さんがどんな教えを奉じているのか知らないのですが?」
「それはそれは、是非ともお話を聞いていただきたいですな」
「具体的には、何を目指す教えなのですか?」
「目指す、とおっしゃられますと?」
「現世利益や来世の救済、悟りを開くなどの事ですよ。そういったものは無いのですか?」
「いや、申し訳ない……未熟者ゆえ、貴方の問いかけの意味が、その……」
「例えばですが……私の故郷では身の回りの様々なものに神や魂が宿っているという考えと、そこから派生した信仰が主流でした」
「民間信仰や地域信仰の一種ですかな?」
「私の周りはみんなそうだったので、何の種という分類はよくわかりません」
「それもそうですな……それでは次は我々の話も――」
「待ってくれ……私はもう少し、彼の話を聞きたい」
「お前……何を?」
おや?仲間割れですか?
「何か特徴的な行事、祭祀などはあったのですか?」
「それはもう、年始に大勢で神のもとを詣でて、その年の吉兆を占うことから始まり、豆を撒いて邪を払い――」
「卜占はともかく……豆?」
「男児女児の健やかな成長を願って、幟を立てたり人形を飾ったり――」
「偶像……いや、形代か?」
「竹や笹……中が空洞の植物があるんですが、それに願いを込めた短冊を飾って焚き上げたり――」
「集団祈祷?」
「家族揃って野菜で作った馬で先祖の魂を迎え、一緒に踊り明かし、同じく野菜の牛で送ったり――」
「一緒に、踊る……反魂や蘇生が禁忌でないというのか?」
「仮装して異界の化け物と一緒にお菓子と悪戯で騒いだり――」
「化け物と……同化まで……」
「装飾した木を飾って神の子の誕生を祝ったり……」
「なんだその出鱈目な教えは?」
「他にも、空飛ぶスパゲティを奉じる人も一部いましたね……ああ、スパゲティというのは私の故郷の麵料理で――」
「我々を愚弄しているのか?」
片っぽはちゃんとごすじんの話を聞いているのですが、もう片っぽが怒り出しました。
驚いたり怒ったり、忙しい人ですね。




