表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/76

最後の舞台に辿り着いた若者

さぁ、どうする?もうお前達に切り札は無いぞ」


敵達はこの言葉で困惑した思いをますます広げていった。

だが、その中から怒りに満ちた叫びが上がる。


「冗談じゃねぇぞ!」


見ると怒りに満ちた表情の3人の男が、ギラギラと剣を輝かせ、そして震わせながら自分を睨みつけて叫んでいた。


「俺たちは十分悪を成してきた。

今更許されるものか……生き残らせてもらえるなんて思うんじゃねぇ!

人殺しも、麻薬も、女も、酒も、ゆすりたかりに強盗だって何でもやってきた。

今更天国に行けるとも思っていねぇ。


お前たち貴族どもだって綺麗に生きたとか言わせねぇ。

どうせ俺達は皆地獄行きなんだ。

てめぇら男らしく、悪人らしく最後まで戦って死ねや!」


その言葉で敵の目から動揺が消える、死ぬ覚悟ができたのだろう。


「……時間を稼げ、ケーシー」


この時二番役の相棒がぼそっと呟いた。

言葉に従い「良い目を見た奴はそれが正しいだろうな……」と相手に告げた。


「何?」

「良い目を見た奴はそれで良いと言ったんだ。

そこのお前、おまえはたっぷり金をチーノから貰ったんだな。

良い家に住み、イイ女を囲い、手下を顎で使って名誉のある男になれた。


だけども、だ……お前らの中で、お前ほど恵まれた奴はどれだけいる?

その隣の奴は?そいつはこいつに奴隷のように使われていたんじゃないのか?」

「うるさい!黙れ黙れ!」

「人をこき使った奴はいいなぁ!」

「うるせぇ、うるせぇ、うるせぇっ!」

「おまえは死ねよ、おまえは責任者なんだからこの不始末の責任を取れや!

他の奴はこれから取り調べだ!」

「黙れ、黙れ!てめぇら、このガキを黙らせろ!」


怒りで燃えたぎった悲鳴のような、絶叫が響いた瞬間、2番役の相棒が「伏せろ!」と告げる。

瞬時に伏せた瞬間、幾つもの切り裂くような音が頭上で鳴り響いた。


ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン……

チン、チン、ザク、ザク、カーン……


『ぎゃあ!』

『ぐぉっ』

『あ、ああ、うぁぁぁぁ』

『イテェ、いてぇ、痛ぇぇぇぇよぉぉぉ』


顔を上げると、幾つものボルトを体に刺した、敵の群れが痛みにのたうちまわりながら、廊下のアチラコチラに転がっている。

背後に目を向ければ(ボーガン)を抱えた10名前後のアルンスロット兵が、再び滑車を使って弩の弦を巻き上げていた。

彼らは再び自分の頭越しに、とどめのボルトを発射する。


ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン……


無慈悲なボルトは、痛みを訴えていた敵の群れを、物言わぬ肉に変える。


先程まで勇ましく闘えと叫んでいた男も、この攻撃を受けて、モノも言えずただビクン、ビクンと痙攣するだけの存在となって戦う事を辞めた。

頭に角のような、ボルトが2本生えている……


背後の味方に、手で合図を送った自分は盾を構えながら、奥まで進む。


「はぁ、はぁ、はぁはぁ……」


後列にいた敵は。まだ生きていた。

瞳孔が開いた眼で、視線を仲間の死体に注いでいる。

今しがた見た悲劇が信じられないと、言わんばかりの表情でただ座っていた。


「おい、チーノはどこだ?」

「はぁはぁ、はぁ……」


答える代りに、恐怖で唇を紫色に染め上げ、ブルブルと小刻みに震えながら、こちらを見上げる敵。


「もう一度聞く、チーノはどこだ?

キナイデル・ホズマックの事だ」

「た、助けて……助けてくれ」

「チーノはどこだ?」


「お、俺はたまたま逃げそびれただけなんだ。

殺しはしていない、ただのちんけな麻薬の売人なんだ……」

「それは後ろの奴に言え!

チーノはどこだ?言わないと今すぐ斬るぞ!」

「助けて、お願いします、お願いします……」


これは(らち)が明かない、そう思った自分は「チーノの居場所を言え、悪いようにはしない」と、嘘をついた。


……自分には、彼の運命に(さお)を挿す権限はなかったのに。


敵はホッとした表情を浮かべて言った「チーノは二階の東の部屋だ、もともと領主が使っていた部屋」と告げる。


「…………」


それを聞いた瞬間、自分は階段に向けて走り出した。


◇◇◇◇


「ヤークセン、勝手に行くな!」


自分の背中に、誰かの声が届く。

それを振り切って自分は、木製の階段を駆け上がり、二階の東側の部屋に突入する。

マーアンを守る為に、チーノはこの場で消さねばならない!


「はぁ、はぁ……」


今しがたまで人が居た気配が漂うこの部屋に、人影は無かった。

盾を構えてクローゼットや、ベッドの下に短剣を突き入れても反応はない。

未だにパチパチと音を立てる暖炉の薪と、その炎がまだ奴が近くにいると語りかける。


「チーノ……いや、キナイデル・ホズマック。

もうお終いだ、どこだ、何処に居る?」


人の気配もまだ(ぬぐ)えないこの場所に、自分は必死に語りかけた。


「もうこの屋敷はアルンスロット家の兵が包囲し、そしてお前の手下もあらかた片付いた。

後はお前だけだ、チーノ……

いよいよお前の悪行はこれまでだ」


逃げ場はもうないぞ、チーノ観念しろ……


「我が師、グラガンゾがお前の来るのをあの世で待っている。

後は自分がお前をソコに送るだけだ……」


この瞬間、ブワァァッとした殺気がうなじの辺りに立った。

振り返ると、部屋の出口で蛇の様な目をしたしわくちゃな老人が、自分を瞳孔(どうこう)の開いた、木の穴の様な真っ黒な眼でこちらを見据(みす)えている。


「チーノ?」


ついこの前見た時とは、まるで別人だがこの男。

確かにチーノに他ならないと、自分の六感が伝えている。

老人は、怒りに満ちたすごい形相でこちらを睨むと黙って、廊下へと足を向けた。


「待て、逃がすか!」


そう叫んで急ぎソイツの後を追う。

老人は年齢を感じさせない足取りで、廊下を駆け抜けていく。

必死に追いかける自分。


階下では、まだ残党が居たらしく、再び戦闘が始まっていた。

戦いの音が響き渡る。


老人は階段を上に上にと駆け抜けていき、階段の一番上、屋上の扉を開けて外に出た。


「待て!」


ここで逃がしてたまるか!

こうして自分も外に飛び出る。


……寒い、と思った。


早朝の鈍い光が染み込むような、寂しい屋上に飛び出た自分。

そこは洗濯の際に使うであろう、衣類を干す場所だった。

物干し竿に、ロープが壁にぶら下がる。

やけに広い空間だ。


チーン、チンチン……


この時コインが、この区域の奥で鳴り響いた。

あそこに奴が居る、そう思うと何も考えずにそこに目を向け、そして近寄っていく。


(どこだ?どこだ?)


いつ襲われるか分からない恐怖、感覚を張り巡らし、目線をこの開けた場所の至る所に投げていく。


(どこだ、チーノ……どこだ!)


コインの音は罠だと思った、しかし手掛かりはこれしかない。

見失うことを恐れた自分は、ついにコインの音がした所に来た。


コインは……ヴァンツェル・オストフィリア国の銅貨だった。


ブン……と、この時僅かな空気の音が聞こえた。

思わず盾を構えて、音のした方角からの、飛来物に備える!


バキィツ!


すごい衝撃と共に、盾が砕け、そして手から弾け飛ぶ。


「はぁ……」


見ると盾には投げ槍が突き刺さっていた。

そしてそんな自分を、ニマニマした表情であの老人が、階段の真上にある屋根から見下ろしている。


「年齢に見合わず、、強い槍を投げるじゃないか。

殺し屋のジジイ……」


そう語りかけると、奴は何も言わずに高所から飛び降り、そしてこの区域からの唯一の出口である階段の扉に鍵をかけた。


そして自分にこう語りかける。


「お前、さっき俺にこう言ったな。

『我が師、グラガンゾがお前の来るのをあの世で待っている』と……

お前……バシーモンの野郎と何か関係があるのか?」

「バシーモン?エラーコン・グラガンゾがお前を追っているんじゃないのか?」


自分がそういうと、老人はカラカラと笑いだした。


「ああ、エラーコン……つまりアイツは“世捨て人”だと名乗ったのか。

いや、人違いの可能性もあるから聞きたい。

ヴァンツェル・オストフィリア国のテアルテのソードマスターである、グラガンゾ家の人間。

ソレがお前の剣の師であることは間違いないな?」

「ああそうだ、間違いない」


「ならばそれはバシーモンの野郎で間違いない。

俺はお前の兄弟子(あにでし)だ。

どうしてもお前に聞きたくて、ここまでお前を誘導したんだ。

殺しのトールスカン……お前が俺の弟弟子(おとうとでし)なんじゃないかと、ずっと俺は思っていたんだ。

バシーモンは元気か?

ここ最近じゃ、あいつは俺を殺しにやって来もしないんでな……」


「先生なら死んだよ、キナイデル。

もう葬式も出した」

「…………」


チーノはそれを聞くと一瞬あっけにとられた表情を浮かべた。

そして「あは、あはははは、死んだ?死んだのか、アーはっはっはっ!」と笑いだす。

この様子に面食らっていると、奴は再び声を上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ