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人生譚  作者: 吉田 華逝
第2章 サルキュラムの闘争編

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第6話 奇襲

「おはよう。リーディン」


「おはようございます。師匠」


現在、朝の六時半。

俺は、結局カファーラに起こされることになった。

カファーラより早く、起きようと思ったのに目覚まし時計がない世界では俺は一生できないかもしれない。


「なに。ぼーっとしている。顔を洗え」


「川がどこかにあるんですか?」


「なわけないだろう。いいか。家での楽な生活とかはここでは忘れることだ。お前は旅をしたいんだったな?外の世界では…}\$|>>^\>|^」


説教を食らってしまった。

しょうがない。

途中からはカファーラの話を無視したけど結論は便利なものは魔術で生み出せる。


水《ウォーター》を手から出して顔を洗う。

ふぅ、目が覚めてきた。

空を見上げると、雲ひとつない快晴だ。

この後も曇ることはないぐらい。


ん?いい匂いがする。


もしかしたら、カファーラが朝食を作ってくれているのだろうか。

様子を見に行ってみよう。


「師匠!何をしているんですか?」


カファーラは馬車の中に座っていた。

そして、彼女の手を見る。


「あ!」


とても、美味そうなお菓子を買っている。

見た感じ高そうだから、お爺ちゃんからの贈り物の一つだ。


ミュハルスから去る時に、カファーラはお爺ちゃんに引き止められていた。

その時にあげたのかな?


真相は闇の中。

でも、目の前で起こっている出来事は真実。


「師匠。美味そうなお菓子ですね。ひとつ分けてくれませんか?」


「む!はめに決まってるだろ」


モグモグと食いながらダメと言われた。

今の師匠はかなり可愛かった。

いつもこんな感じならいいのに、このあと待っているのは地獄のスパルタだ。


「ですが、師匠。私は朝から何も食べていません。何か欲しいです」


「あ!そうだったな。すまん、完全に忘れていた」


カファーラは、手に持っていたお菓子を馬車に置いて、降りてきた。


「お前の飯を今持ってくるから、馬車で待っていろ」


カファーラが作る飯。

一体どんなのだろう。

俺は未だ、彼女のことはよく知らないが料理を上手に作れるタイプだとは思わない。


ここら辺には、川がないのは確かなので魚もありえない。

普通にパンが良いな。


それは作っているのかどうか怪しいが、まぁ食べれるようなものであることは確実だ。


俺は不安と期待に心を踊らされて、窓辺から美しい景色を見る。

旅行と考えれば、楽しいな。


「お前…。顔を洗ってもぼーっとするのか?」


「うわっ!びっくりした」


カファーラが後ろにいた。


きっとカファーラの目には、デカいウサギに見えている。

ウサギは可愛く盛りすぎたな。

まぁ、なんでもいいや。


カファーラが持ってきた俺の飯を見る。

ゆっくりと、慎重にだ。


カファーラはそんな俺を見て、何やってんだコイツっていう呆れた雰囲気を出した。


「あ?え?」


スープだ。

カファーラが持っているのはまさかのスープだった。

完全に予想外。

でも、俺が驚いたのはその理由じゃない。


とても、美味そうに見える。

というか、前世でいう高級レストランのようなスープだ。

皿がデカくて見えるのではない、そういう風に言えるのは、色彩によるものだ。


まるで紅茶のようなスープの色に、黄色、緑、赤が均等に揃っている。


匂いもブロッコリーの茎のような何もない土みたいでなく、香ばしいもの。


……。

俺って、見た目の評価は下手くそだな。

思っていることが全然美味そうじゃない。


早く食べたい。

料理も上手にできるとは、お見それしました。


「私はいつまでお前の飯を持っていないといけないんだ」


おっと。

感心しすぎて、やっちゃった。


「すみません」


皿を手に取る。

スープと言ったら、お椀だが何故に皿なのだ。

お椀でない為、入っている量は少なめにが感じる。


いざ、実食。


ふむふむ。

あったかい、そして味も美味い。

この環境でこれほどのものを作れるのは凄すぎる。


過去にダルディナの野宿スープを飲んだが、あれより断然美味い。

しかもあの時のスープの材料は商店街で買った、いい物だらけ。


俺の感覚によるとこのスープの材料はここら辺の山菜だろう。

山菜が赤色は、食欲が薄れたのでこれ以上食レポは辞めることにした。

だって、考えると不気味だもん。

これが異世界か。




朝食を済ますと、待ってない特訓だ。

内容はやはりハード。


準備運動として課せられたものは、腕立て五十回、腹筋五十回、ダッシュ10分間。


カファーラの特訓なのに簡単なものと感じるだろう。

いや、違うんだよなぁこれがぁ。


本番はこれからになる。

明日からは腕立て、プラス十回、腹筋十回、ダッシュ二分。

それを一日ごとに追加していく。


この体でこの内容はキツイ。


「では、今日は身体強化を行う為の魔力を練って始める」


準備運動を終えてぐったりしているのに対し、カファーラはそう言った。

休憩は無しがスタンス。

うぅ、キツイよぉ。


そして当たり前だが、魔力に種類なんてものはない。

カファーラが言っているのは、魔術を出す時の魔力の使い方とは別の使い方だ。


カファーラは俺に手招きをする、クイクイと。


「私を身体強化で殴ってみろ」


「いいんですか?」


これは俺ができるとは思ってみないからだ。


「あぁ、正直今の段階でできるとは思っていないからな」


当たっていた。

多分、失敗して何がダメだった?なんて聞かれる。

でも、成功すれば見返せる。

取る選択はもちろん後者。


「じゃあ!遠慮なく」


魔術とは別のイメージ。


ここ最近考えたのだが、身体強化にとっての魔力とは制御装置。

そんな役割だと。

そして、昨日カファーラは魔力で動かすな、魔力で攻撃するイメージと言った。

その通りに行うならば、完全に矛盾している。

俺の考えた仮説が間違ってるのも、あるかもしれないがこれに関しては良い線に行っている気がする。


矛盾と思ってしまうほど、思い至っていない事がある。

手順だ。

魔力は一つしかないが使い方は無限大。


まず、全身に魔力を流す。

そこから、魔力を元の力と合わせる。

ここまでは、今までと同じ。


でも、今までと違うのは魔力による制御。

ならば、何を制御する。

それは…


「魔力!」


「正解だ!リーディン」


カファーラに打撃が入ったのを感じる。

でも、カファーラにダメージがない。

失敗か…。


そうは思わない。

あの感覚、今までに無かったものだ。


この瞬間、確実に身体強化が成功した。


「自分で答えに辿り着いたな。いいぞ、リーディン。やはり、センスがある。私がこの前、身体強化の魔力が練れていないと言ったのを覚えているか?」


「はい」


カファーラは満遍の笑みで喋っている。

弟子が成長して嬉しいのだろうか。


「身体強化の魔力を練るとは、扱う魔力量を調整すること。今までのお前だったら、無駄に魔力を出しすぎて体から溢れていた。でも、さっきみたいに魔力を制御して押さえ込むことで分散せず、そのまま打撃を撃てる。これが身体強化の仕方だ」


うわっ…この人やり方知ってたんだ。

今まで知らぬ存ぜぬ、イメージしか言わなかったのはなんでだ?


「なんで、言ってくれなかったんですか?」


「身体強化の仕方をか?」


「もちろんです」


「自分でやり方を見つけないと意味がないだろう」


ちょっぴり、正論ぽいところがモヤモヤする。

でも、成功したんだしいいかな。


すると、カファーラが手を差し伸べてきた。

彼女の手からは優しさを感じる。

謝罪したいのだろう。


「仲直りの握手だ。リーディン。すまなかった」


彼女はバツが悪そうだった。

一様、申し訳ないことをしたと思っているのだろう。

思うと、そこまで長い間答えを言ってくれなかっただけだし、俺も思い詰めなくても良かった。


「はい」


カファーラとの握手。

彼女の手は暖かい。


分からない安心感が心から溢れる。


「でも、修行は終わっていない。今のを無意識にすることをやってみろ」


確かに、これを無意識に行うことは俺にとって大きな恩恵を与えてくれるだろう。

でも、無意識ってことは体に定着させていくことだから残り六日でなんとかなるもんなのか?




二日目


無意識にやらなくていいから、一日中、身体強化を維持し続けろと言われた。

結論から言うと脳がショートする。

実際にはそうならないよ?

比喩的な意味でだ。


この間は拳だけを制御という一点の楽な作業だったけど、カファーラから命じられたのは全身の魔力を制御しろとのこと。


手の魔力を制御すると次は足の魔力が疎かになって、ついでに手だけの魔力制御すると三十分で限界が来る。


このことをカファーラに話すと、俺よりも圧倒的に少ない魔力量で体全体を一時間も維持してみせた。

極限まで使う魔力を抑え続ければ、今の俺でも一日は持つはずだということを知った。





三日目


魔力が回復したので再挑戦。


体に定着してきたのか昨日よりスムーズに行えるようになった。

腕のみでの制御だと一時間半、足のみだと一時間という結果。


しかし、維持し続けると言うのは中々に苦戦するもので、集中力との戦いもあった。


「よし。こんなもんか」


そういえば、今日カファーラを見ていない。

少しの休憩ついでに話しかけに行ってみよう。


馬車の中を見るがいない。

木の後ろで寝ているのかと見てみればいない。


ここら辺は平地で木と馬車しかいない。

今探したところにカファーラが居ないとなると、もうどこにも居ない。


しかし、朝ご飯は置いてあり、冷めてはいなかった。

まぁ、いいか。

多分出張?だろう。


あの人は大陸管理者っていう凄い立場にいるわけだし。

国会みたいなのに招集されたのもあり得る。


まだ、異世界に来て六年目なので知らないことはまだまだある。


「知らないことと言えば忘れていたが、お爺ちゃんに結局大陸管理者の役割について聞いていないな。このこと知ったら、師匠怒りそうだなぁ…」


カファーラがよぉ、リーディン!大陸管理者の仕事をしてきたぞ!今日はあれをしてきた。お前も国王から聞いていれば分かるはずだ。管理者としての大目玉!む?お前顔が悪いぞ。もしかして、国王から何も聞かされていないな!殺す!


そんな物騒な人ではないのだが、何故かこんな想像をしてしまう。

毎日、そのようなイメージを植え付けさせるほどの修行をさしているカファーラのせいだ。

自業自得。


「とりあえず、師匠がいないのなら昼飯はどうしよう」


俺は時計を確認して、もう少しで十二時になることを知る。

馬車にある残り物でもいいか。


ご飯のことを考えていたのでお腹が減る感覚がする。


後一時間待ってみて、カファーラが帰って来なかったら自分で探して食べよう。

カファーラの立場が師匠から専属シェフみたいな立ち位置になったが、しょうがない。

俺ご飯作れないもん。




一時間経過。

カファーラの姿は見えない。

仕方がないので馬車を漁って、飯を探す。


うーん、何にもない。

なんとびっくりすることに馬車の中に飯は無かった。

食べれるものがあるとしたら、調味料のみ。

泣くぞ。


お腹をさするとグゥーと鳴っているのが分かる。

いや、本当にどうしよう。


何もしないってことにはならないので、飯を作ることにしよう。

カファーラがよく使っているのは山菜のスープなので何処かには食べられる山菜があるはず。


探検隊リーディン出発。


馬車から離れて、一キロ近く。

特に何も生えていない、あるとしたら魔物の死骸。


さらに一キロ近く離れて、また魔物の死骸があるのみ。

時計は持っていないので分からないが二十分は経過したかな?


これ以上歩いていても、平行線な気がするので帰ることにした。


「さて、戻ろう」


頭から血が引いていくのが分かる。


人は平行線約四キロメートル見えると言われているのを俺は知っている。

この世界と前世ではそもそもの身体能力が違うので五キロメートルは見えるかもしれない。


俺が歩いてきたのは二キロメートル。

馬車は小さいから見にくい。

それはしょうがないとしよう。


だが、馬車の隣にあるデカいあの二本の木。


「なぜ、何もない。」


木も見当たらない、魔物の死骸もない。


「おかしい。何かがおかしい」


いつからだ?

カファーラがいないと思ってからか?


俺は恐怖で足が震えるが、空に向かって魔術を放つ。


魔術は使える、それ以外にも俺に対して何も不都合はない。


杖を馬車に置いてきたのは間違いだったな。

いざという時の戦いでは不利だ。


そもそもこれは攻撃されているのか?

この地形の特徴か?

それとも疲れによる幻覚か?


どの結論にも辿り着く最善の策は…


「待機」


攻撃なら動かず様子見、地形の特徴なら変化の様子を見る、幻覚なら休憩して疲れをとる。


そして、カファーラの帰りを待つ。

これが一番良い選択だ。


カファーラさえ帰ってくれば、最初の二つはクリアだ。

下手に動いて奇襲を受ければ、負ける可能性がある。


いや、この可能性がある。


カファーラがどこかにいく。

カファーラがいなくなったことで魔物が近くに来るようになった。

魔物による、幻覚攻撃を受けた。


これだ!

これが今の状況に一番マッチしている。


両手を広げて念の為の迎撃体制をとる。

戦闘経験はゼロなのでこれが最善とは分からないが。



体感時間一時間経過。

周りに変化なし。


「現在の時刻は二時近くだろうか」


喉が渇いた時は魔力で水を作り、喉を潤している。


このまま、耐久勝負だ。


と根性を入れ直したところ奥に人影が現れるのを見た。

その人影はどんどんこちら側に近づいてくる。

人影は鮮明にやがて顔が見えるほどになった。


安堵、それが今の俺の感情だ。

近づいてきたのは、カファーラ・レフケム。

俺の師匠である。


「何をしている、リーディン」


「師匠。すみません!今の状況を教えてください」


「ん?お前が勝手にどこかに行って、迷子になっている。それが今の状況だ。帰ったら説教だ」


「なるほど」


どうやら、俺の疲れによる幻覚それが原因だったらしい。


「ほら。早くこっちに来い」


「はい!今すぐ」


俺は戦闘態勢をやめて、よっこらしょっと立ち上がる。


カファーラに近づく、その時視界が下に向いた。

ガクンと。


ひ、膝をついている。

そして、腕が熱い。

痛い、痛みが伝わる。


腕を見上げようとすると、血が垂れている。

俺は動揺する。

だが動揺したまま、顔を上げるのをやめない。


「はっ!」


腕に大きい爪が刺さっている。

深くはないがそれでも食い込んでいるのが分かる。


「がぁぁぁ」


大声を叫んで痛みと現実逃避をする。

そして、おもっいきり爪を掴み腕から引き抜き、後方に十メートルほど離れる。


目の前にいるのは、カファーラではない。

油断、油断した。

これが本物の魔物との戦い。


「ふぅふぅふぅ」


まるで妊婦の出産みたいに呼吸を整える。

態勢を立て直して前方の敵を見る。

敵はすでにカファーラの姿では無かった。


狼だしかし、それは見た目で完全な狼っていうわけではない。

二足歩行型狼だ。


俺のことを誘って攻撃してきたので知能もあるとみた。


「さて、準備はできている」


次はこっちが先行して攻撃する番だ。

手を狼に向けて魔力を込める。


「初級魔術 砂《サンド》」


「初級魔術 風《ウィンド》」


「合体魔術 砂風《サンドウィンド》」


狼の目潰しをしようとするが手で目を覆われて効果はなしだった。


距離をとったのにもうすぐに詰められた、


足に魔力を集中させて、強化する。

今までにないぐらいの思いっきりな踏切をした。

瞬間後ろにすごい、いきよいがつく。

そして、ドゴンと強い衝撃が走る。

おもわず、尻餅をついて痛めてしまったのだ。


しかし、視線は外さない。

狼を捉えて行動を伺う。

しかし、奴は近づいてくる限り何もしない。

いや、何もしないわけではない、何もできないんだ。


あいつは近接専用のあの爪しか武器がない。

だから、幻覚を見せてまで俺に近づかせたのだ。


距離をとって、魔術を連発すれば勝てるかもしれない。

しかし、さっきみたいにガードされるかもしれない。


でも、やる。

これは、負けたら次に活かすことができるいつもの修行じゃない、次はない。


「爪さえなんとかすれば、攻撃手段はなくなるな」


狼がまた近づいてくる。


しかも、さっきより早い。


「初級魔術 水《ウォーター》」


狼に向けてただの水を放つ。

だが、ここからだ、俺は奴の動きを止めて仕留める。

狼に当てたと同時に奴が移動するであろう場所に水溜りを作った。


そして、そこに来るのを待つ。


狼は水なんてなんともないように突進する。

そりゃそうだ、ただの水を浴びせるだけなんだから。


来た!


「中級魔術 範電《エレクトレンジ》」


奴の動きを止める方法。


「そう。関電《かんでん》でだ。」


「ガゥァー」


ただの範電《エレクトレンジ》だと、すぐに消える。

でも、水と掛け合わせればより長く効果時間が伸びる。


「動いていない今がチャンス。その爪が何製かは知らないが溶かしてやる。中級魔術 炎《フレイム》」


関電の効果が消えたと同時に俺は炎《フレイム》を放つ。

水が蒸発していくのが見える。

火力は十分。


俺は足に力を入れて今度はつっこむ。

だが、敵の攻撃が当たらない位置までだ。


「中級魔術 風斬《エアラッシュ》」


無数の風の斬撃、至近距離なので途中で消える心配もなし。

頼む、これで死んでくれ。


「グゥグゥガァ」


奴は炎を払いのけ、風斬《エアラッシュ》を防ぎながら突進を行う。


しかし、ダメージはあった。

左目はボロッと落ちかけていて、攻撃手段である両爪は一、二本欠けている。

体にも火傷と関電の傷跡。


しかし、狼の魔物は人間と違って、痛みという感覚はあっても感情はない。

捕食衝動は止まらない。


もう、一か八か。

こんな近距離で攻撃系魔術を放っても自爆する可能性がある。

そんなら…


俺は右腕にありったけの魔力を左足にもありったけを注ぐ。

俺の全てをこめた魔力を悲しいくらいに小さく小さく小さく凝縮する。

込めた魔力は無くなってはいない。


ただ、大きく広がった魔力が分散しないようにするため。


んっ!なんだと!


狼が急に爪ではなく顎を前に出した。

奴は爪がダメだと見たのか、自分の歯で攻撃することを選んだんだ。


ビビるなビビるな。

これを食らえばアイツは完全にくたばる。

ここが正念場だ。


その汚ねぇ顎!潰してやるよ


奴が俺からの距離一メートル半まで来た時に足を踏み切り、突進する。

地面は裂け、直径三十センチのクレーターが出来た。


狼は俺に反応して死を感じたのか顎を引っ込め、両腕を前に出す。

両腕を犠牲にして、カウンターに出るつもりだ。


だが、その防御という判断が俺の勝率を上げる。


「馬鹿が!俺がするのはアッパーカットだぁぁぁぁ」


「ゴブゥ」


狼の顎は砕けて貫通し、そのまま頭のてっぺんまで貫いた。

狼は防御していた両腕をだらんとさげ、全身に力が入らなくなったのか右腕にありえないくらいの重さがのる。


そして、俺は膝をつく。

まさに体力の限界。

魔力の枯渇になった。

もう、初級魔術すら出せない。


意識も遠のく。


起きなければ…起きないと、何かあっても対応することができない。


「腕を引っこ抜くか…」


そういえば、狼が現れた場所は俺が歩いて来た道だ。

つまり、こいつを倒した俺は幻覚は解けて、馬車と木が現れるはずだ。

目が疲れているのか?

馬車どころか木も見えない。


考えたくない。

が、ここまで来たのなら心に覚悟をつけれる。


「まだ、敵はい…る」


今の魔物は単なる野生の魔物。

幻覚を扱う魔物はまた別にいるってことだ。


魔術は使えない、攻撃で腕の傷が開いていて致命傷。

俺はこれから来る魔物に何も出来ない。

ただ、自分が食レポ対象になるのをじっくり見る。

それだけだ。


「クッ…」


狼が死んだところの地面から振動しているのが分かる。

そして、地面が割れた。


根っこが出て来たのだ。

根っこの太さは俺の太ももぐらいの大きさだ。

この世界ではそんなでかいものじゃないから、危険視されない。

が、今の俺を十分に捕食することは出来るだろう。


そして、俺は意識の限界だ。

瞼が勝手に閉じていく。

力も入らない。


目の前が真っ暗になる。





……。

俺は死んだのか?

目の前が真っ暗だ。

体には倦怠感もあるし、動けない。


しかし、死んだ時ってこんな一人称視点なんだ。

三人称視点で俺の死体が見える感じだと思っていた。


ん?

俺って今火葬されてるのか。

右側の部分が熱い。

熱を感じる。

地面も硬いし。


土に埋めてから火をつける。

残念、定番の火葬だな。


前世ではマジでありえないことだけど。


いやでも、頭は痛くない。

少し、ゴツゴツしてるけどそれでも柔らかさがある。


ん?

この感覚俺は知っている。

頭の方の感覚じゃないよ。


なんか、頭が最初はぼーっとして、動きたくなくて、だんだん体の状況がわかってくる感じ。


起床だ。

俺…死んでないかも!


「カッ!」


声が出た!!

良かった、俺死んでいない。

しっかり生きている。


「ん?起きたか。もう一回寝てもいいんだぞ」


天使…の声ではない。

聞き覚えのある声、カファーラの声だ。

でも、カファーラにしては初めて聞くとても優しい声だ。


「いや…おきます」


だるい体を頑張って起こすことは出来た。

しかし、目がまだ開かない。

手を使って瞼を擦る。


次第にボヤけていたのが少しずつ鮮明になって来た。


「あぁ…やはり、師匠でしたか」


「あぁ…リーディン頑張ったな。今日と明日はゆっくり休め」


「明日まで有給を取ってもいいんですか?」


「ん?あ…あぁ、いいぞ」


カファーラはキョトン顔をした。

有給という言葉が分からなかったのかもしれない、案外可愛い。


「しかし、お前の戦い方。中々に面白かったぞ」


「え?どういうことですか?」


場の雰囲気が変わる。

微かに焚き火が揺れている気がする。


無風なのに。


「ラレノームとの戦いは上から見ていた。お前がいろんな魔術を駆使して戦い、最後にはしっかり身体強化で倒していた」


「え?どういうことですか?」


「答えは言ったぞ。早く寝て、体を休めろ」


「この戦い仕組んだのはカファーラですか?」


俺は低い声でそう尋ねた。

多分、怒って…いや、完全に怒っているよ、俺は今。

死にかけたんだから。


いつもは師匠と呼んでいるがこの時は間違えてカファーラと呼んでしまった。


「半分はそうだ。だが、もう半分は違う」


「なぜ…あのようなことを」


カファーラに質問攻めをする。

悪いことだとは微塵も思わない。

カファーラがこの戦いに少しでも関係していたのなら、俺はそれを知る権利がある。


体はこれ以上動けないし、大きな声で怒鳴ることもできない。

それでも、カファーラには俺の怒りが伝わっているはずだ。


「私は君に言った。一週間後、魔物との実戦をさせると」


「まだ、三日目ですよ」


コイツは計算ができないのか?

今のは常識を疑う。


「それには語弊があった。正確にはお前が十分、身体強化ができるようになった時点で実践をさせるだ。一週間は、お前が身体強化が可能になると思った日数だ。一週間で、できなかったとしてもそれ以上時間をかけるわけにもいかないし、制限としての役割も担ってある」


そんなん、語弊どころじゃないだろ。

全然、文が違うじゃないか、畜生。

明日からは明確に殺意を持って、修行を受けないといけないのか。


自分の気持ちを収める。

深呼吸するんだ。

深呼吸を。


「すぅー…はぁ…」


あぁ!殴りたい。


怒りを収めるどころか、火に油を注いだみたいに激しく怒りが積もるだけだった。


俺は右手に力を入れようとするが、数十センチ上げれるだけで、人をフルスイングできるわけなかった。

殴るのは我慢しよう。


そういや、腕は痛くないな。

体の筋肉痛があるのは感じるが。


俺は爪が刺さった左腕の手前を見る。


「ない?傷跡が?」


「あぁ、治しておいた」


治しただと?

首を捻って左腕の全体を見てみる。


すると、穴どころか跡すらなかった。

本当に爪によって穴を開けられた後とは、信じられないぐらいに。


完治といっても差し支えない。


「お前のためとはいえ、私が仕組んだことで怪我をしたんだ。当然のことだ」


「……」


「……」


再びの沈黙。

これは俺から話出さなきゃならないのだろうか。

いや、話す必要なんてない。

今は寝よう。


寝ようと考えた時、俺は気づいた。

どうやって寝ていたのか?

背中に地面の感覚があったから布団はない。

うん、俺の周りに布団は見当たらない。


頭は痛くなかった。

少しゴツゴツしていたが柔らかかった。

周りに枕はない。


俺の後ろにはカファーラが正座でいた。

こんなけ条件が揃っていれば、分かる。


さっきまで…カファーラの膝枕で寝ていたのだ。


いつもならこんなことは嬉しいがもう一回寝るということは、小石とかが刺さって痛い地面か、寝やすい膝枕か、どちらかになる。


後者を選択すると絶対に気まずい。

寝ようにも寝れない。


前者は寝ようにも楽に寝れない。


少し悩んだが悩むのも面倒臭くなり、


「起きよう…」


今日は運が無い日としておくことにした。


すると、後ろでスタッと音がした。

カファーラが動いたのか?

顔を動かさずに出来るだけ後ろを見てみると、焚き火に向かって座ったいたのに、俺の真反対の方向に向いて座った。


カファーラも気まずいようだ。


「リーディン。私は若い」


「はい。聞きましたよ、十五歳なんですってね」


「だから、私には他人に教えるという経験はした事がない。ましてや、教えられたことも。今まで、独学でここまで来た」


一見、自慢話にも聞こえる。

が、俺にはそうは聞こえなかった。

心がそう勝手に理解したのだ。


「私はお前と喧嘩で明日を迎えたくない。お前とは、十年ぶりの友にもなれると思っている」


「……」


「お前を信用していたからこそ、あの場では割り込まなかった。そして、しっかり見ていた。戦いだけではなく、死なないように助けるために。あの時、拳を外してしまっても私は、お前をしっかり助けれるように準備もしていた」


「……」


「お前に嘘をつくような真似はこれが最後だ。だが、理解してほしい。本当にこれはお前のためだったと」


カファーラがヒートアップしてきた。

感情が昂っている。


「これから旅をするにあたって、自分の命は自分で守れるようにならないとダメだ。申し訳ないが、私がいる世界は最低でもそれが条件の厳しい場所。こんなところで勝てなかったら、この先は確実な死だ」


「私に奇襲で魔物と戦わせたのは、実戦を考慮したのですよね?」


「うん」


俺が喋り出すと思ってもいなかったらしく、返事はいつもの、あぁではなく、うんだった。

カファーラの様子から反省はとてもしてる。


「では、約束しましょう。私たちは師弟でもありパートナーでもあります。これから、互いに嘘をつくのはやめましょう」


カファーラは別に嘘をついたわけではないが、俺を危険に晒したのは事実だ。

その落とし前は、無しっていうことは俺は絶対に許さない。


だから、約束だ。


「もちろんだとも」


カファーラは振り返り俺の背中をギュッと抱きしめた。

そして、彼女が啜り泣いているのが同時に伝わる。

そこで分かった。


俺は馬鹿だった。

彼女を俺は過大評価していた。

魔術、名声、共に優れていて世界の中心にいて輝いている、何でも出来る人と。


後ろにいるのはそんな大人じゃない。

少女なのだ。

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