第7話 焦燥にいたる根拠
四日目?と言って良いのだろうか。
カファーラが設けた一週間後の実戦はなかったし、なんなら昨日、実戦を行った。
んー。
あれはもう忘れることにしようと思うので、四日目はやめよう。
そんな風にどうでも良いことを考えながら俺は顔を洗っている。
ちなみに横にはカファーラがいる。
なんと、俺は彼女より早く起きる事ができたのだ。
その理由は気絶して、たくさん寝たからだろうけど。
まぁ、そんな事で今日は俺がカファーラを起こした。
といっても、彼女は寝坊などしていないが。
「飯は私が作ろう」
「ありがとうございます」
顔を洗い終わったカファーラが俺にタオルを渡して去っていく。
タオルは共同で使っているのだ。
さて、今日は何をするかというとカファーラが昨日話してくれた。
それは、カファーラとの和解も終わって寝ようとした時、カファーラが俺に話しかけてきて、
「リーディン。これからの事について話しておこうと思う」
「これから?まぁ、はい」
「私たちの食糧が結構減ってきており、調達が必要だと私は判断した。なので、私たちは今より北西にあるサルキュラムへと向かう。移動は明日だ」
という事でいつものカファーラみたいに端的で明確にまとめた事を教えてくれた。
それと、そこへ移動をするのはそもそもの決定事項でもあったらしいから、時間の問題であったのだろう。
とりあえずだ、今から移動の準備を行い、一時間以内にここを出発する。
「師匠!この草は持っていくのですか?」
「あぁ!持っていくよ。でも、運ぶのは私がやろう」
運ぶ。
まるで重要なものを持つ意味を表すかのようだ。
ただの草に対して。
違うな、カファーラがただの草を馬車へ積むことはないだろうからこれは何かに使う予定のあるものだ。
それも、危ないのか、希少なのかカファーラ自身が運ぶというのですごいものであるのは間違いない。
近づくな危険ってやつだ。
カファーラが食器を扱う音が聞こえる。
これは朝食が完成したな。
少しの間でも、一緒にいたので分かるようになってきた。
「できたぞー」
当たり。
カファーラの方へスキップをして移動する。
一歩進むごとに良い匂いがする。
レモンと甘い香りだ。
珍しく紅茶も淹れているかもしれない。
カファーラは紅茶はあまり好まず、いつも水ばかり飲んでいる。
俺はそれに少し気を遣って、僕も水でお願いしますと言っている。
「師匠。今日の朝食は何ですか?」
「今日は紅茶と山菜のスープだ」
うん、知っていた。
山菜のスープはここ最近朝食として当たり前に出ているメニューだ。
だが、紅茶が出ていたのは驚きだ。
ちょっと聞いてみよう。
「師匠。なぜ紅茶があるのですか?」
「お前、紅茶が好きだろう?いつもは私に合わせて水にしているが、たまにはこういうのも飲みたいかなって思って」
「気づいていたんですか」
「当然だ」
気づかれちゃってたか、面映ゆいな。
俺はテヘヘというポーズをとると、カファーラが笑った。
昨日からか、お互いの本音を存分に話せたおかげで、師弟という関係より友達に近づいている感じがする。
だから、カファーラも俺に対して表情が緩くなった。
とても、嬉しいことだ。
その後は特に何もなく朝食をとり、外に出していた荷物を馬車の中に運ぶようにする。
「これで、最後!」
どさっと荷物を置くと馬車が揺れた。
こんなけ、重いものを持てるようになったのも身体強化ができるようになったおかげだ。
でも、全身を強化することはまだできていない。
これからだ。
「出発しましょう」
「分かった。これからの予定は馬車を走らせながら話そう」
俺は馬車の馬を運転する為、中ではなく前に乗る。
これから、カファーラに運転の仕方をレクチャーしてもらうからだ。
三十分ぐらい経過した。
カファーラに運転を教わったのだがすぐにできるようになった。
カファーラからは一人でもできそうなので私は話をした後、中で寝るよと言われた。
「サルキュラムに向かうにあたって私たちはこの先にある村へと向かう。そこの村で私たちは一泊した後、また向かう。二日目は一日中馬車を走らせるとサルキュラムに通じる道へと合流するだろうから、そこにつき次第野宿」
カファーラは旅行に連れて行きたいランキング第一位をとれるかもしれない。
こんなに良い計画を立てれるのは中々にいない。
彼女が旅をしてきて、身についた経験でもあるのだろう。
本当に頼りになる。
話を終えた後はもちろんのこと、馬車に入り仮眠をとった。
馬車の中は残念ながら、荷物がいっぱいで十分に寝れるスペースはないがカファーラはお構い無し。
俺は馬のリードを握りながら村に着くまで待つ。
ただ、景色を眺めているだけだ。
現在午後三時をこえた。
景色は変わって緑色の草原から湖と木々が沢山ある。
変わったことはそんぐらいなので綺麗だなぁと鑑賞してボケーっとする。
だって、何もすることないもん。
ただ、村を見つけたらカファーラを起こして、一泊するだけ。
掛け算でもしようかな。
本当に懐かしいなぁ。
学生時代の頃はいっぱい勉強をしたりしたから、掛け算が関わっていない生活なんてなかったよ。
特に俺は理系だったからね。
部活も少しはしたけど入院することになってしまったよなぁ。
まったく、勿体無い。
けど、今の生活も悪くはない。
てか、悪くない。
夢にまだ見た生活でもあるからだ。
でも、夢と違って結構現実的な異世界転生だったけど。
これからも楽しいことはあるだろう。
サルキュラムもその一部かもしれないしさ。
そこで何をするかはカファーラには教えてもらっていないのだが、修行系な気がする。
あれ?
そしたら、楽しめないな。
俺の異世界転生ハードモードになっていたようだ。
早くイージーモードに切り替えたい。
進んでいくごとに川が見えるようになった。
つまり、村に近づいている。
村は大抵、川の近くにたてるものだ。
そうした方が、農作物が育つのにも便利だし、色んな用途にも使えるからだ。
は、前世の知識。
この世界は自分で水を作る事ができるので別に川があるかないかで問題は起こらない。
あった方が楽なんだけどね。
だから、さっきまで村に近づいていると思っていたが、やっぱり気が失せてきてそんなことはないと思い始めてきた。
残念な、心境の変化だ。
俺がそんな事を思っていると、中がガサガサという音がする。
カファーラが起きたのかもしれない。
後ろを振り返って長細い窓から中を確認する。
そこには、背伸びして着替えをしているカファーラがいた。
体は細く筋肉質で黒くて可愛いブラジャーも着けている。
俺は二、三秒ぐらいじっと見ていたと思う。
カファーラが俺のことを見ているのを気づかないぐらい。
そして、カファーラと目が合った。
やべっと思い、目を逸らしたが時すでに遅し。
カファーラが笑っていない笑顔をしているのが見える。
俺がいく先は墓場になった。
カファーラがガチャリと扉を開ける。
その時はもう着替えを終えていた。
「師匠…起きていたのですねーー。あれ?服を変えたんですか!その白色の服とっても似合ってますよ」
俺ができるのは、見ていないアピールをするのみ。
「着替え見てたよな」
笑っていない笑顔でそう話しかけてきた。
今から、言い訳をしようか悩んだが言ってしまえば余計怒りを買いそうなので数秒の余生を楽しむことにした。
「はい!存分に見させてもらいました。とっても可愛い下着ですね!」
「ふんっ!」
「ぐごっ」
次のセリフを言う前に俺は何発か腹と顔を殴られた。
コンクリートで殴られた感覚とはこういう事を言うんだな。
吹っ飛ばされはしなかったものの、俺はバタンと倒れる。
鼻は案の定、折れていて血が止まらない。
自業自得だから、しょうがないか。
そして、カファーラが俺に向けて手を出して、治癒魔術を施した。
すると、腕の傷の時のように何事もなかったかのように治った。
しかし、殴られた痛さは消えないので損しただけである。
「次はないぞ」
死の警告までされた。
でも、次やったらだ。
今回はこれで許してくれるらしい。
そんなこんなで夜の七時ようやく村に着く事ができた。
夜になってから魔物にも遭遇はしなかった。
それは、当然のことなんだが。
村に着くと俺は待機してろと言われた。
村といってもここには宿のようなものがない、民家で一泊するのだ。
だからこその交渉だそうだ。
そして、それに持って行ったのが朝あった草だ。
何の用途かは聞かなかったが村長らしき人物にあげていて、その人はたいそう喜んでいる。
よかったね。
交渉が終わって、カファーラがこちらに向かってくる。
「泊まっても良いそうだ」
「分かりました。荷物はどうしますか」
「必要なものだけ持ってこい。大抵のものは要らないはずだから置いておけ」
なら持って行くものはないな。
馬車を村の路肩に停めて俺たちが入る家に行く。
行くとカファーラが待っていた。
玄関の前で考え事でもしているのか、空をずっと眺めている。
悩み事でもあるのだろうか?
「ん?どうした」
「あぁ…いえ、何でもありません。早く中に入りましょう」
民家の中に入るとそれはそれは豪華な…とはならなかった。
普通すぎるって感じだ。
壁には装飾品などが一切なく。
寝床、台所、風呂あと物置。
これを見ると俺の家がいかに凄いかがよくわかる。
いや、他人の家と比較するのはやめよう。
せっかく泊めてくれるというのだ、親切にしないと。
この民家の住人は俺たちが借りるっていることで他の人の家に移ったとのことだ。
俺はそれを聞いて心が苦しくなった。
だって、ただ寝るためだけにそんな事をしてくれたんだぞ。
しかも、見ず知らずの人に対して。
その人達の器には感服するよ。
「お前、申し訳ないなって顔してるな」
あれ?顔に出てたか。
指で顔を触り確認するが特にいつも通りな感じだった。
雰囲気で察したのかな。
「そうですね。だって、こんなにも待遇してくれて」
カファーラが気まずそうな顔をする。
ちょっと目を俺から逸らして、口を半開きにする。
何か言いづらい事があるんだろうけど言ってもいいんだよ。
「そうだな。確かにあの人たちには申し訳ないって気持ちは私にもあるが」
が…。
「泊めてくれた理由は二つあって、管理者の要求に応えるのは当たり前みたいなものだからだ。そして、単に恐怖しているから。村長は前者だったけどここの住民は後者だったよ。私が声を掛けようとしたら、何もしないでくださいって言って、どこかに行った」
なるほど。
カファーラの気持ちは分かった。
ようは、お人好しでやっているわけではなくて、義務感と恐れからしている事という事か。
カファーラの申し訳ないは、後者の恐怖している人に対してだな。
「なんで、恐れられているんですか?」
「私達が未知の強さを持っているからだ」
ふぅーん、世界一のヤクザっていう肩書きを持っている人が家に泊まるって言ってきた、住民はそんな感じってことかな?
それにしても、達っていうことは他の管理者の人も恐れられているんだな。
可哀想。
「まぁ、そんなことは今に始まったことじゃないから。
私は気にしない」
そう言って、カファーラは風呂に向かった。
その時の顔はとても寂しそうに。
彼女も一様、十五歳という若者。
孤独とかもあったはずだ。
十五歳で友達ゼロ人は俺は耐えれないし、やはりカファーラはすごい。
あの人のコミュニケーションが拳から始まるから、いないのかもしれないけど。
「何か失礼なことを言われた気がするが気のせいか?」
カファーラが風呂場のドアから顔だけ出して、言う。
「うわっ!びっくりした。べ…別に言っていませんよ」
「そうか?分かった」
あの人、人の心まで読めることができるのか?
彼女の前では無心でいた方が良さそうだ。
一時間ちょっとするとカファーラが出てきた。
一週間近く風呂というプライベート空間での休息には入っていないため、最高だったはずだ。
前までは、風呂は入っていたが俺たちは周りを気にして入っていたのだ。
外で入るというのは中々に落ち着かない。
でも、こういう見慣れた空間であり、ゆっくりできる場所があると長風呂したいのだ。
俺も長風呂するつもりだ。
しかし、この小さい体で入り続けるとのぼせるのは、確実なので水風呂としての水魔術で体を冷やす。
想像するだけでも良いなこれ。
俺はすぐに着替えとタオルを持って、カファーラがどいてくれるのを待つ。
やっぱり、水でも飲もうとコップを取りに行ったところで入ってもいいぞと声をかけられた。
意地悪め。
ドアを開いて中に入ると床がビチョビチョになっている。
浴槽で体を拭かないタイプとみた。
いかん、こんなことを考えていては心を読まれて殺される。
無心無心。
服を脱いで俺はすぐに風呂にダイブした。
バシャーンとデカい音を立てて水飛沫が散る。
風呂の形は長方形型。
そして、ここの風呂は普通に大きくて、3人分は簡単に入れそうだ。
ということで、俺はぷかぷかと水面に浮かんで天井を見る。
天井がなかったら露天風呂という形で最高なのだが、それは前と変わらない気がすると、そこまでな気分になった。
十分すると伸ばせてきたので一旦上がり足から順に水をかけて体を冷やす。
ついでに口に入れて水分補給。
美味くはない。
風呂の周りを見る。
この世界には、シャワーがない。
当然と言ったら当然なのだが、あれはあった方が便利なものだ。
シャンプーを洗い流すのも楽だし、いろんな部分を洗うことだってできる。
ありゃあ、文明の力だった。
まるで、水風呂とサウナのような入り方で俺はすっかり整った。
最後に体と頭を洗って、浴槽を出た。
浴槽を出て時刻を確認すると俺が入ってから一時間半も経った。
カファーラより長いのだ。
そしてそのカファーラは、待ちくたびれたという顔で疲れている。
「髪を早く乾かして寝ろ。私はもう先に寝ている」
そう言い残して、我の元を去って行った。
俺も髪を乾かして、水分補給し、歯磨きをして寝室へと向かう。
寝る場所はカファーラの隣である。
ベットは一つしかないのだ。
カファーラを起こさないように慎重に掛け布団を捲る。
そして、すっと入る。
俺の全神経を集中させた行動は、カファーラを起こさないことに成功した。
では、ゆっくり寝よう。
明日は早いんだ。
コッケコッコーとは言わない朝が来た。
いつも通りの朝だよ。
今は午前五時半。
ちょっと早い気がするけど、六時出発でも夜の遅くに着くらしい。
とほほ。
村長に挨拶をしてから行こうとしたが流石に寝ていたので置き手紙を書いて出発した。
ちなみに、泊まらせてくれた住人にもだ。
移動についてだが、朝の運転はカファーラがして、夜の運転は俺がするということに決定する。
なので俺は今馬車の中で暇な状態に陥っている。
「魔術の練習でもするかなー」
馬車内で水やら風を出す。
無詠唱でやるとやはり、威力は下がるようだ。
詠唱ありだと、無詠唱の1.4倍違う。
結構な差があるが戦闘では無詠唱の方が圧倒的に有利だ。
威力より、連発や速度のほうが結果的に威力は大きいしね。
「リーディン。明日の朝から私と稽古する。つまり、休めるのは今日だけだ。お前暇そうにしてるしな」
うぇー、急な有給ストップすか。
逆に最近何もなかったから、暇だったのは間違いないけど。
悲しいがそれが宿命。
とそこで馬車が止まった。
いきなりだったので俺は作っていた水を自分の顔に落としてしまった。
顔全体がびしょ濡れになり、手で顔を拭く。
何がどうなったんだ?
俺は細長い窓の隙間を見る。
そこではカファーラがわざと馬車止めたように見えた。
なぜって?
カファーラの前には人が立ち塞がっていたからだ。
「お前達、何の真似だ」
カファーラが問う。
すると、老人が声を上げる。
「この先へは通せられないことになっている。どうか引き下がってくれ」
「すまないがそれはできない。ついでに聞くが、お前達はどこから来た」
カファーラの質問は的確だった。
ここから、サルキュラムまで一日以上かかるって場所に人がいるのだ。
ましてや、村人ではない。
「私達は、サルキュラムから来ました」
「どうやって?」
カファーラの顔が怪訝なものになる。
「徒歩で来ました。それで皆クタクタです。どうか、手荒な真似はしたくありませんのでお引き取りを」
「ほう。手荒な真似か…それは私に勝てるっていう意味か?追加で私が誰か分かっての発言か?」
カファーラの口角が上がり、目が獲物を捉えるものになった。
「大陸管理者であられるお方なのは存じております。しかし、貴方ですらもここを通すわけにはいかない」
「分かった」
カファーラは振り返り俺の方を見て、彼らに向き直る。
何かを思案している。
答えが出たのかカファーラは大きく口を開けて
「なら殺してやるよ」
次の瞬間、カファーラが飛んだ。
いや、飛んだっていうよりも上昇した。
すぐに落ちてきたのだ。
そして地面に着地し、すぐに消えた。
だが、消えた場所は地割れしていて、カファーラがどこかに移動したのが分かる。
俺が事態を把握できていないまま、奥で魔術が放たれているのを聞く。
彼女が消えたからのすぐにだ。
聞こえた場所を確認するため馬車を飛び出し、上に乗る。
見えた。
カファーラが魔術を放ち、敵と戦っている。
その力の差は圧倒的で今戦っている魔術師が一秒も満たないまま殺され、次の剣士らしき相手が反応できず丸焦になった。
次は胴体を貫かれ、奥の大魔術を放とうとしている十人越えの魔術師はカファーラが放った四方八方の蒼炎に焼かれ、蒼炎が消えた後、まるで黒の人形こようになってボトボトと音を立て、倒れる。
それは俺がカファーラを見てから十秒も満たないことであった。
「リーディン。馬車はもう捨てろ。また、回収しに行く」
カファーラは叫び、俺の方に向かって来る。
「何がどうなったんだ」
周囲がざわめく。
俺のように彼らも訳がわからないらしい。
老人も腰を抜かしている。
カファーラが目の前に来た。
「師匠これは?」
「それについては、走りながら話す。とりあえず抱っこするから掴まれ」
「え?」
俺の同意もなしに遠慮なく俺を抱っこではなく、お姫様抱っこをする。
え?だ。
カファーラは本当にこのまま行くらしく、すぐに180度回転して、ダッシュする。
「ぎゃぁ」
余りの速さに情けない声が出る。
俺は全力でカファーラの肩にしがみつく。
離したら、吹っ飛ばされるからだ。
カファーラを見ると、額に汗をかいている。
戦いによるもの、でもあるが今の状況と照らし合わせると焦りによるものが正しい。
「今の状況がわかっていないと思う。だから、詳しく話す」
そう言って、彼女の目は真っ直ぐを向いていた。




