第2話 慈愛の家族
俺の親父リードが帰ってくる、その期間は四ヶ月ちょっとか。
正直長いとは感じたがテルミナス大陸への出張と考えるとそんなものだろう。
これから、旅の話について聞く。
もちろん、俺は家族にまだ話せない設定なので親の会話でだ。
「お帰りなさい、貴方。先に荷物を片付けるわね」
おや?もう帰っていたとは。
少しやつれている。
目元にクマは無いが、頬が弛んでいるように見えからだ。
リードを見るとこの世界は過酷なのは間違いないのだろう。
魔物は大抵、魔術の中級から上級で討伐をする、しかし、その魔術を扱うのも大変で、状況の変化に応じた必要な魔術だけを求められる。
俺には経験がないが簡単ではないことは一目瞭然。
異世界の現実を理解してきてしまっている…いや、理解しないといけないのだろう。
「あの子に久しぶりに会ってきたよ。すっかり大人びていたなぁ…。でも、身長はまだ子供のままだったよ。ママに似て可愛くなっていた」
「安心したわ。ねぇ…ご飯を食べ終わったらゆっくり、旅の話をしてくれない?」
「勿論だとも」
ダルディナはリードのケースを両手でゆっくりと持ち、倉庫へと向かった。
重たそう…。
夕食を食べ終わった後は、リードの旅の話をしてくれた。
俺も混ぜてね。
話をしている場所はダルディナの部屋だ。
母の部屋は観葉植物(魔物)を育てている。
観葉植物は朝になると葉が果実に変化して、それを自ら落とす。
それで近づいてきた獲物を捕食する。
捕食の頭はさほど大きくなく、直径は五百円玉みたいな大きさ。
他は書き置きの本とペンがあるくらいか。
まぁ、女子にしては飾り気の無い部屋だがこの人は母だ。
それぐらいが普通なのかもしれない。
「まずテルミナス大陸へ行くための船を手配したんだが、これが失敗してね。船に乗って出発したらまさかのトビイカの群に遭遇して、沈没したんですよ」
「沈没した後は、魔術で補強とかしたの?」
「いいえ。トビイカの群はしばらくその海域にいるそうなので、馬を借りました」
「馬を借りた後はラスナス王国に行き、一泊。王国の船を借りました。そこからは、海を渡り宿を借りの地道のもの。出発から10日ぐらいでキュラヌスに着きました」
あれから俺は子供部屋に戻されて、寝かされた。
昨日あった話から大陸を渡るのにも簡単なものでは無いらしい。
交通網が整っていないのは異世界としてのイメージらしい。
いつか、移動手段に関しての魔術を考えないといけないかも知れない。
さて、今日は皆んなでお出かけだ。
どこへ行くのかと言うとミュハルス王国の首都へと行く。
ミュハルス王国はどでかい国じゃ無いから、楽しむ要素は多く無いかも知れない、でも、家族と観光することが楽しさになる。
うーむ、中々良いことを言ったと思う。
今世の名言にしておこう。
移動手段は馬車。
馬車は初めて乗るから興奮する。
「リード!見てみなさい。あそこにあるのがルートの泉です」
「あー。うー」
ルートの泉、ミュハルスで1番大きな泉だ。
直径は100メートル前後。
特にすごい歴史があるとかでは無いが泉というに相応しい水の透明度を誇っており、薬品の材料としてよく使われる。
家から8キロぐらい離れて見える所は、大自然。
冬の名残があるから、寒い。
そろそろ、春になってもいいんじゃ無いかな?
春になったら、外の世界を思う存分知ってみたい。
大陸を横断するのもありだな。
それから、2キロ移動して王国が見えてきた。
中央にあるのは城のようだ。
俺らは、観光しにきたから城の中に入る予定など無い、今回は無関係な場所。
今回はだ…。
男たるもの、王を間近で見ないということはあり得ない!
何年後か分からない。
それでも、王と謁見し、その権力を見させてもらいたい。
つまり国王が、皆の者!砲弾よーい…放て!バダバッバダバッ、魔術師よ!魔術を放て!ヒューバコンバコンってね。
そんなん間近で見るのは男の宿命ってやつだ。
妄想を膨らましている間に王国に着いた。
王国の門は木製で出来ている、強行突破しようとしたら簡単に出来そうなやつだ。
でもこの門、かなり芸術を重視している、門は木製であるため木を掘って削って、炎のような紋様を醸し出している。
防衛重視より見た目重視ね。
門の潜るとまず目に入ったのが、商店街。
商店街と夏祭りが合体した感じ。
こんだけあるのは商売が盛んであり、入ってくる魔道具などが優秀だから。
少々玄人向けの物が多いがそこも味らしい。
「あなた、あそこにあるのまあ欲しかったやつじゃない?」
「あぁ…しかも、より新しい形に進化している」
父と母が見ているのは黒い鎧、それも王国の騎士たちが着てそうなやつ。
俺はこっそりと値段を見た。
う…うん。
まぁ予想はついていたが、安く無いはずもない。
金貨30枚、日本円に換算して1500万。
こんなもん、警備の薄い商店街で売るんじゃねぇ。
誰かは絶対盗むだろ。
在庫は一つのようだから、盗まれた後かも知れないけど。
いやいや俺は何を考えているんだ、単純に在庫は一つしかないのだ。
金貨30枚必要な貴重品がポンポンそこらに置いてあるのが可笑しい。
え?ダルディナさん?なぜ、財布を取り出そうとしているのですか?
考えれば考えるほど理解が追いつかない。
もしかしたら、母上は数字が読めないのかな?
だとするとまずい。
こんな所で赤っ恥はかきたくな、リードに伝えなくては。
「あぐぅぁ あぐぅぁ」
「ダルディナ、リーンが泣き出しましたよ。」
「うんちかな?いや、でも朝うんちはしたし…」
「いえ、この子が泣くことは珍しいですから、きっとこの鎧が欲しいのでしょう。もしかしたら将来、騎士にもなるかも知れない。英才教育は大切ですし、この際何かをさせるきっかけの物を買っといてもいいでしょう。すみません…子供用のこの鎧はありますか?」
あ…お前も読めないのね。
てか、親バカだなこの人たち。
嬉しいんだけどね、こうも違った方向の愛を受けると何が正しいのか分からなくなってくる。
「ハハッ、客さん残念だけど子供用のものは置いてないんだよ。それにこの鎧すら結構高いのにそれを二つ買おうなんて無理だよな」
はい、もう恥をかきました。
この期に及んで数字すらわからない新米夫婦としてこの地で言われ続けるんだろう。
その息子、リーディン君。
彼も、もしかしたら、数字を読めないかも知れないとそう噂は流れ続ける。
「みくびられても困ります!こう見えてもお金は持っています」
ダルディナ母様、反撃しなくていいんだよ…惨敗ですよ?
ダルディナはすぐに自分のポケットへと手を伸ばし、お金の入った小袋を取り出した。
そこでじゃらじゃらと音を鳴らして、枚数を数えている。
「はい。金貨30枚ちょうどあるでしょ」
「カッ!これはおったまげた。本当にこの鎧を買える人はいるとは。お客さん先程の発言、撤回しやす。これは貴方ご夫婦にこそ相応しき、品物。どうぞお召しください」
途中、三下ムーブがあったなこの男。
まぁいいや、オイラ、一生ダルディナ様に使えさせていただきやす。
ダルディナは二人同時に手のひら返しをさせた、マダムの称号を手に入れた。
商店街を通り過ぎて新しく見えるのは住宅街。
まぁ普通だな、俺の家とそこまで変わらない。
あえて言うなら俺の家の方がデカい、それぐらいしかない。
しかし、住宅街の奥にあるのは俺の家より豪華そうな建物。
異世界には貴族がつきものだし、貴族の家かな。
「ダルディナちゃん?」
「え?」
「あっ!すみません。急にびっくりすること言って。私の知り合いのダルディナちゃんに凄く似てて、つい話しかけてしまったわ」
「いえ、合ってますよ?私の名前はダルディナ・ライゾニルです」
「やっぱり、ダルちゃんじゃないの!大きくなったわねぇ、もしかしておばちゃんのこと忘れちゃった?ここら辺で子供たちと遊んでいた、洗濯屋のルヒシ」
「えっ!ルヒシおばちゃん」
「そうよ。そう」
ママの知り合い、つまり、昔はここで住んでいたのね。
でもなんで、都市から離れた田舎に住んでいるんだ?
リードがあそこら辺の出身って可能性もあるが。
「昔とだいぶ違って老けていたから気づかなかったよ」
毒舌過ぎて、俺引いたぞ。
「もう、歳だものねぇ。それより、その子は貴方の子供?」
「はい。名前はリーディンって言います。リーン、ルヒシおばちゃんに挨拶してー」
雰囲気からだいぶ優しそうな人に見える。
優美な顔に少しボロけている長袖、下は動きやすそうな軽いズボン、手には汚れた服類。
「あぅあー」
「あら、だいぶ賢い子ね。貴方には、少し似てない」
優美なのは雰囲気で、言葉はダルディナと同じ毒舌。
相当、一緒にいたなこれ。
でも、ダルディナはたまにしか毒舌を吐かないけど。
「私もダルディナちゃんに色々話したい事があるけど今は仕事が立て込んでてね、また今度尋ねてきなさいな」
「そうするよ」
ルヒシさんとは別れて、そのまままっすぐに進み、現在は貴族街?にいる。
ここら辺は人の数が少ない、今道路で俺たちを除き、見える範囲で5人しか歩いてない。
下は商店街があったから、人が多かったのは頷けたけどこんなに出入りの少ないことは変だ。
というかどこまで進むんだ?
観光出来そうな、商店街から離れたら、ずっと真っ直ぐに向かって歩いている。
まるで目的地が国の中央にある王城のように。
本当に王城だった。
まぁ、前世でもどっかの使わない城には入れて観光もできるし、ここもそういう目的なんだろ。
それも異世界だから観光場所もグレードアップだ。
今日は観光と買い物のオールスターだね。
「そこの一家何ようだ?」
過去にベンチプレス300kg持ち上げましたよと言わんばかりに主張の激しいムキムキ騎士が前に出た。
「ラグナ国王に用があってきました」
こちらはベンチプレス100kg持ち上げましたよと言わんばかりの細マッチョ父だ。
「名は?」
「リード・ライゾニルです」
門兵らは互いに顔を見合わせて、こちらに向き直った。
「これは、失礼をはたらきました。ライゾニル様お待ちしておりました。このまま、我々とご同行をお願いします」
「それにしてもここは綺麗なままだわねぇ…ふふっ」
なんか母親が年甲斐もなく、はしゃいでいる。
いや、その言い方は悪かった。
誰でも興奮するもんだろ、こんな王城。
周りはさっきの鎧と同等の価値がありそうな額縁。
上にはミニシャンデリア。
海外旅行したことがない俺は大阪城しか見たことがないから、こういう金品がぶら下がっているものを見ると面白い感覚になる。
「こちらでございます」
「案内ありがとうございます。さぁ、ダルディナ入ろう」
案内された場所は応接室と書いてある。
観光目的じゃない?
リードは俺が考える余地もなく、力強くゆっくり扉と引いた。
「よくぞ、来た。ダルディナ…リード」
最初に声を出したのは奥の椅子に座っている老人だった。
見た目と雰囲気的にここのお偉いさんとみた。
「お久しぶりです。お父さん、7年ぶりに戻って参りました」
ダルディナの父?
この老人がか?失礼なことだが40歳は離れている様に見える。
いや、それ以上。
「リード君よ。そちらの子は息子か?」
「はい。御父様、手紙に出した通り名前はリーディン・ライゾニル。貴方様の孫です」
「孫か…」
なんだよぉ、その意味ありげな孫か…は。
はしゃいでくれ、お爺ちゃん。
「あら。貴方に似ているじゃないダルディナ。私は生まれてくるのが女の子だったら嬉しいなって思ったけど、でも、リードさんとの子ならイケメンになりそうね」
声が聞こえて来たのは俺の下。
優雅にお茶を飲みながらいきなり話して来たのは、ロリだ。
「近くで見る?ウル」
「貴方からは開口一番にお久しぶりという言葉がないのかしら。いいわ。慣れてるもの」
めちゃめちゃ喧嘩売って来ますやん。
彼女はその態度に見合った赤い瞳と丸くとんがった髪型をしている。
「うぅ〜。ワァ〜」
「ほら見なさいダルディナ。貴方の赤子が泣いているじゃない」
ほらってどういうこと?
まるで、当たり屋みたいな喋り方だ。
「ごほん!ごほん!」
突然、横の扉から二人入って来た。
「ごめんね。ダルディナ。ウルは貴方に会えるって聞いて興奮しているの」
「なに?私が子犬みたいって言いたいわけぇ?」
ブルドッグだろ。
見た目は少し可愛らしいからチワワでもいいんだが、小さい割にはとてつもない筋力を発揮しそうなオーラがある。
「なんで子犬なのかしら。そんなに小さいこと気にしているの」
そうたからかに、新しく突っかかって来たのは高身長の女と…この二人は何やってんだがと呆れているダルディナぐらいの身長の男だ。
高身長女は長髪をサラつかせてウルというロリの目の前に立って睨んだ。
「ごほん!ごほん!二人ともヒートアップし過ぎだ」
「そうだ。今日は孫に会うっていう話でお前たちを呼んだんだ」
「わかりましたわよ。父上」
それから全員が席につく形になった。
俺とダルディナのセットと隣にリード、前には男と高身長女、ウル、お爺ちゃん。
ウルが突っかかってきたから、考えなかったが俺の爺ちゃん王城の中にいるということはそれなりの立場を持っているらしいな。
「それじゃあ、儂から順にレト、ナセ、ウルにリーディン君を見るぞ」
「私、なんで最後なのよ」
ウルは怒られた犬の様に小さい声で喋った。
「ダルディナ。今ではお前を養子にして良かったと思っている。赤子の孫を見るのは何年ぶりだったもんで、あやつらの孫の事も考えておった。あやつらの孫も立派な事に成長していた。その子もスクスク育つだろうな」
は?養子?
この老人はダルディナの本当の親ではないのか。
じゃあ、周りにいるこの人達も血は繋がっていない。
この状況で考えると養子の人を自分の本当の親より先に見せるのは、本当の親が既に亡くなったのか、縁を切ったのか。
驚きだ。
どちらにせよ、養子であるダルディナにこの人達は本当の家族と認めていた。
すごい人達だ。
「……。レトは儂の後継者になる気はない、もし儂があと10年近く生きることができたら、その子を王位継承者にでもしようかと考えている」
こいつがラグナ国王!
全くわからなかった、元々リードが門兵と話している時、目的はラグナ国王だった。
目の前のこの人が…。
俺は絶句していた。
いや、この状況では絶句するしかないだろう。
「そうね。この子が継承を望むなら…」
「まぁ、じっくり考えてくれ。ふぉーれ、お爺ちゃんですよー」
国王はゆっくりしゃがんで、いないいないバァした。
いないないバァは共通なんだな。
「ほれ。レト。次はお前さんだ」
レトは考え事の様な顔から、少しビックリした顔に変わった。
その顔のまま彼は、椅子から立った。
「こんにちは。リード様。ダルディナの側で支えてくださり、誠にありがとうございます。これからも彼女を助けてやっていってください」
「お兄様、こう見えて私もちゃんとやっていっているんですよ」
「そうだな。その光景を見れないのは兄として惜しいことだよ」
レトは優しく俺を撫でて顔をじっとみ、ナセに次の番を譲った。
「お久しぶり。ダルディナ。貴方とこうして、顔を見合わせるのも7年…ぶりだったわね。貴方にしたい話もあるから、この後はゆっくりしてね」
「そして、リード様。ダルディナを頼みます」
「はい。勿論ですよ」
この人達はリードに合うのが初めてなのか。
この世界にお見合いという文化は無しなのかも。
「さっきはごめんね!ダルディナ!私やっぱり興奮していたのかも」
「大丈夫だわ。慣れてるもの」
なぜ、火に油を注いだダルディナ。
そして、してやったみたいな顔をしている。
「ムキィー。貴方、やっぱり変わってないわね。揶揄うのが好きなのも」
昔もやってるとは…。
前の二人が心配気味だったのは少しわかるな。
「こんにちは。リード様。ダルディナを立派な母親ですか?」
「うーん…少々お茶目で抜けているところがありますがリーディンの世話はしっかりみてくれています」
「それは…。成長ですね」
ウルと顔を見合わせて全員席に座り直した。
俺との顔合わせっていうより、ダルディナとの世間話みたいだ。
確か7年前って言っていたな、彼らが懐かしむのも無理はないだろう。
「すまないな。リード君。君とも話したいことがあったが私はそろそろ仕事の時間だ。また今度、お話ができたら良いと思う」
「とんでもないです。御父様。また会いましょう」
今考えるとリードの肝が座ってるな。
国王相手に澄まし顔で御父様は、俺だったら胃に穴が開く。
「私達もそろそろ帰ろう。長居したら相手に迷惑をかけてしまう」
「そうね…レト、ウル、ナセ、お父さん。今日は皆んなに会って話してとても楽しかったです。また会いましょう。お母さんの墓参りにはこれから参加するつもりです」
そう言って、二人はお辞儀をし、応接室を出た。
俺の家族構成は意外にもビッグだった。
ビッグオブベイビー。
今は夕暮れを越して夜になって来ている。
冬の終わりかけだがとても寒いし、暗い。
でも、この感覚結構好きだ。
前世ではこの時間帯でこの時期良く外を出歩いていた。
一回だけ親に心配で怒られてそれからは、外に行ってくるって先に言ってから出るようにしてたな。
懐かしい。
俺の葬式とかどうなってんのかな?
同級生とか出たのかな?
少し恋しい…。
「そこの夫婦ちょっといいかしら」
商店街の路地裏から、人が出て来た。
その人は茶色いフードを被って、フードにはそこらじゅうに傷と汚れが見れる。
その目は、疲れていて、とても嬉しいそうに見える。




