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人生譚  作者: 吉田 華逝
第1章 アポロン大陸編

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第1話 リーディン

なんとも清々しい朝なのだろう。

幸せすぎて涙が溢れそうだ。


今の季節は、秋。

枯れた葉っぱが少し見られ、涼しい気温。


そして今俺は、母親におんぶされながら、森を移動している。

すぐ側には流れが緩やかで、透き通る水が流れている。時々、小さく可愛い魔物がコンニチハと顔を出す。

そいつらは顔を出す度に母がニコニコしている。

俺もそんな母を見ていて機嫌が良くなる……事はなかった。

こいつらは、顔を出す度に声を発する。

その声がキウィンキウィンと耳に響くのだ。

俺はコイツをクソミミナリと呼ぶことにした。


俺は今生後2ヶ月。

前世の赤ちゃんが大抵生後4ヶ月ぐらいで首すわりし、おんぶするので、やはりこれが異世界と前世の肉体の違いだろう。


ともあれ俺はまだ、この世界の言語の習得に苦戦している。

元々、勉強をあまりしていなかったのか、覚えるのに手間取っている。

思うと何の知識もなしに、相手の表情でどんどん言語を理解出来ていく赤ちゃんは凄いね。


突然、俺をおぶっていた母は振り返りクスクスと笑いながらナニカを喋る。


「&/(€+[=$」


うっ…。

俺は頭を悩ませる。

どうすれば、すぐに言語を理解できるだろう。

親の言葉をどんどん理解していく方式だったら、後半年はかかりそうだ。

それは避けたい。

そして、なるべく早く言語を習得したい。

そこで前世を思い返す。


「ハッ」


そうだ…そうだったな。

俺はすぐに思い出した。


そうだ、この世界にも学問ぐらいはあるはずだ。

なら、言語の教科書もある。

それが家にあるか分からないがそれさえ見つければ、言語の習得は容易だ。

よし!

今の目標は言語習得の元、教科書探しだ!

そして、あのクソミミナリをどうにかしたいな、ここ最近毎日通ってるんだよ…。




家に帰るとまず風呂に入る。

風呂はガスで沸かす現代のものとは違い、火で暖める。

異世界だねぇ。

俺は口角を上げる。

そう。

その火を出すのは魔力、つまりは魔術だ。


よっしゃ!キタコレ!異世界キタコレ!

道中何回も魔物を見てきたがやはり、魔術で何かをしているのが異世界って感覚を俺に与えてくれる。

言語を習得したら、次は魔術に決まりだな。


風呂で俺の体を洗うのは、父親だ。

といっても、いつも洗っているのは父親ではない。

たまに、母親が俺の体を洗うこともある。


最初は、頭からシャープーの様な液体を頭に塗り、優しく擦ってくる。

次は、ボディーソープ。

匂いは、石鹸ではなく花の香りってのに近い。

原材料は花かな?

いい匂いと心地良い洗いで眠くなる。

この世界の風呂は前世よりもゆっくりできる。

よし!


「うーーーおーーーあー」


親父、今の言葉は俺なりの感謝ですぜ。


「&-(:&\%]*€」


お…おう。

父親は屈託の無い笑顔を浮かべ、興奮した様子で喋った。

まぁ、自分の子供が可愛く挨拶したんだもんな、そりゃそうなる。




家の構造は、一階にリビング、広間、倉庫、食糧庫、風呂場。

リビングにはキッチンがあり、まるで中世ヨーロッパだ。

流石にTVは無く、レンジ、オーブンの電子機器も見当たらない。

テーブルは、木材で森で見た木の素材を使っているようだ。

至ってシンプルだが清潔さを感じさせる。


2階は、6つの部屋があり、3つは母と父と俺。

俺の分まで用意しているのは、感心した。

前世は一人っ子で俺の部屋なんてなかった。

ほとんどリビングでニート生活だ。

残りの3つの内、1つだけ物置き部屋になっている。

残りは空き部屋。

多分この後、俺の兄弟が爆誕することだろう。


ではいざ!教科書探しに出発!


最初に行くのは一階の倉庫。

要らないものや後から使うものは倉庫に放って置いているものだからだ。


テクテクと音を立てながら、四つん這いになって、移動する。

倉庫へと向かう廊下は、T字になっていて、手前に食糧庫のドアがあり、奥に進んで右に風呂場がある。

左は倉庫だ。


だいたい2分ヨチヨチした所で倉庫に来た。

中はある程度綺麗に整頓されているが、端っこの方は、蜘蛛の魔物の巣がある。

掃除はしてないようだ。


倉庫のドアから手前に魔剣が置いてある。

その次に杖、魔道具、鎧と順番に並べてある。

おっかしいなぁ。

ここに無さそうだし、あるとしたら二階しか無い。

二階に登ることは可能だが、凄く集中して登らないといけない。

しかも、登るのに時間がかかるし。


あれ?

倉庫に敷いてあった絨毯に違和感を感じる。

奥の絨毯の左端、そこだけ何故か盛り上がっている。

せっかく来たんだし、見てみるか。


絨毯の上をヨチヨチすると、埃が舞う。

両親はこの中にあまり入らないようだ。

違和感を感じた場所に到着して、絨毯を力一杯めくる。

すると、盛り上がっていた部分は床では無く、木製のハッチだった。


ハッチを開け中身を確認する。

すると、本があった。


心の中でガッツポーズをとりつつ、まだ油断できないと

本を取り出して中身を確認する。

文字は読めないが書いてある内容を見れば、それがどんな本かは大抵理解できる。


しかし、分厚いな。

一冊でも取り出すのがやっとだ。

本を適当に開き、ペラペラとめくる。


最初にとった本は、どうやらこの世界の歴史によるものだ。

人物の顔は書かれていないものの、その人の人生みたいな事が書かれてあった。

これじゃないんだよなー。


そう思いつつ次の本に差し掛かった。

ちなみに本は全部で7冊ある。

しかも全部が幅20センチぐらいで分厚い…なんか凄いな。

両親はよっぽどの本好きだろう。


二冊目の内容は、世界に関する事だ。

言語と同じぐらい、知りたかった事。

序盤は世界地図、つまり大陸と王国。

中盤は世界の気候と国ごとの魔物、地形。

終盤は特産物と言語、文化。


……。ゲゲ言語?!


「ウナァ」


俺はビックリして、声をあげてしまった。

両親が来たら確実に自室に行かされる。

俺は1分間、まるで殺人鬼が近くにいるかのように息を殺した。

結局、両親は来なかった。

ふぅー、助かったぜ。

しかし、早くも正解を引いた。


だが他の本の種類を見てから読もうと思う。


三冊目は魔術。

ほうほう、これもあるのか。

倉庫に魔道具やら杖が置いてあるから、親は冒険者関係なのか?

もしくは、商売か。


四冊目はう…うーむ、よく分からなかった。


五冊目は魔術。

内容は違い、こちらは応用系のようだ。

三冊目より文字が多くて手順がある。

てことは、二冊目は基礎か。


六冊目はまさかの言語。

さっきのと一緒に調べていると、どうやら大陸ごとで言語が違うらしい。

二冊目の言語は全大陸の言語が載っているが勉強用にはそこまで向いているわけでは無く、あくまでもこの大陸にはこんな言語を使っていますという事だ。

学ぶより一知識としてだそうだ。


そして、この六冊目の言語は、俺がいる大陸の言語だ。

つまり俺は、これを毎日学んでいけばいい。

全部読み切るのには、多少の時間は掛かるかもしれないが、やらないと何も進捗がない。

頑張るぞい!


最後に七冊目、これは?魔法陣か?

よく分からんが、召喚系魔術のようだ。

何が召喚できるだろう。

この世界に来て、魔物は見たが弱そうなやつばっかりだった。

森の中で襲ってくるやつなんていないし。

もしかして、ここの大陸は安全な大陸で他のところに行くとドラゴンやら魔神とかいるのだろうか。

ドラゴンは見たいが両方会いたくはない。

多分、死ぬ。

戯言を考えつつも、俺はこの大陸の言語を学べる本を手に取って、調べた。





あれから二週間経過した。

毎日の自由に言語を読んでいたおかげで大体の文字は読める。

いや、ここは自信をもって言おう。

全て分かるようになった。

まだ、発音は得意ではないがね。


言語を習得したおかげで、色々なものが一気に知れた。


まず、俺だ。

俺の名前は、リーディン。

リーディン・ライゾニル


父の名前はリード・ライゾニル


母はダイナマイト・ライゾニルだ。

すまん、嘘を言った。

ダルディナ・ライゾニル


俺の本名はリーディンだが、愛称はリーン。

うん…俺は男の子なんだけどな。

この世界に男女差別があるかは知らないがリーンは、女の子に似合う名前だ。

少し恥ずかしい。

まぁ、悪いものではないんだが。


そして、家族は父、母、俺。

3人世帯だ。

あ…違うじゃないかリーディン。

そうそう、後から兄弟が生まれるんだったな。

それも二人。

5人世帯だ。


次にこの世界のことだが、大陸は全てで六ある。


中央に位置する丸型の大陸は人魔大陸。

人魔大陸の左にある下向きバナナ型の大陸はテルミナス大陸。

人魔大陸の右にあるハイヒール型の大陸はカイアガロ大陸。

人魔大陸とテルミナス大陸で挟まれている大陸はアポロン大陸。

人魔大陸とカイアガロ大陸に挟まれており、アポロン大陸の右にある大陸はサキュタナ大陸。

テルミナス大陸の左下に位置する小さい大陸が海端大陸。


俺はアポロン大陸の右下にあるミュハルス王国に住んでいる。

そん中でも、田舎の方だが。

ミュハルスは魔物が少なく、貿易に特化している国だ。

決して広い土地を有している国ではないが外交力が高く、他国との信頼において頭一つ抜けている。

主な貿易相手は隣国のシュラマー王国である。

ミュハルスの特産物は魚と鉱石かな。

魚の輸出はそこまでしてないため、貿易品のほとんどは鉱石である。

対する、シュラマー王国は工業が盛んで服に強い。

貿易品は服や綿が多い。


一通り、この世界において学んだ所で、魔術の訓練に励みたいと思う。

異世界といったら、魔力つまり、魔術だからね。

剣術とかはもうちょっと成長してからで…。



次の日からは魔術の特訓をするようになった。

場所は倉庫で。

俺は絨毯の上に男座りし、本を睨んでいた。


見ているのは、氷魔法。

初級の氷《アイス》だ。

魔力を体中から手に集中し、創造するイメージを持つ。

それから詠唱!


「はてつくほおりのせいへい」


あ…そうだった。発音は、まだだったんだ。


なら無詠唱でだ!


心の中で詠唱も!

果てつく氷の精霊。我に冷たき雫を提示せよ。

氷《アイス》


静寂な部屋には何の音もしなかった。

そう、氷は出なかった。

詠唱は心の中ではダメか、魔力が足りないのだろう。

まだ生後3ヶ月近く。

このぐらいの歳で魔術が使えるなら天才だな。


なら次は何をしよう?

魔術はダメ、剣術は無理。

うーん。

悩んでもしょうがない。

父と母のところに行こう。


俺は四つん這いになって廊下をヨチヨチする。

ヨチヨチしていると、聞き覚えのない声がしたので顔を上げる。


うごっ、なんだコイツ、デッカ!

目線の先に居たのは、体型がガッツリしている中年だった。

髪は白く肌も白い、服は黒いマントと爪の形のボタンがついていた。

あ…これ世界地図で見たことある特徴だ。

カイアガロ大陸の北部に生息していると言われている、ヌムナハト族…魔族だ!


は…初めて見た。

目元はくっきりとして、なんだか威厳が感じられる。


「この子は?」


ウヒョー、喋った!喋った!


「ん?あぁ…私とー、リードの子よ」


ダルディナは手を顔に当てつつ、嬉しそうに腰を左右に振った。


ヌムナハト族の男は呆れた顔でそうかって顔をした。

なかなかに冷たいな。


「名前は?」


「リーディン」


母が俺の名を口にした瞬間、ヌムナハト族は俺を睨んできた。

リーディンって名前に恨みがあるのかもな。


「リーンちゃーん、こっちおいでー」


俺は男だ、ちゃん付けは恥ずかしいからやめてくれマミー。

ダルディナは俺に近づきだっこする。


「また随分な親バカだな…」


彼の言葉と同時にドアの向かう側から、足音がした。


「あれ?カタハではないですか」


リードだ。

リードは花を沢山背負っている。

石鹸の材料取りに行っていたのだろう。

親父参戦だ。


「久しいな。実は、リード…。お前に用があってきた」


「私に?はるばるテルミナス大陸から?」


リードが困惑している。

同時にダルディナはリードの方を見て、不安がっている。

おいおい、カタハさん…感動の再会からお通夜の雰囲気だよ。

なんか、やばい話をしそうだな。


「キュラヌス王国が領土拡大をしていたのだがな。広げた土地の近くに迷宮があって、その影響で、大蛇が住み着いていたんだ。大蛇が住み着いている限り、村とか置けないから迷宮を攻略して、大蛇も討伐するって話になったんだ。だから、お前の力を借りに来た」


キュラヌス王国は確か、テルミナス大陸の右側にある王国だ。

この人、そこから来たのか?ご苦労なこった。


「う…うーん。そうですねぇ…」


リードは少し顔をしかめた後、すぐにカタハに向き直る。

なんかあれだな…殺し屋映画とかにある引退した殺し屋が復活する流れだ。


「お断りさせていただきます」


ほら!見てみろ。

今から俺も殺し屋一家として訓練させられるんだろうか…人は殺めたことがないから、やっていけるかな?

え?お断り?


「あぁ…。だとは思った。しかしながら、お前もこれを聞いたら直ちに行かないとって思うだろう」


カタハは腕を組む。

空気が重くなってきた。


「ハティラスがその討伐に参加すると表明した」


ハティラスは誰かな?父に関係する人ではあるんだろうけど。

どんな、関係かは見当もつかない。

てかこいつら、まだ小さな子供の前で重い話してんじゃぁねぇ!

リードは天井を見上げて考える仕草をした。


「普通の大蛇の強さはそこまでではありません。しかし、テルミナス大陸は全大陸の中で魔力が最も濃く、魔物も活発。そこらの大蛇と比べ物にもならない。彼女もそれは知っているはずです」


「それでもなお、彼女は討伐すると決めている」


「目的は?」


「出世だろう」


なるほど出世ね。

出世は大事なのは知っている。

前世の父だって、一般社員から部長まで出世してくれたおかげで手術する時、お金がどうこうの話がなかった。

この世界での出世は知らないが野望がある事は凄く良い事だ。


「確かにそれを聞いてしまっては動かないっていう選択肢はありませんね。私も参戦しに行きましょう」


「助かる」


話が淡々としすぎな気がするがまぁいいや。

この人らの口調から二人は旧友みたいなものだろう。

信頼があるのだ。


「出発は?」


「今日にでもします」


話が終わり、カタハは外で待つと言って家を出ていった。

リードはというと、すぐさまに倉庫に行き、杖と魔法陣を描いた紙を回収した。

本格的な戦いの準備みたいでかっこいいな。

顔がガッツリイケメンじゃなくて、爽やかイケメンだからこそ、歴戦の猛者感は出ないが。

本人にとってそんなものどうでも良いだろう。


二時間で準備が終わったらしく、着替えと武器、食料を詰めたケースを持って、俺に行ってきますのチューをした。

無論、デコだぞ。

ダルディナは唇だ。


「行ってきます」


「いってらっしゃい。あなた…」


ダルディナは名残おしそうだ。

そうだろうな、二人のピチピチ具合からして新婚だ。

彼女は心の中で、私たちの愛の巣をぶち壊しやがってとか思っているに違いないな。




さてさてさて、俺はというと魔術が捗らないため、魔術研究だ。

活動場所は倉庫から、二階の俺の部屋に移してやる。

研究内容はオリジナル魔術についてだ。

どうやって最初から自分で作るの?って思うかもしれないが、この世界に来たばかりの俺が魔術も使えないで新しいものを生み出せるはずがない。

つまりというと…合体させる。


例えば水と氷。

まず水魔術で雨を降らせる、その次に雨を凍らせる。

これをすれば小さな水滴が小さな槍に豹変する。

これを合体魔術。


次に混合魔術。

混合魔術は同時に混ぜる。

これも例えれば、火と水を同時にぶつけて、熱い水蒸気を作る、これを風魔術で相手に打てば熱風になる。

我ながらに天才な発明だ。

まだ実験などした事ないが…。


こんなふうに、魔術が使えない間は新しい発見とアイデアを生み出していくことにした。


ついでに魔術教本を読んで確立していこう!




あれから四ヶ月が経過した。

おらも半年以上生きた。

現状の報告をすると、リードはまだ帰ってきてはいない。

通信というものが無いので彼が今何をして、どこにいるのか全くわからない。


まぁそこら辺はいいだろう。

あ…いや…別に父親に関心がないとかそう言ったことではないんだぞ。

何をしているか知ったとしても、俺には何もできない。


コホン…本題だ。

俺は喋れるようになったため、詠唱を行うことにした。

魔力を全身から手に移動、イメージは血液を手に集めるって感じかな。

そして、氷《アイス》を出すことに成功する。

人生初めての魔術は、面白い感覚で最高だったなぁ。


あの時の問題は魔力が無いとかでなく、詠唱だったのだ。


他にもいろんな魔術を試した。

火《ファイヤー》、風《ウィンドウ》、水《ウォーター》、皆んな威力は小さかった。

まぁ、当然だろうな…初級魔術なんだから。



そして、今日は合体魔術をしてみる。

使うのは、火と風。


「終わりの精霊よ。我に命の灯火を享受せよ。火《ファイヤー》!」


「旅の精霊よ。我に見上げる空を与えよ。風《ウィンドウ》!」


火《ファイヤー》を生み出し、そこに火《ファイヤー》よりも小さい風《ウィンドウ》を送り込む、火《ファイヤー》は消さないように集中して、風による巨大な火《ファイヤー》を作る!

できた!初級魔術でも中級ぐらいの魔術を扱えるようになった。

合体魔術…火風(ファイヤーウィンドウ)の完成だ。


だが、巨大な火を操れる事はできるが二つの詠唱をしないといけないのは、面倒臭いな。

中級魔術である炎《フレイム》を詠唱した方が速いし。


どうやっても、無詠唱はできないのかな?


「火柱《レッドピラー》でも作るか」


別の合体魔術を作るためのついでに、もう一回無詠唱だ、やってみよう。

火《ファイヤー》よ!出てこい。


「ボウッ」


一瞬…一瞬だった。

まるで壊れたテレビを諦めて放置していたら、しばらくの間に直っていた感覚。


もしかしたらの糸筋の希望から願いが叶い、自分が信じられない。

それが衝動的に襲う。

心臓がバクバクしている、驚いているのもあるのだろう。

それでも、目の前の今までより小さな火《ファイヤー》を消そうと手を動かす事はなかった。


無詠唱が成功した…。


分からない…この世界にも当然な規則性はある。

そもそもの最初の問題は無詠唱でなく、魔力の量にあったのか?

成長と共に魔力量も増加する事は本で知っている。


ではなぜ、魔術を出せた時は、無詠唱が使えなかったのだ。


最初に詠唱で魔術ができたのは1月半前、その日に無詠唱も試してみた。

心の中でしっかりと。

でも、できなかった…魔力の通りだけが感じた。

魔術から氷《アイス》に変化する感覚が無かった。


い…いや?感覚がこなかったのは、イメージしなかったんじゃ無いだろうか。

無詠唱が成功した例を考えると心の中での詠唱を全くしなかった。

詠唱で放った魔術を思い返していただけ。

なら、無詠唱に必要なのは再現性のイメージを頭の中ですること…心の中の詠唱は必要な無し。

なんかこれな気がする。


1月半前は魔術を出して、火《ファイヤー》だ!という魔力から構成するイメージを持たなかったから、無詠唱が無理だった。

つまり、詠唱とはイメージの代わりとして用いられるものなのだ。


仮説を立てていくにつれ、頭が全て納得している。


なら、まだやったことのない魔術で無詠唱をやってみる。

これでできなかったら、必要なのは魔力から構成するイメージだ。


「中級魔術 炎《フレイム》にしよう。あ…それは家が燃えるな。そーだなぁ、家に被害がない魔術は。中級魔術 範電《エレクトレンジ》」


今の俺なら中級魔術一回で魔力切れを起こすから、チャンスは一度か。

俺は深く呼吸を吸い、吐く。

手にありったけの魔力を込めて、適当なイメージをし、


「範電《エレクトレンジ》!」


バチバチと俺の周りから光は走らず、半年の赤ん坊とは思えない流暢なアポロン語が聞こえただけだった。


範電《エレクトレンジ》が流れない、つまり、仮説は正しかったのだ。

無詠唱の絶対条件は、必ずその魔術を過去に詠唱で発動していること、追加で、それによる再現可能なイメージを持っていること。


確定だ!

なんだか、一週間グラグラしていた乳歯が取れたみたいな感覚だ。

いや、例えが下手すぎるな。

まぁ、そんなもんだ。

疑問は解消したし、最高だ。

これからもいろいろ知って、魔術を上達させていこう。


「リーン?どこにいるのー?ご飯よー」


下の階からダルディナの声が聞こえる。

今行くよ、マイハニー。


「今日はお父さんが帰ってくるから、早く夕食の準備をしないといけないのに」


ま…まじですかぁぁぁぁ!!!

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