第30話 牙化
森本悠真は東へ向かっていた。
足音は消している。
幹から幹へ移る。
暗い。
前に煙がある。
足が止まる。
幹に寄る。
木の間を見る。
低い煙。
流れていない。
一つではない。
灯りがある。
小さい。
揺れない。
人影。
間隔が揃っている。
木の間ごとに立っている。
線だ。
左を切る。
開く。
見つかる。
右を切る。
浅い。
隠れ場所が減る。
正面。
通らない。
東を捨てる。
体を返す。
森の暗さが戻る。
この中にはあいつがいる。
尾根に戻る。
見える。
他よりましだ。
登り返す。
脚が重い。
肺が熱い。
坂は長い。
途中で止まる。
木に手をつく。
すぐ離す。
上に気配がある。
二つ。
尾根に出る。
制服を着た女が二人いた。
水野凛。
川島つぐみ。
川島が眉を上げる。
「あれ。戻ってきた?」
水野は唇を尖らす。
「私来た意味ないじゃん」
森本はそのまま近づく。
前で止まる。
「安藤は見たか」
川島がうなずく。
「ちゃんとは見てないけど。うん」
「東に――」
水野が切る。
「結に聞いたから。大体わかってる」
水野がエコバッグを差し出す。
「はい」
森本は受け取る。
重い。
「電池あるだけ集めてきたよ。使えるでしょ」
少し置く。
「他のは高階が使えるかもって」
森本は袋の中を見る。
電池。
見慣れた形だった。
硬貨。
束ねてある。
三、四種類。
形が違う。
水筒が二本。
金属の光が沈んでいる。
森本は動かない。
視線が中を移る。
電池。
硬貨。
水筒。
距離が立つ。
角度が立つ。
列が立つ。
線が通る。
穴が開く。
崩せる。
使える。
それ以上だ。
喉が一度鳴る。
袋の底で視線が泳ぐ。
呼吸が浅くなる。
息を吸う。
止まる。
奥歯を噛み締める。
森本は顔を上げた。
視線はもう揺れない。
※活動報告に『登場人物イラスト③ 西園寺ルカ』を掲載しました。




