第29話 迷入
火がいくつも焚かれている。
明るい場所と暗い場所が分かれていた。
布の影。
鉄の匂い。
鍋の湯気。
兵士の声。
山本朱莉はその間を歩いていた。
【ギフト:万華鏡】
姿と声を変える。
兵士が多い。
荷も多い。
動いている者と、座っている者がいる。
その中にいる。
見られる事はある。
声はかからない。
歩けていた。
山本は周囲を見た。
分かることは少ない。
誰が偉いのか。
どこが中心か。
目的すらわからない。
見るしかなかった。
焚火の横を通る。
鍋をかき回している兵士がいる。
その横で革を外している兵士がいる。
遠くで馬が鳴く。
視線だけを動かす。
「寒いな」
振り向いた。
兵士が二人いた。
どちらも年嵩だった。
片方が笑う。
「お前んとこ、もう飯食った?」
山本は一拍置いて、首を振った。
「まだです」
「だよな。遅いもんな、この辺」
もう片方が肩を回す。
「東に入ったやつら、まだ戻ってねえらしいぞ」
「外れ引いたな」
「今日はみんな外れだろ」
二人は勝手に笑った。
山本は合わせて少しだけ口元を動かした。
兵士の一人が山本の胸元に目を落とす。
一瞬だった。
すぐに顔へ戻る。
「声、小さいな」
「すみません」
「謝ることでもないだろ」
また笑う。
会話はそこまでだった。
どうでもいい話だった。
兵士の一人が山本の肩を軽く叩く。
「飯、まだなんだろ」
山本は少しだけ黙った。
腹が減っていることを、その時に思い出した。
鍋の匂いが近い。
「俺ら今からなんだが、一緒に行こうぜ」
断る理由はなかった。
ついて行く方が自然だった。
「……はい」
「よし」
兵士は先に歩く。
山本はその後ろについた。
焚火の間を抜ける。
布の影を過ぎる。
兵士たちは他愛のない話を続けていた。
塩が足りないとか、
鍋番が雑だとか、
夜番の交代が遅いとか。
山本はその後ろを歩いた。
誰も振り向かない。
ただ前を歩いている。
山本は自分の足元を見た。
土は踏み固められていた。
別の焚火の明かりが見えた。
兵士たちはまだ話している。
鍋の具が少ないとか、
そんなことばかりだった。
火が近づく。
焚火の明かりが、兵士たちの横顔を赤くした。
⸻
方位:84°
距離:23254m
時刻:21:22
バレてない
やりすごせそう
更新。
山本の列が消えた。




