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猟犬と転移者  作者: タンナファクルー
第三章 指揮者は命を動かす
33/42

第29話 迷入

火がいくつも焚かれている。


明るい場所と暗い場所が分かれていた。


布の影。

鉄の匂い。

鍋の湯気。

兵士の声。


山本朱莉はその間を歩いていた。


【ギフト:万華鏡】

姿と声を変える。


兵士が多い。

荷も多い。

動いている者と、座っている者がいる。


その中にいる。

見られる事はある。

声はかからない。


歩けていた。


山本は周囲を見た。

分かることは少ない。


誰が偉いのか。

どこが中心か。

目的すらわからない。


見るしかなかった。


焚火の横を通る。


鍋をかき回している兵士がいる。

その横で革を外している兵士がいる。

遠くで馬が鳴く。


視線だけを動かす。


「寒いな」


振り向いた。


兵士が二人いた。


どちらも年嵩だった。

片方が笑う。


「お前んとこ、もう飯食った?」


山本は一拍置いて、首を振った。


「まだです」


「だよな。遅いもんな、この辺」


もう片方が肩を回す。


「東に入ったやつら、まだ戻ってねえらしいぞ」


「外れ引いたな」


「今日はみんな外れだろ」


二人は勝手に笑った。


山本は合わせて少しだけ口元を動かした。


兵士の一人が山本の胸元に目を落とす。


一瞬だった。


すぐに顔へ戻る。


「声、小さいな」


「すみません」


「謝ることでもないだろ」


また笑う。


会話はそこまでだった。


どうでもいい話だった。


兵士の一人が山本の肩を軽く叩く。


「飯、まだなんだろ」


山本は少しだけ黙った。


腹が減っていることを、その時に思い出した。


鍋の匂いが近い。


「俺ら今からなんだが、一緒に行こうぜ」


断る理由はなかった。


ついて行く方が自然だった。


「……はい」


「よし」


兵士は先に歩く。


山本はその後ろについた。


焚火の間を抜ける。


布の影を過ぎる。


兵士たちは他愛のない話を続けていた。


塩が足りないとか、

鍋番が雑だとか、

夜番の交代が遅いとか。


山本はその後ろを歩いた。


誰も振り向かない。


ただ前を歩いている。


山本は自分の足元を見た。

土は踏み固められていた。


別の焚火の明かりが見えた。


兵士たちはまだ話している。


鍋の具が少ないとか、

そんなことばかりだった。


火が近づく。


焚火の明かりが、兵士たちの横顔を赤くした。



方位:84°

距離:23254m

時刻:21:22


バレてない

やりすごせそう


更新。


山本の列が消えた。


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