第28話 先導
中村遥香は木に手を向けた。
視界の端に文字がある。
【ギフト:爆裂】
木が爆ぜた。
遅れて音が来る。
幹が抉れる。
破片が飛ぶ。
衝撃が胸を叩く。
体が後ろに弾かれた。
肩から落ちる。
肘を打つ。
息が詰まる。
耳が鳴った。
すぐには起き上がれなかった。
胸が苦しい。
息を吸うたび、遅れる。
少しして、手の甲が熱くなる。
血が細く流れていた。
木の皮の破片が制服に引っかかっている。
中村は木を見た。
深い。
「……何この威力」
手の甲を見る。
血が滲んでいる。
制服の袖で拭う。
うまく拭えない。
膝を立てる。
そのまましばらく動けなかった。
⸻
足音がした。
中村は振り向く。
同じ制服が、木々の間から出てきた。
相澤結だった。
少し息が上がっている。
相澤は木を見る。
破片を見る。
中村の手を見る。
「……これ、中村さんがやったの?」
「うん」
相澤が木に近づく。
抉れ方を見る。
「やばくない?」
中村は小さく頷いた。
相澤は木を見たまま言う。
「……思ったより全然強い」
相澤は中村の手を見る。
「切れてる」
「平気」
相澤はポケットを探った。
絆創膏を一枚出す。
「使う?」
中村は少しだけ黙った。
「……持ってるんだ」
「一枚だけ」
中村は受け取った。
「ありがと」
血を拭く。
貼る。
相澤はその間も森の奥を見ていた。
「どうしたの」
「私のギフト。知ってる人がいるのがわかるみたい」
中村の手が止まる。
「……クラスの?」
「うん」
「どこに」
「散らばってる」
相澤は木の間を見たまま続ける。
「ここがどこかは分かんない。でも、みんな来てる」
中村は少しだけ息を吐いた。
相澤は続ける。
「落ち着いて聞いてね」
「佐藤君と田中君は死んだ」
中村の顔が止まる。
「……え」
「何かに殺されてる」
中村は森を見る。
何も見えない。
音もない。
「なんで」
「それは分かんない」
少しだけ間。
「でも、そいつがどこにいるかは、だいたい分かる」
「分かるの?」
「うん。だから離れられる」
相澤はそこでやっと中村を見た。
「他の人とも合流したい」
「……私も行っていいの」
「え、いいに決まってるでしょ。そのつもりで来たし」
即答だった。
中村は小さく頷いた。
そこで、木がずれた。
中村は目を瞬いた。
枝が近い。
次の瞬間には遠い。
幹が曲がる。
地面がわずかに波打つ。
木の間の距離が伸びる。
「え」
中村は立ち止まった。
さっき爆ぜた木の位置まで違って見える。
足元が遠い。
「何これ」
相澤が振り向く。
「鈴木さん」
「え?」
「たぶん鈴木さんのギフト」
中村は森を見る。
木が動いたように見える。
でも動いていない。
「これが?」
「たぶん」
「大丈夫なの」
「分かんない」
相澤は短く息を吐いた。
「でも今動くのはやめた方がいい」
木の根が浮いたように見えて、中村は一歩下がる。
肩に何かが触れた気がした。
振り向く。
何もいない。
呼吸が浅くなる。
「これ無理」
「うん」
相澤も森を見たまま言った。
「私も普通に嫌」
森がまたずれる。
中村は立ったまま動けなかった。
相澤も動かなかった。
⸻
やがて、歪みが止まった。
中村は長く息を吐いた。
膝が少し抜ける。
「……終わった」
「うん」
相澤は視線を動かさない。
「鈴木さん、殺された」
中村は顔を上げる。
「え」
「殺された」
少しだけ間が空く。
「剣持った男」
背中が冷える。
「たぶん、田中君と佐藤君やったのもそいつ」
中村は森の奥を見た。
もう何も動いていない。
でも、どこかにいる。
「もう行こう」
「次、誰」
相澤が前を向く。
「高階君」
「少し先」
相澤が歩き出す。
中村もついていく。
少しだけ近くを歩いた。




