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猟犬と転移者  作者: タンナファクルー
第一章 捕食者は手順を示す
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第3話 執追

木の根元に残った踏み跡は軽い。


細い。

歩幅は揃っていない。


若い女だ。


男は足音を消し、奥へ入る。



鈴木紗季は振り向いた。


視線と同時に男は間合いへ入る。


感情のない目。


刺突。


胸を貫いた。


鈴木の身体が崩れる。

血が落ちる。


男は背を向ける。



数歩。


足が止まる。


血の匂いが足りない。


心臓を穿った量ではない。


振り返る。


血はある。

身体がない。


違和感が輪郭を持つ。



鈴木は走っていた。


腕から血が流れている。


胸を刺されたはずだった。

だが裂けているのは腕。


【ギフト:認識改変】


恐怖が跳ね上がった瞬間、

“そこにいる”と捉えられていた位置が滑った。


死にたくない。


走る。


遅い。

足が絡む。

枝を踏み、幹にぶつかる。


血が落ちる。


恐怖が、さらに押し上げる。


足跡が別方向に現れる。

血の位置がずれる。

枝の折れ方が変わる。


やがて、森そのものが歪み始める。


木立が曲がる。

目印の岩が動く。

距離が伸び、縮み、ねじれる。


視界が崩れる。

位置関係が成立しない。

男にとっての庭が、迷宮に変わる。



男は止まらない。


地形。

移動速度。

消耗。焦燥。恐怖。

逃走の傾向。


広い方へ、明るい方へ、開けた方へ進む。


分岐。歪みが濃い。


左だ。


揺らぎの中心。


そこへ踏み込む。


速度を上げる。



距離が消える。


鈴木が振り向き、


再び目が合う。



斬撃。


ずれる。


浅い。


裂ける。


悲鳴。


這う。


再び斬る。


位置が揺らぐ。

木々が重なる。

距離が狂う。


それでも血は増える。


刃が走る。


抉る。

裂く。

断つ。


恐怖と激痛が世界を流動させる。

森が壊れていく。


男は詰める。


面で薙ぐ。


肉が裂ける。

悲鳴が濁る。


何度も。


何度も。


やがて。


悲鳴が止み、森は元の姿に戻った。

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