第19話 圏界
第二章 観測者は盤面を読む
第19話 圏界
何度か転移を挟む間に、佐伯真帆は必要なことだけを話した。
ここは別の世界らしい。
転移してきた者は、何かしらのギフトを得る。
あの男は、最初は保護する側の人間のように近づいてきた。
名乗った所属が正しいかは分からない。
だが、この国に属していること自体は、おそらく本当。
藤堂優斗。
久我亮。
西園寺ルカ。
鬼塚美鈴。
四人は殺された。
東の森出口には、軍が増えている。
装備と物資の動きから見て、助けに来たとは考えない方がいい。
佐伯は、そう言った。
宇野啓介にはまだ、納得できるだけの説明ではなかった。
それでも、何も知らない状態ではなくなっていた。
⸻
尾根は風が抜ける。
木が疎らだった。
下の森よりも空が広い。
宇野は息を整える。
首元に布を押さえていた。
血は止まりかけている。
だが、皮膚の浅い熱は残っていた。
佐伯は宇野を見ずに言った。
「もうちょっと進もう」
宇野は頷く。
頷くしかなかった。
⸻
太陽はまだ高い。
それでも、森の底には濃い影が増えていた。
宇野は歩きながら口を開いた。
「他の奴らと合流できないのか」
佐伯は足を止めない。
「今二人でしょ」
少し肩をすくめる。
「三人で跳べる?」
宇野は答えられなかった。
触れていれば、一緒に跳べる。
だが、自分を含めて二人まで。
それはもう分かっている。
「……でも知らせないと」
佐伯は歩幅を変えない。
「じゃあ戻る?」
声は軽い。
「往復で、どれくらいかかると思う?」
宇野は黙る。
戻る。
探す。
見つける。
説明する。
佐伯を離す。
誰かを連れて跳ぶ。
また戻る。
その間に時間が過ぎる。
その間に、あの男が来るかもしれない。
佐伯は空を見上げる。
「日が落ちる前に、距離を取らないと」
少しだけ首を傾げる。
「何時間もしないうちに、森の中は見えづらくなるよ」
宇野は視線を逸らした。
分かっている。
見えなければ跳べない。
行き先を決められなければ、ギフトは使えない。
この森は、昼でも同じに見える。
日が落ちれば、見えなくなる。
佐伯は続ける。
「さっきより兵士が増えてる」
宇野が顔を上げる。
「増えてる?」
「うん」
佐伯は尾根の向こうを見る。
宇野には何も見えない。
木。
斜面。
その先の森。
佐伯だけが、別のものを見ている。
⸻
佐伯が振り返る。
「今は距離を取ろ」
一拍。
「とりあえず西」
宇野は一瞬だけ迷う。
東には兵士。
後ろには男。
暗くなれば跳びづらい。
他の誰かを探す時間もない。
納得はしていない。
それでも、今は選べる道が少なかった。
宇野は頷く。
佐伯の手が伸びる。
触れる。
転移。
景色がずれる。
足元が消える。
胃が浮く。
次の森は、少し影が濃かった。
⸻
_距離を取る。
_高低差を稼ぐ。
_東から離れる。
対象:軍
行動規則:単純
予測:可能
_追跡者を寄せる。
森本君の位置:良好
射線:確保可能
対象:グレッグ
接触予測:三十分




