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猟犬と転移者  作者: タンナファクルー
第一章 捕食者は手順を示す
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第2話 潰走

田中真央は膝をつき、荒く息を吐いた。


教室にいた。

黒板を見ていた。

それは確かだ。


だが、足元は土だ。

湿った落ち葉が靴に絡む。


理解が追いつかない。


【ギフト:適応】


視界の端に、文字が浮かんだ。


「……なんだよ」


掴めない現実が、指の間をすり抜ける。



歩き出す。


木々の間を抜けるたび、違和感が積み重なる。


静かすぎる。


風はある。

葉は揺れている。


それでも、生き物の気配が薄い。


やがて、鉄の匂いが鼻を刺した。


血だ。



倒れている人影を見つけるまで、少し距離があった。


根の張り出した斜面の下。


うつ伏せに転がる制服。


背中が裂けている。

血はもう色を変えつつあった。


声をかけようとして、喉が動かない。


【適応:危機察知】


ここに留まれば死ぬ。


理屈ではない。


背筋が冷える。



空気が裂ける。


反射的に前へ転がる。


剣が背中を掠めた。


熱が走る。


振り返る。


木々の間に、燻んだ革鎧。


顔ははっきり見えない。



【適応:反応速度上昇】


身体が勝手に動く。


幹を蹴り、斜面を滑る。

枝を避け、地面を蹴る。


剣が木を抉る音が続く。


距離が縮まる。



【適応:走力補正】


筋肉が噛み合う。

関節が軽くなる。

呼吸が整う。


無駄が削がれていく。


逃げるためだけに、体が整えられていく。


速い。


確かに速い。


だが、背後の気配は消えない。



斜面を駆け下りた瞬間、視界が揺れた。


剣先が脇腹を貫く。


空気が抜ける。


膝が折れる。


【適応:痛覚遮断】


痛みは消える。


だが、力も抜ける。


血が土を濡らす。


立てない。



男が近づく。


足音は静かだ。


剣を握る手に揺れはない。


田中は口を開く。


言葉にならない。


剣が振られる。


森が、元の静けさに戻る。


風が葉を揺らす。


血の匂いだけが、残った。

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