表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猟犬と転移者  作者: タンナファクルー
第二章 観測者は盤面を読む
16/42

第14話 密度

王国南部地方司令部。

転移民税関管理局。


その一室は薄暗かった。


壁は石造り。

窓は小さい。


昼でも光は弱い。


部屋の中央に机があり、その奥に検査官が座っていた。


椅子に深く身体を預けている。


目は閉じたまま。


右手だけが机の上に置かれていた。


隣では書記が紙を広げ、筆を走らせている。


部屋に響くのは、紙を擦る音と、検査官の声だけだった。



【ギフト:視覚共有】

最後に触れた対象の視界を共有できる。



検査官の意識に、現地の視界が流れ込む。


森。


湿った地面。


倒木。



土の湿った匂いが、鼻の奥に残る錯覚。


視界が揺れる。


歩いている。


これは現地担当職員の視界だった。


西の森担当の単独処理官。


視界が動く。


制服。


一人目。死亡。


さらに奥。


二人目。死亡。


三人目。死亡。


通常、この区域でここまで転移者が重なることは少ない。


視界はさらに森の奥へ進む。


五。


検査官の眉がわずかに動いた。


「転移者、計八確認。記録」


書記の筆が走る。


紙を擦る音だけが室内に残る。



時間が進む。


視界が揺れる。


呼吸は乱れていない。


だが、動きが重い。


検査官は無言のまま視界を追う。


処理官が負傷している。


それだけで異常だった。


視界の先。


倒れている少女。


制服。


血溜まり。


それでも。


皮膚が閉じ始めている。


肉が寄る。


血が止まる。


検査官の指が、机の上で止まった。


視界の中で、処理官が剣を押し込む。


胸。首。確認。処理。


無駄がない。


慎重すぎる。


そこまでしなければ終わらない相手だったということだ。


書記は何も見えていない。


ただ筆だけを動かしている。



視界の中で、処理官が紙を取り出す。


報告書。


血が付着している。


そこに書かれていた数字を見て、検査官は沈黙した。


――転移者二十以上。最大三十。


指先が止まる。


確認数は八。


それだけでも異常だった。


西の森は単独担当区域。


通常想定を超えている。


三十。


呼吸が一度、遅れる。


検査官はゆっくり口を開く。


「……広域事案」


書記の筆が止まった。


部屋の空気が変わる。


検査官は目を閉じたまま続ける。


「現地担当職員報告。転移者数、二十以上。最大三十」


一拍。


「暫定事実として扱う」


書記が書き取る。


検査官は続けた。


「担当職員は現在も追跡継続中」


短い沈黙。


「至急、上申」


再び筆が走り始める。


薄暗い部屋の中で、報告書の白が浮いて見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ