第14話 密度
王国南部地方司令部。
転移民税関管理局。
その一室は薄暗かった。
壁は石造り。
窓は小さい。
昼でも光は弱い。
部屋の中央に机があり、その奥に検査官が座っていた。
椅子に深く身体を預けている。
目は閉じたまま。
右手だけが机の上に置かれていた。
隣では書記が紙を広げ、筆を走らせている。
部屋に響くのは、紙を擦る音と、検査官の声だけだった。
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【ギフト:視覚共有】
最後に触れた対象の視界を共有できる。
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検査官の意識に、現地の視界が流れ込む。
森。
湿った地面。
倒木。
土の湿った匂いが、鼻の奥に残る錯覚。
視界が揺れる。
歩いている。
これは現地担当職員の視界だった。
西の森担当の単独処理官。
視界が動く。
制服。
一人目。死亡。
さらに奥。
二人目。死亡。
三人目。死亡。
通常、この区域でここまで転移者が重なることは少ない。
視界はさらに森の奥へ進む。
五。
検査官の眉がわずかに動いた。
「転移者、計八確認。記録」
書記の筆が走る。
紙を擦る音だけが室内に残る。
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時間が進む。
視界が揺れる。
呼吸は乱れていない。
だが、動きが重い。
検査官は無言のまま視界を追う。
処理官が負傷している。
それだけで異常だった。
視界の先。
倒れている少女。
制服。
血溜まり。
それでも。
皮膚が閉じ始めている。
肉が寄る。
血が止まる。
検査官の指が、机の上で止まった。
視界の中で、処理官が剣を押し込む。
胸。首。確認。処理。
無駄がない。
慎重すぎる。
そこまでしなければ終わらない相手だったということだ。
書記は何も見えていない。
ただ筆だけを動かしている。
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視界の中で、処理官が紙を取り出す。
報告書。
血が付着している。
そこに書かれていた数字を見て、検査官は沈黙した。
――転移者二十以上。最大三十。
指先が止まる。
確認数は八。
それだけでも異常だった。
西の森は単独担当区域。
通常想定を超えている。
三十。
呼吸が一度、遅れる。
検査官はゆっくり口を開く。
「……広域事案」
書記の筆が止まった。
部屋の空気が変わる。
検査官は目を閉じたまま続ける。
「現地担当職員報告。転移者数、二十以上。最大三十」
一拍。
「暫定事実として扱う」
書記が書き取る。
検査官は続けた。
「担当職員は現在も追跡継続中」
短い沈黙。
「至急、上申」
再び筆が走り始める。
薄暗い部屋の中で、報告書の白が浮いて見えた。




