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猟犬と転移者  作者: タンナファクルー
第二章 観測者は盤面を読む
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第13話 共棲

森はどこも同じに見える。


木。苔。湿った土。

倒れた幹の裏に、白い虫が群れている。


宇野啓介は振り返る。


さっき通った場所が分からない。


ずっと移動してきているのに同じ森が続いているように思える。


息を整える。


跳ぶ。


視界が切り替わる。


同じだ。

木。苔。そして湿った土。


倒木の向きが違う。

斜面の角度が少し違う。


それだけだった。


宇野は顔をしかめる。


「……ほんと何なんだよここ」


もう一度跳ぶ。


着地。


ぬかるみに足が沈む。


その先に、人影が見えた。


制服。


黒髪。


宇野は止まる。


「……佐伯?」


佐伯真帆は眉を上げた。


「おー。やっと会えた」


いつもの軽い調子だった。


宇野は周囲を見る。


「あのさ」


「ここどこかわかる?」


「何が起きてんだ?」


佐伯は首を傾げる。


「西の森って聞いた」


「別の世界らしいよ」


宇野は眉をひそめる。


「聞いた?誰に?」


「ていうか別の世界って何だよ?」


佐伯はその質問には答えず、肩をすくめた。


「私にもよくわかんない」


「でも、そう説明された」


宇野は言葉を探す。

佐伯の言う事は要領を得ない。

それ以上に何が起きているのか分からなかった。


佐伯は、妙に落ち着いている。


「……なんか知ってんの?」


佐伯は少しだけ笑う。


「後で話す」


「それよりさ」


一歩近づく。


「2人でも跳べる?」


宇野は反射的に佐伯を見る。


「さっき見たよ。瞬間移動できるんだよね、宇野くんのギフト」


宇野は少し考える。


能力を使った時の感覚を思い出す。


見た場所。

距離。

重さ。


「……たぶん」

「触れば、二人でもいけると思う」


佐伯は即答する。


「よし」

「やってみよ」


宇野はまだ納得していない。

だが佐伯の手首を掴む。


【ギフト:空間移動】

視界内への瞬間移動


跳ぶ。


景色が歪む。


着地。


佐伯が周囲を見て口角を上げる。


「ほんとにできるんだ」


宇野は息を吐く。


「佐伯は、なんでそんな普通なの?そもそもなんなんだよこの力?」


佐伯は目元を和らげる。


「世界から授けられるんだって。こっちに来た人はみんな」


「みんな……他にも誰か来てるのか?」


「いるよ」


佐伯は森を見る。


「たぶん全員」


宇野の表情が止まる。


「……は?」


「クラスの?」


佐伯はうなずく。


「まだ散らばってるけどね」


宇野は視線を落とす。


状況が飲み込めない。


意味が分からない。


森。

知らない場所。

能力。

全員転移。

なのに佐伯はあまりにも普通だった。


「……知ってる事あるなら説明してくれよ」


佐伯は答えない。


少しだけ森を見る。


「そろそろ来るんだ。挨拶しないとね」


宇野は眉を寄せる。


「挨拶?誰に?」


「後で説明する」


「合図したら跳んで」


「跳ぶってどこに?」


佐伯は少しだけ笑う。


「いつも通りでいいよ」


宇野は固まる。


この能力を使えるようになったのは今日だ。


いつも通りなんてない。


会話が噛み合っていない。


佐伯だけ、前提を知っているみたいだった。


そういえば。


宇野はまだ、佐伯のギフトを聞いていない。


こいつは何を得たんだ。


その時。


長い影が木々の間から伸びる。


佐伯は振り向いた。


「時間通りだね、グレッグさん」

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