悪徳商人、ダンジョンに散る
国との契約が成立して数日。
村は少しずつ豊かになり、薬草畑も順調に広がりつつあった。
そんなある朝だった。
―――
「おい貴様ラァァァ!! 薬草の出所を言えぇぇえ!!」
口に金歯をギラつかせた男が、数人の手下を連れて村へ乗り込んできた。
村人たちはぎょっとして後ずさる。
「み、見たことない商人だ……」
「絶対ろくでもない……」
私が前に出る前に、悪徳商人が村人へ詰め寄った。
「言え!どこで採った!? 誰が栽培してる!? どこに隠してる!!」
「………」
村人全員が無言を貫く。
(口止め、守ってくれてる……ありがとう)
悪徳商人は癇癪を起こした。
「お前!そこに立ってろォ!!」
そして村人の一人へ手を上げた。
ばしんッ!
「っ……!」
「やめてください!!」
私は急いで駆け寄り、倒れた村人に小瓶を差し出した。
「飲んでください!」
ポーションを飲むと、村人は一瞬で顔色を取り戻した。
「ひ、ひぃ……治った……ありがとうカイくん……!」
悪徳商人はその光景を見て露骨に後ずさった。
「ぽ、ポーション……!? 何者だお前……!」
「薬草の出所、知りたいんですよね?」
「……あ、ああ!」
「じゃあ、見せますよ。場所はダンジョンです。」
悪徳商人の顔が引きつった。
「だ、ダンジョン……? あんな危険地帯に子どもが入れるか……!」
「入れますよ。薬草、たくさん生えてるので」
村人たちは小さく頷いた。
「行くなら自己責任でお願いしますね」
悪徳商人は何かを勘違いしたらしく、顔を真っ赤にして叫んだ。
「馬鹿にしやがって! いいだろう! 案内しろ!!」
―――
村人たちも、面白がってぞろぞろとついてきた。
リオは隠れながらついてきて、こっそり状況を監視していた。
(……多分こうなる気はしてた)
薬草畑(柵の中)が見えてくる。
「ここです」
「……っっっ!? あ、ある……薬草が……! しかも良質……!」
悪徳商人は一気にテンションが爆上がりし、柵を乗り越えた。
「全部摘む! 摘み尽くす!!」
「ちょっと! 柵の外は危険ですって!」
「黙れガキ!! 金になるんだよ!!」
その瞬間――村人の一人が私の口をそっと塞いだ。
「カイくん、言わなくてええんよ……」
「え、どういう……?」
「言わんでも、すぐ分かるけぇ……」
ぱしゃん……
ぬる……ぬる……
スライムの影が、商人の周囲を囲み始めた。
「……あ?」
気付いた時にはもう遅い。
「ぎゃあああああああああああ!!!? やめろ!来るなぁぁあ!?」
スライムは草を溶かす。
つまり――
人間にも容赦なく溶かす。
「ひいいいい!! 助けっ――ぎゅる……」
悪徳商人はスライムに飲まれ、あっという間に消え去った。
残ったのは、音もなく光る“魔石”だけだった。
―――
再び豪華な馬車が村へやってきた。
今度は貴族様が同行していた。
「この村で薬草が異常に流通していると聞いた。商人が行方不明にもなっているそうだな?」
村人たちは声を揃えて言った。
「商人さんは……ダンジョンに入ってから帰ってきません」
「そうです。あそこは危険ですし……」
「わしら、止めたんじゃけどなぁ……」
(いや……止めてなかったよね?)
私は苦笑い。
その横で、木陰からリオがひそかに覗き、
「……因果応報は実在したか」
と鼻で笑っていた。
―――
視察のため、貴族は村の奥へ。
そこには――広がる緑、育つ薬草、畑の準備、整備された土地。
「……なんと……! これは薬草が“育つ土地”だったのか……!」
(いや、私が育てたんですよ……)
と言いかける前に、貴族は勝手に話を進めていった。
「これほどの土地なら薬草が採れて当然! この村は大変貴重な拠点だ。国として支援が必要だな!」
(思いっきり勘違いしてる……まぁいっか)
「この地の安定供給は王都にとっても重要。我ら貴族も“生活支援ファンド”に加入しよう」
「ありがとうございます!」
こうして――悪徳商人の騒動は幕を閉じ、むしろ村への支援が強化される結果となった。
(悪い人が勝手に減って、良い人が勝手に増えた……お得だ……)
十歳の商人は、また一歩、世界を良くする方向へ進んでいく。




