連邦の影で、商人は灯をともす
連邦の国境を越えると、予想以上の荒れ果てた景色が広がっていた。
「……うわぁ……」
「ひどいな。土が死んでる」
「ぷる……(しょんぼり)」
帝国よりさらに酷い。
街道は崩れかけ、家々の屋根は穴だらけ。
何より人々の顔が“絶望”で固まっていた。
「商人さん……食料は……?」
「薬はありますか……?」
子ども達に囲まれ、私は即決した。
「ありますよ! しかも“適正価格”で売ります!」
「え……!? そんな商人、連邦にいませんよ……?」
「だから来たんです!」
リオが荷台からものを下ろす。
・卵
・乳
・薬草
・ポーション(質は控えめ)
・干し肉
・毛布
「ぷるっ(はいどーぞ)」
スライムまで配布に参加する。
「こんな安い値段で……!?」 「信じられん……!」 「帝国の商人みたいに優しい……!」
(帝国の評判が今ちょっとだけ上がった……)
そして数時間後。
連邦の貧困区は祭り騒ぎになっていた。
―――
「カイさん!!パン焼く材料ください!!」
「薬草もっと仕入れたい!!」
「ポーション農法、教えてください!!」
私は、帝国でやったのと同じ“商人講習”を開いた。
「薬草はこう育てます。土地が痩せてても、ポーションを少し混ぜれば回復します」
「な、なんと……!」
「この小瓶の値段は、ここより少し離れた都市での相場に合わせます。みなさんも“搾取されない商売”を覚えましょう!」
「「「おおおおお!!!!」」」
(よし、心は掴んだ!)
リオも淡々と子どもに教えていた。
「その剣は間合いが広い。振るより突く方が強いぞ」
「は、はい!!」
(リオ先生、人気出てる……)
スライムは子どもに抱きつかれていた。
「ぷるぅ♡」
―――
夜。
古い倉庫を借りて寝泊まりしていると、現地の老人がこそこそと話しに来た。
「……カイ殿。ひとつ、聞いてほしいことがある」
「なんでしょう?」
老人は深く息を吐いた。
「連邦は今……“戦争で儲ける連中”に乗っ取られとる」
「やっぱり……」
リオも腕を組む。
「帝国を狙ったのも、その連中か?」
「ああ。奴らは戦争を起こし、武器と食料と奴隷を売り、富を独占しとる」
「……!」
「特に“統一商会連盟”。あれが黒幕だ」
(商会……? 私の“商売仲間”とは真逆の存在だ……)
老人は言った。
「奴らは“戦争こそ最高の商売”と考える悪魔よ。お前さんみたいなまともな商人は、この国では潰される」
「…………」
胸が熱くなった。
怒りなのか、悔しさなのか、
それともただの憂いなのか。
私はひとつ決めた。
―――
次の日。
連邦の中心部へ少し進むと、あからさまに“裕福すぎる地域”が現れた。
豪華な商館。
やたら強そうな護衛。
そして“不自然なほどの平和”。
「……ここだけ、別世界ですね」
「商会連盟の本拠地だろうな」
すると黒服の男が声をかけてきた。
「君が“帝国を救った商人”か?」
「え。知ってるんですか?」
「当然だ。──戦争を邪魔する者は目立つ」
(絶対ろくでもないやつだ……)
男は冷笑して続けた。
「連邦は今、帝国を飲み込む準備を進めている。武器も、人材も、宣伝も整えてな」
「戦争をする理由、本当は無いんですよね?」
「商売だからな」
「……」
男の目は笑っていなかった。
「君もどうだ? 戦争に乗れば、莫大な利益が手に入るぞ。カイ君」
「断ります」
即答した。
男の表情が変わる。
「そうか……残念だ。では君には“消えてもらう”しかない」
「やっぱりそう来た!」
リオが一歩前に出た。
「カイに手を出すな。斬るぞ」
「ぷるっ(ぷんぷん)」
黒服の男は肩をすくめた。
「良いだろう。なら戦争で潰してやる。我々の“商売”を邪魔した代償だ」
そして去っていった。
―――
「……リオ」
「どうした」
「私、わかりました」
「何をだ?」
「戦争の原因は“貧困”じゃなくて、“戦争で儲けたい人がいること”なんです」
「……そうだな」
「なら、私は商人として……その“商売そのもの”を壊します!」
「ぷる!!(やる気!)」
リオはため息をつきながらも微笑んだ。
「……お前が言うなら、俺はついていくさ」




