皇帝の正体と、暴走する帝国
黒鎧の男はエリクサーの光をじっと見つめていた。
「……カイ殿。私が誰か、もう気づいているのだろう?」
「えっと……だいたい」
(というか、“皇帝”以外にいない)
カイはじっと男の顔をみた。
端正で整った、しかし疲れ切った顔。
その瞳は、帝国全土を背負った者の重さに沈んでいた。
「改めて名乗ろう。──私こそ、帝国皇帝、ラインハルト・エスローグだ」
「やっぱり!!?」
「ぷるっ(知ってた)」
冒険者たちが一斉に土下座した。
私は確信した。
“善意商会トップ”=“皇帝”だったと。
―――
「カイ殿。善意商会が何をしているか、知る必要がある」
皇帝は静かに語り始めた。
「善意商会は、他国で適正に仕入れ、帝国で適正に売る。ただそれだけの組織だ」
「普通の商会じゃないですか?」
「そう。だが帝国において“それ”が異常なのだ」
(ああ……なるほど……)
皇帝は苦い笑みを浮かべた。
「帝国には、税を引き上げ“独占的に利益を貪る家臣”が多い。彼らは裏で繋がり、帝国を実質的に支配している。私は彼らの反乱を恐れ、何もできなかった」
「……皇帝なのに?」
「皇帝だからこそ、何もできなかったのだ」
皇帝の声は震えていた。
「税の値上げも、商品の独占も、全て“家臣の独断”。私はそれを止められなかった。──経済は、私を無視して勝手に動いていたのだ」
冒険者も、私も、リオさえも沈黙した。
「そう。それを証明するために、私はここに来た。“皇帝がここに居ても帝国は回る”と示すために」
(つまり……本気で国を立て直したい人なんだ……)
「カイ。善意商会の内部も見てきたが……すごいぞ」
「どうすごいんです?」
「“搾取を嫌う商人たち”の集合体だ。帝国の腐敗に耐えきれず、適正価格販売を始めた者たちの秘密組織だった」
「やっぱり!」
「各国から仕入れ、帝国で救済価格で売る。見返りは少ないが人々に感謝される。そして……皇帝自身がそれを支えていた」
皇帝は恥ずかしそうに視線を逸らした。
「せめて民の命だけは守りたかった。だから善意商会は私にとって“最後の希望”だったのだ」
(帝国改革……皇帝……国家……強敵……あれ……? ドラゴン……雇えるんだった……)
「皇帝陛下」
「なんだ、カイ殿」
「ドラゴンを雇いませんか?」
「……はい?」
リオが頭を抱える。
「カイ……もう少しオブラートというものを……」
「いえ、むしろストレートに言わないと伝わらないので!」
「ぷるっ(天才か無謀かどっちか)」
「実はドラゴンが“金貨一万枚で協力する”と言ってまして」
「一万……? いや安すぎるのでは……?」
(皇帝の価値観がドラゴン寄りだ……)
「というわけで、まず十万。前金として持って行きましょう!」
「何故十万なんだ……?」
「“信頼を買う値段”です」
皇帝は少し黙り──ふっと笑った。
「面白い。そういう商人が帝国には必要だったのかもしれない」
リオはため息をつきながら言う。
「……よし。行くぞ、カイ。皇帝を連れてドラゴンのところに行くなんて、前代未聞どころじゃないがな」
「ぷるっ!」
私たちは揃って転移陣に立った。
皇帝
リオ
スライム
そして私。
目的はただひとつ。
帝国再建のために、ドラゴンを味方につけること。
「では──行きましょう。100階層へ!」
光が包み、視界が揺れる。
こうして、帝国の運命を背負った4人は、最深部へと向かった。




