悪徳商人と善意商会
ドラゴンとの邂逅から戻り、再び地上へ出た私たちを待っていたのは──
「……あれ?」
入口の岩陰に、見覚えのある商人が立っていた。
「あっ!? お前、あの時の適正価格の坊主か!!」
「え、悪徳商人さん!? どうしたんですか、その……灰みたいな顔」
「どうしたもこうしたもねぇ! 冒険者からぼったくれなくなったせいで税が払えねぇ! 店ごと国に持っていかれたんだよ!!」
「……あ、やっぱり?」
「お前が“正しい商売”なんか教えるから……! うわああああん!!」
(泣くんだ……)
リオは呆れ顔。
「自業自得だろう」
「わかってんだよぉ……!」
悪徳商人は地面に崩れ落ちた。
(……うーん。ここまで落ちてるなら、逆に“人材”として使えるかも)
「よし、じゃあ雇用します」
「は?」
「あなた、公証人として働いてください」
「こ、公証人……?」
悪徳商人は一瞬ぽかんとしたが──
「……い、いいのか……? 俺みてぇなクズでも……?」
「クズなのは“昔の仕事”であって“あなた自身”ではないですよ」
「……坊主……!」
泣きながら抱きついてきた。
「やめろ。泣くな。離れろ。暑い」
リオが軽く押し返す。
「ぷる……(なでなで)」
スライムは慰めていた。優しい。
―――
「さて、上の階は危険だから、拠点をダンジョン入り口にします」
「賛成だ。地形変動もないしな」
「ぷる!」
奥から拾ってきた資材を運び込み、
・薬草畑
・簡易住居
・ポーション工房
・物資倉庫
などを整備していく。
悪徳商人は荷物運びをしながら感動していた。
「すげぇ……ここ、兵士も来ねぇし、魔物もポーション撒きゃ逃げるし……これ“安全で実入りのある土地”じゃねぇか……!」
「そうなんですよ。ダンジョンは使いようです」
「お前ほんと商人か……?」
(商人ですよ!)
「よいしょ……この辺に植えれば……」
小さな畑を耕し、スライムがふよふよしながら水を撒き、リオが獣を狩って肉を持ち帰り──
生活はすぐ安定した。
「飯が食える……飯が食える……!」
「よかったですね悪徳商人さん」
「お前、もう“悪徳”とか呼ぶなよ……!」
「じゃあ、“元悪徳商人さん”で」
「変わんねぇー!!」
「さて、次は帝国の“黒い市場”を調べたいですね」
「黒い市場……?」
「帝国の政治が腐ってるなら、裏側で動いている“善意の商会”もあるはずです」
「善意……?」
「悪政の裏には必ず“困っている人を助けようとする組織”があるものなんですよ」
私が言うと、リオが頷く。
「民衆を救う裏組織か……。帝国の密偵とは別勢力だろうな」
「ぷる(わくわく)」
そこで、悪徳商人の肩をぽんと叩いた。
「というわけで、あなたにポーションを渡します。これを持って、裏商会と接触してきてください」
「えっ!? お、俺が!?」
「はい。“悪い顔の商人”って、裏市場では信頼されるんですよ」
「そんな信頼いらねぇよ!!」
「大丈夫です。あなたならできます」
「……やるよ……! 俺を見捨てなかった坊主のために……!」
悪徳商人は拳を握りしめ、ポーションの入った袋を抱えて街へと向かった。
(さて……“裏”に動きが出るのは、もうすぐだ)
―――
帝国の商業構造は腐れきっている。
しかしその裏では、帝国を本気で救おうとする“善意商会” が動き始めていた。
そしてカイは知らない。
その善意商会のトップが、帝国皇帝その人だということを……。




