揺らぐ迷宮と、帝国冒険者たち
帝国のダンジョンは、王都のものとはまるで違った。
入口からして荒れ果てているのに、中はやけに人が多い。
「……冒険者、多いですね」
「帝国は“ダンジョンで稼ぐ国”でもある。税は高いが、ドロップ品の価値も高いからな」
「ぷるっ(いっぱい!)」
スライムは嬉しそうに跳ねていた。
―――
話を聞く限り、一攫千金を夢見て飛び込んでくる者が多いらしい。
「いやぁ、帝国じゃ働いても税金ばっかでな! ダンジョンで当てるしかねぇんだよ!」
「昨日も仲間が落とし穴で消えてよ……はは……」
(……笑ってるけど全然笑えてない……)
「薬草とポーション、必要な方どうぞー! ぼったくりません! 適正価格です!」
「適正価格!? 帝国で!?」
「なんだこの天国は!?!?」
「坊主ありがとよ!!」
冒険者たちが群がってきた。
「ほら、怪我してますよ。銅貨一枚でいいので、これ飲んでください」
「ひっく……神か……?」
「ぷるっ(えっへん)」
(スライムは胸を張らないで)
噂は一瞬で広まり、ダンジョンの入り口はいつしか屋台のような賑わいになった。
私はリオに相談した。
「この状態、帝国の兵士が来たりしませんか?」
「来ないんじゃないか?」
「いやいや、国の利益が減ってますよ? 絶対来ますよ……」
そこに冒険者が笑いながら割り込んできた。
「兵士ぃ? 来るわけねぇだろ!」
「腰抜けで有名だからな!」
「怪我しても治療費が払えなくて死ぬ奴らだぞ!」
「ここに来て怪我したら最後だ!」
「お前らの方がよほど頼りになるわ!」
「ぷるっ(照)」
(……帝国の兵士、もうダメじゃん……)
冒険者の証言を聞いたリオが言う。
「兵士が来ないなら、しばらくはここで安全だな」
「ですね……」
「じゃあカイ。俺は下層を少し見てくる」
「え、危ないですよ?」
「大丈夫だ。ここの冒険者たちの話からして、そんなに強敵は出ない」
「ぷるっ(がんばれ)」
リオは剣を担ぎ、静かに下の階層へと降りていった。
(……とはいえ、あの人が油断するわけないし。本気で調査してくれるんだろう)
私は拠点作りに戻る。
―――
「ここ、湿度も温度も安定してるし……適当に土をならしておけば薬草、生えそうだなぁ」
ポーションを少し撒いてみる。
すると──
ぽわり、と光って薬草が育った。
「やっぱり! ダンジョン農法はどこでも通用しますね!」
「ぷるるっ!」
スライムは薬草の間を散歩していた。
―――
その夜、リオが戻ってきた。
「カイ、ひとつ問題だ」
「どうしました?」
「このダンジョン……構造が“動いている”」
「動いている……?」
「ああ。ランダムに配置が変わる。さっき通ったはずの道が、もう存在しなかった」
「え……」
(え、それ……怖)
「つまり、だ」
「今俺たちがいるこの場所も、明日には“十階層”に落ちているかもしれん」
「落ちるの!?」
「落ちる……かもしれん」
「ぷるっ(こわっ)」
私は頭を抱えた。
「どうしよう……動くにしても危険すぎる……」
「カイ。今は下手に動かない方がいい。冒険者から情報も入るし、兵は来ない。ここは安全圏だ」
「なるほど……」
私は深くうなずいた。
「じゃあ、しばらくはこの拠点で活動します!」
「ぷるっ!」
こうして──
帝国ダンジョン内部に、カイ一行の新拠点が確立された。
外の帝国は混乱している。
商人は暴利を貪り、兵士は腐敗し、国民は疲弊している。
その“異常な帝国経済”の真実に、カイはまだ触れていない。
だが、このダンジョンこそが、帝国崩壊の“鍵”となる場所だった。




